11 光と影 Ⅲ
「あの、それってどういう……」
言いたい事の意味が全く分からなくて思わず狼狽えながらそう言うと、ブルーノ先生は静かに答える。
「言葉のままだよ」
そう言って一拍空けてから続ける。
「確かにお前の力は評価されるような物じゃなかったかもしれない。それで力を振るっても他人の力借りてるだけで、お前自身が魔術師として優れている訳じゃ無いのかもしれない。だけど……冷静になって考えてみろ。お前は優秀な魔術師になる必要があるのか?」
「え、いや、そりゃだって……」
「お前今朝言ってたよな。困ってる人とかを大勢助けてやれるような仕事をしてえって。それは凄く評価される最高の魔術師でなくても、強い人間だったらやれるだろ」
「……」
「それともなんだ? お前は色んな人からちやほやされる凄い魔術師になりたいから、この学園にいるのか?」
「……いや」
違う。そうじゃない。
勿論当然の事ながら、評価される魔術師になりたくない訳じゃない。
魔術の才能が無いのは俺のコンプレックスと言っても良いわけで、もし色々な人が凄いって言ってくれる魔術師になれるなら、俺はそういう魔術師にもなりたい。
だけど……結局それは、そういう自分が居るのも否定できないだけの話。
才能が無いのが分かっていながらも、必死こいてこの学園受験した理由は、そんな下らない理由じゃない筈だ。
「俺は……魔術使って人を助けるような仕事がしたかったから、この学園を受験したんです」
魔術絡みだろうがそうでなかろうが、職業によってはそれに見合った学歴が必要になってくるパターンが多くある。
そして俺が将来やりたいような仕事は……どれもこれも危険な仕事だ。
それ故にこういう魔術学園の学歴が居る。
そりゃ色々認めては貰いたいけど。
凄いって言って貰いたいけど。
きっとそういうのはあくまで副産物で、俺が欲しかったのはこの先に進む為の資格だろう。
その筈なのにいつの間にか頭の中がバグってた。
多分認められる事に飢えていたんだ。
「だったらあんま変な事で悩むな。卒業までの間超えなきゃならない壁は色々あるだろうけど、それでも卒業してから必要になってくるのは結果を出せる力だよ。その力を得た過程じゃない。お前みたいな目標が定まってる奴はこんな人生の通過点でしかない場所の評価なんて最低限貰えてりゃそれで良いんだ」
そして、とブルーノ先生は言う。
「今のお前は本当に必要な物をちゃんと手にしてる。それでいいんじゃねえの?」
「必要な物……」
アイリスの術式を劣化させてしまうが操れる技。
……なりたい何かになる為に必要な力。
やりたい事をやれる力。
「分かったか? 分かったら小難しい事考えずに気楽に行こう。これからは気楽にやれる事をやってさ、魔術師なんて狭い括りじゃなくて、高く評価される人間って奴を目指していこうぜ」
……ほんと、それが魔術学園の教師のいう事かよ。
でも、なんか凄い……悪くない感じだ。
そして今の話を聞きながら、自然とあの追試が終わった後のアイリスとの会話が脳裏を過ってくる。
あの時のアイリスも、別に魔術師としての俺の事を評価してくれた感じじゃない。
そんな狭い範囲の事を言っていた訳じゃなかった。
俺という人間の事を、すげえ褒めてくれてたんだなって。
改めてそう思うんだ。
そしてあの時よりも、あの時の言葉がなんとなく深い所にまで言葉が届いた気がする。
ようやく俺の理解が及んだような、そんな気がする。
「……はい!」
ブルーノ先生の言葉に、強くそう返す事が出来た。
勿論評価されたいなんていう承認欲求も嘘ではないから、完全に吹っ切れた訳では無いけれど。
それでも……まあ、今日とかこの後光り輝くアイリスとは真逆に影の様なポジションに徹しても、そんなにダメージを受けずに元気に帰宅できるような気はしてきた。
「良い返事だ」
「……ありがとうございます」
「気にすんな。生徒のメンタルケアすんのも教師の仕事だ……一件熟す事に給料上がったりしねえかな?」
「台無しだ!」
「よしよし表情明るくなったな。彼女さん戻ってくる前に復帰して良かったぜ」
「いやだからそういう関係じゃねえ!」
そういう話をしている所で、控室の扉が開く。
「ん? 一体何の話をしているんだい?」
「いや、大した話してねえよ」
そう言って俺は笑みを浮かべる。
「……そっか」
何故か分からないけど、アイリスはどこか安堵するような表情を浮かべた。
……何に対する安堵?
いや、まあ分からないけども。
「よし、そろそろ時間だ。二人共、移動しようぜ」
「「はい!」」
時間だ。
前向きにアイリスのアシストをしていこう。
現状論文を書いて先へと進もうとしているアイリスにとっては必要であろう評価を勝ち取る為に。
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