第7話 流れ変わったな

 昼休み、教室の机で一人昼食を食べている。

 最初の内は寂しさもあったけれど、もう慣れてしまった……

 でも、このお弁当は海菜が作ってくれたもの。 

 感謝しつつ、箸を動かしていると、机に影が落ちた。


「あ、あの……」

「はい?」


 いつの間にか、女の子が目の前に立っていた。

 こちらをじっと見ていた。

 長い黒髪に白い肌。

 一瞬、幽霊かとも思ってしまうが、それはすぐに否定された。


「やっぱり! う……じゃない! えっと~、そのぉ~」


 お昼ごはんを食べていたら、見知らぬ女の子が目の前でくねくねしだす、なんて状況に今まで出会ったことがなかったからか、戸惑ってしまう。


「お、お話があります」

「そ、そうですか……」


 困惑しすぎて、返答を間違えてしまった気がする。


「あの……ごめんなさい、僕、宗教とかは……」

「やっぱりこの声……ふぁ」


 次は顔を赤くして目を輝かせている。

 これは……やばい人だ。


「す、すみません。ちょっとお手洗いに……」


 よくわからないけれど、気づかれずに教室を出ることができた。

 なんだったんだろう……


「ま、待ってください~!!」

「っ!?」


 教室から猛ダッシュでこちらに来る。

 こわいこわいこわい……


 逃げようとしたけれど、さすがの運動不足。

 簡単に追いつかれ、空き教室の中に引っ張り込まれた。


 そして壁ドン。


「はぁはぁはぁ……」

「ひっ!」


 思わず息をのむ。

 やばい、完全に変態だ。

 壁ドンは絶対好意を持たれていると確信できる人にしかやっちゃだめだから!


「ぅ……う゛ぅ」


 今度はゾンビのような声を出し始めた。

 やばい、恐怖で少し泣きそうだ……


「う、ううう、うみゃ!」


 ……はい?


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴った。

 その音で我に返る。

 逃げなきゃ!


 なぜか、今度は目を回している女の子を後にして、空き教室を抜け出し、自分のクラスへと逃げ込んだ。

 流石にこんなに人目がある場所で、あんなことはしないはずだ。


 深呼吸をして、落ち着いてから、まだお弁当を食べている最中だったことに気づく。

 さっきのが予鈴で時計を見ればあと3分。

 急いで食べないと、残して海菜に悲しい顔をさせるわけにはいかない。

 それに、なにか気を紛らわせたかった。



¥¥¥



 昼休みから二つ授業を受けている間に、だいぶ落ち着いた。

 大丈夫、さっきのはちょっと具合の悪かった女の子。

 もしくは、夢。

 すこしお腹が膨れて昼寝してしまったのかもしれない。


「山梨 海斗君」

「えっ、あっ……」


 さっきの女の子が目の前にいた。

 そこからの僕の行動は速かった。

 鞄を手に取り廊下に……


「逃がしません」


 腕を掴まれた。


「ひっ」

「さ、着いてきてください」


 大人しくついて……引かれていく。

 海菜、兄ちゃんもうだめかもしれない。


 さっきの空き教室。

 中に入れられ、後ろ手で鍵を閉められた。

 女の子は深呼吸の後、鋭い目つきで僕を見た。


「ふぁ」

「……」

「ファンです! サインください!!」

「……はい?」


 

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