第3話 『ばか×ろわ』
『ばか×ろわ』以前の配信では、配信の総視聴回数は数十程度、登録者は二桁、しかも三桁と一桁だったら、一桁の方に近い二桁しかいなかった。
Vtuberを始めてまだそう経っておらず、配信自体も拙かったので、今考えれば、当然なのかもしれない。
しかし、やはり精神的苦痛が大きく、趣味でやってるということもあり、続ける意味があるのか、と今考えれば、甘いことを考えていた。
そんな中、初回『ばか×ろわ』配信だけ、視聴回数が10万といった飛びぬけた数字となり、当初、表示のバグを疑った。
しかし、登録者も五桁に届きそうになっていることや、メールも大量に届いていたり、SNSでも話題になっているところを確認した末、現実だと認識した。
急いで海菜を呼び、そのことを話すと、ただ、「登録者増えてよかったね~」と普段のトーンで話していた。
そして、海菜と色々、確認しているうち、一件のメールが大手のゲーム会社から送られてきていたことが分かった。
ゲームをやる人ならば、ほとんど知っているような、大手の企業であったので、偽物だと思った。
しかし、その企業のホームページに載せられていたメールアドレスと一切違いがないことを確かめて、送られてきたメールの内容を確認した。
簡単に言ってしまえば、そのゲームを売ってほしいという内容であった。
経営権などを譲ってほしいといったもので、詳しい話は本社でと住所や交通費は全額負担する旨などが書かれていた。
それに対する海菜の返答は、「売っちゃお? 管理とか面倒だし」と、ひどくあっさりしたものだった。
後から聞けば、売った後も調整などで、しばらくは世の中に出回らず、僕が独占でき、予告が出た時には、検索で僕の配信のアーカイブが見られる可能性が高いなど、色々考えてくれていたらしい。
その後、両親に相談、契約なども海菜の意見を聞いた父さんがやってくれて、無事に譲ることになった。その時の金額は初めて見るような金額で、少し海菜が怖くなった。
後日、その会社から『ばか×ろわ』がリリースされることが公表された。
それを受けて、配信には、さらに視聴者が来てくれるようになった。
最初は僕が作ったと勘違いしているようなコメントも来ていたけれど、そのうち来なくなり、配信を楽しんでくれている人が残った。
海菜は、「ゲーム自体がバカゲーだから強さや上手さよりも面白さを求めたんじゃない」と、言っていた。
そして、海菜は数か月後に迫っていた高校受験も辞めた。
両親も僕も行くことを勧めたが、「高校に行ったとして、ゲームを作る以上に私が今後稼げるとは思えない」との言葉で、しぶしぶであるが認められ、今現在も海菜はゲームを作り続けている。
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