第84話 すたーとぉ

「準備はいい?」

『う、うん』

「俺も大丈夫」


 大会開始直前、最後に通話をしていた。


「これからは完全に『銀河水玉』と『山幸うみ』だから」

『ふぅ……大丈夫』 

「じゃあ、頑張って」

『うん!』

「それじゃ」

『ありがとう』


 海菜が銀河さんとの通話を切った。


「兄ちゃん」

「うん」

「私も見てるから。頑張ってね~」

「ありがと」


 海菜が部屋を出ていく。

 頑張ろう。



\\\



「はい、配信始まりますよー! 今日は、『ばか×ろわ』です! 今回は『VBC』に参加させていただく、ということで、現在は待機中です。お知らせ動画でも言っていましたが、初めて見たよという方向けに改めて伝えておきますね? 今回の配信ではコメントはこちらから見えません。今も見えてないです。一応、Vsomさんはコメント見てもいいよーと言ってくれてるんですけど、やっぱりコメントに反応できないので、今回は表示してません。だから、全部私の独り言です。恥ずかしい。さて、では、大会開始まで、しばらく私の独り言を聞いていてください。まずは、そうですね……初めて『ばか×ろわ』やった時の思い出とか話しましょうか――」



\\\



「こっ、こ……ふぅ……ちょっとやり直しね! 今のなし! 水飲むから待ってて!」


 もう、何やってるの!?

 最初から失敗して、じゃない。

 だめだめ、落ち着いて、落ち着いて……


「よし! こんにちは、銀河水玉です! 今日は、『ばか×ろわ』の大会の日です! 先週お知らせしたんですけど、えっと、コメントは今は見えるけど、試合中は切ります! だから、今のうちに応援コメント頂戴! めっちゃ緊張してるから! ……『どっちに緊張してるの』ってなに? どういうこと? そんなの、た、大会の方ですよ?」


 セーフセーフ……


「『頑張って』ありがとー! 頑張るねー! 1人でも倒せるといいなー。『ほんとにうみくんくるの?』ほんとですよ! つりじゃないから! もうそろそろ……かけていいみたい。ちょっと深呼吸するね……」


 深呼吸深呼吸深呼吸……


「よし、い、いくよ?」


 ちょっとでも緊張を紛らわせるためにコメントを見ながら、山幸さんに通話をかける。


「……あ、もしもし、銀河水玉です。山幸うみさんでしょうか?」

『はい。山幸うみです。こんにちはー!』

「今日はよろしくお願いします……」

『よろしくお願いしまーす!』

「み、見てる、みんな? 本物だよ!」


 前のコラボからもう、うみくんファンであることはバレてるから、隠してない。

 芸能人見てキャーキャー言ってるのと変わらないからね。


「『ガチじゃん』ってそうだよ!? ガチのうみくんだよ!? 『なんで敬語なの』って、確かに。敬語要らないって言われてるんだけど自然に……『うみくんやさしい』ほんとそうだよ! もうすっごいなんて言うか物腰柔らかくって、逆に緊張しちゃう……『うみくん待ってない?』ご、ごめんなさい! 山幸さん、お待たせしました!」

『いえいえ……もう少し話したいところですけど、そろそろ連絡来ますので、準備しましょう』

「は、はい!」

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