クラスメイトに魂(中の人)バレした俺の話

皮以祝

第一章

第1話 こんにちは、Vtuberです

「あ゛ぁぁ!! ……ぶつかってしまいました。もう一度行きます」


 僕、山梨海斗はVtuber『山幸うみ』として配信中。

 今やっているゲームは、『それいけ イワシ子ちゃん』という、横スクロールの避けゲー。

 主人公、イワシ子ちゃんは、臆病で、一つの場所にとどまり続ける群れから抜け出し、今まで行ったことのない景色を見ようと、広い海を探検するが、その道中で様々な海洋生物やらに襲われる、という物語のゲームだ。

 文章が英語だけれど、そもそも文字自体それほどないので、プレイ自体には問題なかった。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」


 しかし、難易度には問題があった。


¥¥¥



「さてさて、そろそろ時間なので、配信おわりまーす。ありがとうございましたー」


 そんな挨拶の後、エンディングとスペチャ読みを終え、今度こそ本当の意味で配信を終えた。


「兄ちゃん、終わった~?」


 配信を閉じ、ヘッドフォンを外したタイミングで、背後から声がした。

 振り返れば、妹の海菜かなが扉から顔をぴょこんと覗かせている。


「終わったよ」

「そっか~」


 確認して、部屋に入ってくると、チェアに座る僕の膝の上に座り、PCの画面を眺め始める。


「同接4万だったか~。登録者は、1500増? んー、思ったより少ないかな」

「そうか? 結構増えてないか?」

「ん~、世界でこのゲーム配信してるのは兄ちゃんだけなんだよ? 見てる人数はいいけど、増えた登録者数が……まあ、配信終わったばっかりだし、これからだね~」


 今回、配信していた『それいけ イワシ子ちゃん』は実は、正式リリース前。

 つまり、僕は先行プレイをしているということになる。

 正式リリースは、海外版『Let's GO iwashi girl』が1か月後、日本版はその半月後。

 そんなゲームを配信していたこともあって、今回は多くの視聴者が来てくれていた。


「あれ、難しすぎない?」

「全然クリアできてなかったね~」


 今回の配信は大体2時間で、そのうち1時間半はプレイしていた。

 しかし、一面すらクリアできなかった。


「あの、網? 網目もだけど、網と網の間隔狭すぎないか? あれから先に全然進めなかったんだけど」

「兄ちゃん、4つ目くらいまで行けてなかった?」

「そうだけど、何個で終わりかもわからなかったし、網絡まったし」

「それはゲームだから、深く考えないでよ~」

「しかも、1-1ってことは1-2もある?」

「そうだね~」

「あ~、明日はせめて一面はクリアしたい……」


 明日は土曜日で、学校も休み。

 4時間くらい配信をしたい。


「あっ、トレンドのってるじゃん」

「ほんとか!?」


 見ればトレンドに、『山幸 うみ』の名前が載っていた。

 ほかにも『それいけ イワシ子ちゃん』の文字も。

 最近ではVtuberの名前がトレンドにのることも増えてきていて、新しくVtuberに触れてくれる人も増えてきているように感じる。

 僕の配信にもVtuber見るの初めてとコメントする人もたまに見かける。


「でも、注目されてよかったね~」

「それはお互い様じゃないか?」

「そうだね~」


 『それいけ イワシ子ちゃん』に関連のつぶやきを読みながら、海菜は僕の手を自分の頭に乗せた。

 抵抗することなく、その柔らかい黒髪を撫でると、気持ちよさそうに頬を緩めていた。


「開発者として嬉しいな~」


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