第31話 初華さんは壁ドンがお好き?
「それでねー」
お昼の空き教室に入った瞬間、星那さんが口を開いた。
「宙音がまたカイト連れてきてーって」
「はい?」
「あんまり話せなかったからって」
「そう、ですか?」
どちらかと言えばもう来るなだと思ったんだけど。
「あとはー、あー、カイトにVtuberについて聞きたかったんだよね」
「ぐっ、ごほっ……」
飲んでいたお茶が変なところに入って……
「海斗くん、大丈夫ですか?」
「ごほっ……あ、ありがとうございます。もう大丈夫です……」
初華さんが背中をさすってくれている。
「なんかごめんねー?」
「い、いえ。それよりなんで俺に?」
「え、だってカイトも」
「星那、ちょっと来なさい」
「え、ちょっとー?」
初華さんが星那さんを連れて行ったので、空き教室で一人になる。
そろそろ諦めるべきかもしれない。もし、今後もつきあいをつづけるのならいつか打ち明けていたかもしれない。星那さんがどこで分かったのかはわからないけど、初華さんは声だけで気づかれたのだから。
家に帰ったら海菜に正直に話すと伝えて、賛成してくれたらそうしよう。
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「ちょっと、どうしたのー? わっ!」
壁ドンされた。
「どういうつもり?」
「な、なにがー?」
「星那、うみくんを知ってるの?」
「あ、初華も知ってたのー? なんだー」
Vtuberとかぼかさなくてもよかったんだー。
「……一回殴るか」
「なんで!?」
初華がめっちゃ怖いこと言ってる!?
「海斗くんが嫌がってるってわからない?」
「だって」
「だってじゃない! いい加減にしなさい!」
おかーさんより怖いんだけど……
「Vtuberに中の人はいないの」
「いるでしょ?」
「そういうルールなの!」
「だっていないわけ……」
ため息をついて、初華がはなれる。
「いい? Vtuberと中の人は別なの」
「どーいうことー?」
「星那は映画みる?」
「あー、みたよー。最近話題の恋愛アニメ映画。宙音が行きたいっているからー」
「みてどう思った?」
「えー、どうっていわれても……」
「じゃあ、主人公の名前は?」
「えっとー、美佳だよ」
「その美佳にも声優はいるってわかってる?」
「うん。綿鍋 沙耶って人」
「その沙耶って人は声をつけてるだけなの。だけっていうと失礼だけど、美佳の性格とか、見た目とか、周りの環境とか他のことは別の人が考えたものってことはわかるでしょう?」
「原作ってことー?」
「そう。その『美佳』ってキャラクターは色々な人が力を合わせて作り上げたものなの。沙耶って声優だけがいても成り立たないの」
「……そうだねー」
「それに似たものなの。もちろんだけど、Vtuberと中の人を同一人物として扱ってる人はファンの中にもVtuber自身にもいるわ。でも、それは中の人の自由なの。海斗くんも一緒。一切関係のない私達が口をはさんでいいことじゃないの」
「う、うん……」
「よくわかってないって顔してるから覚えておくことは、本人がいいって言ってないなら勝手に中の人の話をしない。いい?」
「うん……わかった……」
初華と教室に戻る。
「ごめんなさい、海斗くんを残してしまって」
「こっちこそごめんなさい」
「その、カイト、ごめんね?」
「こちらこそごめんなさい」
「でも、えっと……」
「星那?」
「違くて、えっと……」
星那さんは混乱しているように見えた。
「宙音はVtuberなの!」
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