第51話 海菜せんせー

 家に帰った後、海菜に頼んだ。


「別にいいよ~」

「ありがとうな」

「けど、そんなにすぐ手伝えないよ? ほら、集計あるし~」

「いや、そっちは俺がやる」


 小さなことだけど、向き合う機会になるだろうし。


「え~、間に合わないでしょ~」

「なんとかする」

「……も~、間に合いそうになかったらすぐに言ってね~」



\\\



 兄ちゃんに酒々井宙音の連絡先を教えてもらった後、すぐに連絡を取った。

 明日、木曜は、ちょうど学校の創立記念日だとかで休みらしい。

 私には時間がいくらでもあるので、明日向かうことにした。



\\\



 目の前には普通の一軒家。チャイムを鳴らすと、一人の少女が出てきた。

 顔写真と同じ顔を持っているので、これが酒々井宙音だろう。


「こんにちは」

「い、いらっしゃい?」


 なんだそれは。


「おじゃまします」

「はい、どうぞ……」

「部屋はどこですか?」

「あ、こっちです」


 部屋もそういう機材があるくらいで普通の部屋だ。


「パソコン開いて」

「え、はい……」


 椅子に座らせて、操作させる。


「先に言っておくけど、私がこれから言うことがすべて正しいわけじゃないし、従った結果、今以上にダメになるかもしれない。それでもいいなら、アナリティクスを開いて」

「……」

「次はそこの視聴者の場所」

「……はい」

「……気持ち悪い」

「え!?」


 何か驚いているけど、そのデータが気持ち悪いと言っているだけだ。


「何を意識してる?」

「配信中は、その……」

「はっきり喋って」

「何にも意識してないです!」

「ふーん……」


 何にも意識してないってことは、ただ自然体でってことか。


「これ、わかる?」

「えっと、男女比ですよね……?」

「これが、あなたの強み」

「これが、ですか?」

「男女比がほぼ1:1というのは、普通じゃない。『山幸うみ』は男女比が女の方に偏ってるし、Vは声と絵の関係で異性の視聴者が多い傾向がある」

「そうなんですか……」

「また操作してもらう」



\\\



「……一番の問題はこれ」

「平均視聴時間?」

「これが低すぎる」

「そうですか?」

「そもそも、長時間配信は視聴時間が短くなる傾向はある。途中から見る気は起きないって人もいる」

「そう、ですか? 途中からでも間に合えば嬉しいんじゃ?」

「そこまで見る価値があるの?」

「うっ」

「別にあなたが悪いわけでもない。いや、始める時期が悪いからあなたのせいともいえるけど、それは置いておくとして。かわいい見た目、かわいい声のVなんていくらでもいる。あなたは目立った特徴がほとんどない」

「そこまで言わなくても……」

「特徴と言えば、最新作のゲームを扱ってること。そういう意味で見る価値はある」

「ほ、ほんと?」

「住む地域によっては到着日が一日以上ずれることがある。特に本人の技術が要求されるようなゲームだと、その一日の遅れを少しでも減らすために情報を取り入れようとする人もいる」

「よく知ってるね……」

「そこは変える必要はないと思う」

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