第9話 ファンサービスってこういうもの?
「兄ちゃん、大丈夫~?」
「……一応」
あれから、毎日のように隙を見られて話しかけられていた。
「最悪さ~」
「うん?」
「たぶん、兄ちゃんが聞けば、アカウント名答えるだろうし~、それ探せばブロックもできると思うんだよね」
「それは……」
「一つの手段としてだよ~。そうしたところで別のアカウント作られたら終わりだし、ブロックしたことで逆切れされるかもしれないし」
「……あっちも多分、悪意があるわけじゃないから」
「悪意あるなしは関係ないよ~?」
「ちょっと厳しめに言ってみる。それでも駄目だったらまた何か考えるよ」
「兄ちゃんがそれでいいなら」
¥¥¥
「昨日の挨拶運動も最高でした! 何回もリピートして寝るまでずっと……」
「
「う、うみきゅんに名前を!?」
クラスメイトに訊ねたところ、そういう名前らしい。めちゃくちゃ緊張した……
「もうやめてください」
「え……?」
「俺は胡桃さんの言う『うみくん』ではないです。人違いしてませんか?」
「してません! 貴方は人気Vtuberのうみくんです! どうして認めてくれないんですか!?」
「Vtuberは名前の通りバーチャルな存在ですよね。現実にいるわけないじゃないですか」
「でも、声が……」
「声が似てる人なんて、世の中探せばいくらでもいるんじゃないですか?」
「そ、そんなこと……」
「俺は胡桃さんの言う『うみくん』ではなく、山梨 海斗です。もうやめてください」
「……」
「それじゃあ、失礼します」
激しい心臓の鼓動を聞きながら教室を出る。大丈夫だったかな。結構強く言っちゃったけど怒ったりしてこないよね。
祈りながらクラスの教室に戻る。
遅れて教室に目元を泣きはらした胡桃さんが入ってきた。
って、同じクラス…!?
え、いや、確かにクラスメイトに名前聞いただけだから同じクラスの可能性も……?
でも、それくらい教えて……いえ、知らない俺が悪いです。ごめんなさい。
先生や周りの人が心配してるのをいながら胃が痛くなった。
あれ、俺のせいだよなぁ……
¥¥¥
本日最後の授業が終わり、帰ろうとすると、目の前に胡桃さんが立っていた。ほんとにいつの間に移動するんだろう……
「う……山梨くん……」
「はい」
ばっ、っと腰を折って手を突き出してきた。残っていたクラスメイトもこちらに注目していた。
「友達からお願いします!」
「……」
まあ、同じクラスなら友達になるくらいは普通なのかもしれない。いないけど。
「お願いします」
「は、はい」
無視し続けるのは俺の精神的に良くないと思い、返事をしたけど、一向に顔を上げる気配がない。
「お願いします」
「……」
差しだされた手を握った。
「ありがとうございます! また明日!」
去っていった。
俺、握手させられたんじゃ……
そんなことを考えている間にも周りの視線が突き刺さってくるので、俺も教室から出た。
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