第8話 厄介オタクご案内~

「い、いきなり何を……」

「あなた、うみくんですよね?」

「いえちがいますけど」


 すこし食い気味に否定してしまった。


「嘘です。私にはわかります。うみくんの声そのままですから。朝も、さっきも、声を聴いてすぐにわかりました。昨日の配信お疲れさまでした。あと、やっぱり土曜日の配信も。長時間配信ありがとうございます。うみくんの声が長い時間聞けて天にも昇る気持ちでした。私、うみくんが配信を始めた初期からずっと見てました。最初の配信のたどたどしい話し方もかわいかったですが、今の話し方も大好きです。サインください!」

「いえひとちがいですけど」

「わかってますわかってます。Vtuberですもんね。大丈夫です。わかってます。誰にも言ったりしません。だからサインください!」

「いえひとちがいですけど。俺ちょっと用事あるので失礼しますね」

「じゃあ、握手! 握手だけでもしてください!」

「いえひとちがいですけど」

「なら、く、靴舐めさせてください」

「いえひとちがいですけどいえひとちがいですけど……」


 迫ってくる女の子から離れながら、すきを見て教室から逃げた。



¥¥¥



「た、ただいまっ!!」

「お、おかえり~、兄ちゃん、どうしたの?」

「海菜!」

「お~、よしよし、どうしたの~?」


 抱きしめられて頭を撫でられた。


 さて、冗談はともかく。


「学校の人にばれたかもしれない……」

「ふ~ん」

「ふ~んって」

「いや~、いつかばれるでしょ~」

「そんな軽く……」


 え、そんなに深刻じゃないの……?


「兄ちゃんはさ~、もうちょっと有名になった自覚持ったほうがいいよ~。ばれるのはしょうがないしょうがない。兄ちゃんのせいじゃないよ~」

「そうかな」

「兄ちゃんはなんて答えたの~?」

「人違いですって」

「ま~、二択だよね~。そのままとぼけ続けるか、いっそ打ち明けちゃうか」

「……」


 とぼけ続けるか、打ち明けるか。


「とぼける一択かな……」

「そうなの?」

「あれは……やばい」

「そっか~、まあ兄ちゃんの好きにするべきだと思うよ~」


 リビングに向かうとトコトコと冷蔵庫に向かい、麦茶を持ってきてくれた。なでなで。


「兄ちゃ~ん」

「よしよしよしよし」


 お返しとばかりに髪をボサボサにする。


「も~」

「ごめんて」

「いいけど。兄ちゃんこれから配信する~?」

「もうちょっとしたらね」

「じゃあそれまで撫でててね~」

「はいはい」


 ソファで俺の太ももを枕にする海菜を撫でる。


「そういえば、今日はハンバーグだって~。よかったね~、兄ちゃんの大好物」

「ほんとか? 今日の配信は気合入れようかな」

「いつもでしょ~」


 海菜なりに元気づけようとしてくれてるのが分かって本当に愛おしい。

 うん、もう忘れよう。

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