第86話 ここほれわんわん

「全然会えないんですけど……」


 走るために必要なスタミナを消費しないように、歩いて進んでいたのだけれど、全然敵に会わない。

 たまに戦闘音がしたので近づいていけば、すでにどこかに行ってしまっていた。

 ニホンオオカミには、一番近くの敵の位置を知ることができるという力があるのだけれど、それは一試合に2回だけであるので、温存していた。しかし、生存人数が10人を下回ると使うことができないので、あと5人が誰かに倒されてしまえば、無駄になってしまう。


「一回嗅覚使いましょうかねー? もう一回はぎりぎりで逃げるために使いましょうか」


 南東の方角、500メートルほど先に一人敵がいるらしい。

 スタミナを調整しながら、近づいていく。

 その敵も南東の方角にゆっくりと進んでいる。

 スタミナを温存するためか、走ってはいないようで、追いつくことができた。

 近くの木の陰から、あちらを窺う。


「魔女ですねー。魔女となら、近距離はこっちに分があるのでラッキーです! 襲っちゃいましょっか!」


 魔女は長距離の高威力攻撃が売りなので、一気に近づいてしまいたい。

 こちらを見ていないタイミングで気を移りながら近づいていき、一気に駆け出す。


「先制攻撃できましたね!」


 魔女が振り返ろうとしたときに、ニホンオオカミがかみつく。

 背後を取れていたので、大体4割くらいは削れたはず。


「このままどんどん攻めちゃいましょう!」



¥¥¥



 多少の魔法攻撃をくらいながらも、先制の攻撃が大きく、そこまで苦戦せずに倒しきれた。


「ようやく一人倒せましたねー! これで面目保てましたかね? って、残り10人になってますね! ラスト『嗅覚』使っちゃいます!」


 マップ上に光点が映り、敵の位置を知らせてくれる。


「え、なんか近づいてきてますね。この状況で近づいてきてるってことは、あっちもニホンオオカミですかね? 私は逃げるために使いたかったんですけど。とりあえず間に合いそうなので、一旦回復しまーす」


 回復をはさみつつ、どんどん近づいてくる敵を待つ。

 相手もニホンオオカミなら背後を取れないので、待ち受けていた方がいい。


「来ましたね!」


 ニホンオオカミが走ってくる。


「あれ、めっちゃ有利ですね? 走ってきてくれてますし。あー、そうですね。私、その場から動いてなかったので、私がニホンオオカミ使ってるってあっちからはわからないんですもんね! あ、気づきましたね! でも遅いですよー!」


 相手がこちらの姿を見て、一度スピードを緩めていた。

 スタミナを回復させてから、さらに近づいてこようか、それとも一度離れようか迷ったんですかね。

 急いで近づき、かみつく。

 流石に背後は取れないけれど、それでもスタミナ分、こちらが有利。


「いきますよ!」

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