第54話 脱線

「人望……」

「そして、『私はこれだけの人数をまとめる力がありますよ』ということ」

「まとめる?」

「代表的なのは、司会者。そこまでじゃなくても、配信の方向を決めたり、そういう統率力をもった人間は重宝される。一人いれば楽だから」

「まとめ役になるといいんですか?」

「なれるの?」

「……」


 たぶん無理。

 クラスじゃ大人しくしてる方だし。

 友達一人しかいないし。

 人前じゃ緊張してよくしゃべれないし。


「さっきも言ったけど、宙音はコラボに向いてる」

「それってどういう意味なんですか?」

「水増し」

「みずまし?」

「コラボ相手は、『銀河水玉』は特別面白いわけじゃない。だから、自分の視聴者をとられたりはしないだろう、と考える。そうかんがえれば、視聴者を取られるというリスクがないうえ、人数を増やせるというメリットはついてくる。多人数のコラボなら誘わない手がない」

「う……」


 もしかして、今までコラボ相談をしてきていた人もそういうこと考えてたの?

 全部断っていたけど、もし参加していたらそういうことになってたの?


「相手が油断してるなら好都合。警戒していないうちにさっさと、視聴者の一部でもとってきた方がいい」


 これ、現実の話だよね?

 ゲームじゃないよね?

 そんな不意打ちしろ、みたいな……


「ただし、ある程度登録者は揃えた方がいい」

「もしかして、責めてます……?」

「ん? あぁ……『山幸うみ』へのコラボ依頼ならいい。むしろ、自分より上の人にはどんどん依頼すればいい。受けてくれれば儲けもの。断られても、何にもない。ノーリスクハイリターンなのにやらない方が変」

「そ、そうなんだ」

「『銀河水玉』が6万だから、まあ、優しく見積もって1万以上のVならコラボするメリットはある」

「1万……」

「それ以下はあまりメリットがない。むしろ、とられる分が多いと思う」


 なんか、改めて考えるとすごいな。

 自分と同い年の……


「あれ?」

「何?」

「えっと、海菜さん学校は?」

「ない」

「同じ学校じゃないですよね? そっちもお休みなんですか?」

「高校には行っていない」

「そ、そうなんですね……」


 不登校、ってこと……?


「失礼」

「う、ウチ何も言ってない!」

「顔に出てる。……私は高校に進学していない」

「そ、そうなんですか」

「高校に行くよりしたいことがあるから」


 海菜さんはなんで高校に行かないんだろう?

 私より頭もよさそうなのに。


「結論としては、コラボをする。簡単に言えば一番楽なのがこれ」

「そうなるんですね」

「宙音が無駄に、価値のあるものと考えてる初コラボは、そこらへんのVに使った方がいい」

「言い方あるよね!?」


 ほんと、今更だけど。


「いや、もしかしたら価値はあるかもしれない」

「え、いや……そこまで強く言ったつもりじゃなくて……私も価値はないとは思うんだけど……」

「……めんどくさい」

「え?」

「初コラボだから緊張している、そういう言い訳ができる。それに、個人で6万っていうのは十分誇っていい」

「え」


 なんか、いきなり褒められた。

 でも、ちょっと嬉しい。

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