第29話 【大暴走と黄道十二星座 9 】
道中で助けたレフィーアさんに連れられてレイラを発見した俺。
俺はレイラを発見したことで心の中で様々な感情が渦巻いた。
しかし、それも数秒という短き時間の出来事。
俺はレイラの元に馳せ参じるためにすぐさま行動する。
「ふぅぅぅ……行くか」
俺は腹式呼吸をしながら、立ち上がって世界樹の木刀を構えた。
木刀をすぅ……と斜め下方向、下段まで下ろしそのまま右足を後ろへと引く。
左足を前へと突き出して、身体の重心を斜めに変化させた。
いわゆる脇構えという構えに似ているが……これは少し違い、それを俺流に応用したものだ。
脇構えは剣を振るための構えだが、この構えは剣を振るためのものではなくて、突撃の前段階の構えである。
そう、今から俺はうじゃうじゃと集まっているあの魔物達に突撃をかけて、レイラと合流して殲滅をするつもりだった。
普通に世界樹の木刀で斬っていくのは、数の問題からとても時間がかかるので、この戦場地に来た時と同じようなソニックブームすらも操る突進で穴を開けて、レイラの所まで移動する、という事だ。
レイラを発見したのは良かったのだが、その身体にはいくつもの切り傷などがあり、体力もかなり消耗していると言うことが分かった。
傍から見れば、まだまだ演舞のようで強く美しい戦いであるのだが、実際に彼女と戦ったことのある俺からしてみれば、動きにいつも程のキレがなくなってきていると言わざるを得ない。
このまま行けば、恐らくはそろそろ本格的に動きが鈍くなってくる頃合いだろう。
そうなれば一気に戦局が傾く。
よってその前に、俺はレイラに加勢するためにこうして彼女の元に駆けつけようという考えであった。
グッと足腰に力を込める。ソニックブームすら操るほどの突撃。
これはその威力故にためが必要となる技である。
更にはレイラと俺のいる場所には崖下と崖上という事で高低差も存在する。これが更にためを必要とする要因だった。
しかし、溜めると言ってもそれは数秒の出来事だ。
そんなものはすぐに完了する。
その瞬間俺は──溜めすぎた脚力で俺は思い切り踏み込む。ピシピシピシッ!と言って俺のその力に耐え切ることができずに崖岩が崩れ落ちた。
(でも、そんなことは既に関係ない……)
俺は崖岩が崩れ落ちる前に、既に地面を蹴っていた。
あまりの速さに連続して残像が幾重も重な合う……重なりすぎて一つの直線を描くようにして合体する程だ。
そうして閃光の如く、群がっている魔物達への所へと到着した俺は、今度は動きに大幅な緩急をつける。
俺は、本来なら自身に掛かるはずのソニックブームのベクトルを反転させて、逆に魔物達へと襲いかからせる。
更には移動によって切り裂いた暴風をも乗せて。
『ガアアアアァァァァァッ!!!』
『ギャギャギャギャギャギャッ!!!』
『ゲゲゲゲゲゲゲゲゲッッ!!!』
一点集中。俺はそれによって群がる魔物達を次々と問答無用に吹き飛ばしていく!!
ここの地形だが、見たところは直径数百メートル程の円型の大地が陥没しているような形となっている。
分かりやすくいえば、崖である。この地の辺りにはここを囲むようにして、十メートルほど大地が壁となるようにして、隆起しているというものだ。
そんなこともあって、俺と衝突し、その衝撃からとてつもない速さで吹き飛ばされていく魔物達は、ドゴォォン!!という音を立てて、岩壁に勢いよくめり込んで行く。
方向などは特に意識していないので、魔物達は様々な乱方向に吹き飛ばされる。それは以前に本で見た古代武器……まるで、銃から放たれた弾丸の様であった。
ちなみに壁にめり込む、といことはその部分はぐちゃぐちゃに化しているはずであるので、魔物達は痛みを感じる暇もなく即死である。
更にはあまりの威力から、俺が進んだ大地がゴッソリと抉られ、削られたように消失する。
俺はそれほどの威力で突撃した。
そして、数秒にも満たない時間で俺は遂に目的地の場所へと到着する。
俺との距離は約数メートル、そこでは相変わらずレイラが必死になって自分に襲いかかってくる魔物達と戦っていた。
空間切断を用いて迫り来る魔物を豆腐のように一刀両断。
「──ふぅっ!」
すぐさま後ろから放たれた攻撃を躱して、脳天めがけてカウンターダメージを与える。
やはりランクA冒険者にふさわしい、美しく強い……見事な戦いであった。
しかし、ついに訪れる限界。これまで休みなく戦い続けた代償か、目に見えて彼女の動きが鈍くなる。
もはや、彼女から十メートルも離れていない地点にいる俺のことすらその疲労から気づけていない。
レイラほどのレベルの強さを持つ者となると、自己回復手段もかなり高いのだが、それには少しばかりの休息が必要だ。
……が、本能的に人間を襲う魔物達が、そんな回復させる暇を与えるはずもなく……動きの鈍くなったレイラを見て絶好のチャンスと捉えたか、トドメと言わんばかりに灰色の狼が数匹、レイラに向かって飛び出して行った。
しかし、レイラもタダでは殺られたりはしない。
「そんな攻撃……っ!!」
前方から襲いかかってきた狼を一刀両断する。
残りの狼の数は三匹。背後から襲いかかってきている。
後ろを振り向こうとするレイラ。……しかし、今の動きでどうやら傷の痛みが襲いかかってきたようだ。
「……っぅ」と言いながら動きを止めてしまい、彼女の背後は隙だらけとなる。
『ギャィンッ!!』
狼の波状攻撃。前足がレイラめがけて振るわれる。
「……やば」
それを見たレイラはそう呟いて……そして、死を覚悟したのかギュッと目を瞑る。
『ギャィンッ!?』
しかし、そんな彼女だったがいつまでたっても攻撃が訪れない。
その事に……どうして今自分は生きているのか?と疑問に感じていることだろう。
そして、彼女はゆっくりと目を開ける。
「……っ!?」
彼女の眼界……そこには俺が立っていた。
帝都防壁で別れたはずの、パーティリーダーの俺が、だ。
そう。彼女が攻撃されるその瞬間、俺は自身の脚力を全て総動員させて、超高速とも言える過去最高の速度で動き出した。
刹那の間に、残りの狼を一匹残らず木刀で吹き飛ばしたのであった。
そうして俺は、座り込みながらこちらを呆然と見つめるレイラに向かって話しかける。
「……大丈夫か?」
◇ ◇ ◇
数時間ぶりの再開。俺はレイラにそう聞いてみると、彼女はやはり呆然とした様子で俺の事を見つめてくる。
(……どうやら、強くても弱くても人の根源というものは変わらないらしい)
俺は戦場で助けた冒険者や騎士たちの反応を思い返しながら、そんなことを考える。
死を覚悟していた手前、こうして生きのびてしまうと頭がなかなか働かず、上手く状況判断ができていないのだ。
しかし、このような場合には声をかけることが手っ取り早い。
「おーい。大丈夫か、レイラ?」
その考えに則って俺が再びレイラにそう声がけると、彼女は、はっとしながら我に返る。
「……カノン?どうしてここに、」
「ん?まぁあの後、俺はずっとレイラのことを探し続けてたんだ。それで手がかりを掴んでここに来たのは良かったんだが、レイラが一人で戦ってたからな。パーティメンバーを助けるのは当たり前だろ」
俺はそう返しながら、余っている片腕を彼女のほうに差し出す。
その手を取ったレイラを俺は腕を引くことで、立ち上がらせた。
そのまま殺気を放ち、辺りにいた魔物達を見渡す。
『……』
どうやら俺に警戒をしているようだ。こちらを威嚇をしながら、睨んできたのだが……、
まだ大丈夫だろうと考えた俺は、ぱんぱんと砂埃をはらっているレイラを横目で見て質問する。
「まぁ、こうして再開は出来た訳だけど……、どうしてレイラはあの時先に行ったんだ?ギルドマスターに互いをカバーし合うようにって言われたじゃないか……」
その俺の質問にレイラはモジモジとしながら潤んだ瞳でこちらを見ながら、答える。
「……ん、答えたくない(忘れてたなんて言えない)」
しかしレイラの答えは予想のはるか斜めを行き、もはや答えたくないというものだった。
俺はその答えに少し不満を隠しきれなかったが、
(まあ、無理強いは良くないか……)
と、考え話す。
「はぁ……。じゃあ別に教えてくれなくて良いから、今度からは気をつけてくれよ?」
「……ん。ごめん」
レイラはいつも通りの雰囲気に戻ってそう返した。
そうして、体力もある程度は回復したのだろう。彼女は霊装神器を構えて、戦闘準備へと入った。
辺りには円を描きながら、俺たちを囲むようにして存在している魔物達、約百匹強。
それぞれ背中合わせに俺は世界樹の木刀を、レイラは『
「……これが、ギルドマスターの言っていた互いをカバーし合う感覚か」
背中を守られているという絶対的な安心感。
この状況でレイラがおらず、もし一人きりだったのならば俺は360度全ての範囲に対して警戒をしなければならないのだが、レイラが居ればそれも半分で済む。
これが先程あったばかりの見知らぬ人だったならば、たとえ二人でもこうは行かないだろう。
互いを本気で信頼しあっている者でだからこそできる芸当であった。
そして、俺はまだ出会ってそこまで長くはないが、レイラの事を
恐らくはレイラもそうだろう。
そこから発生する大きな安心感に俺はそう思わずにはいられなくて、つい声に出してしまった。
「私もパーティ組んだのカノンが初めてだけど……とても楽」
俺と背中合わせで霊装神器を構えているレイラもそう呟く。
「レイラもそう思ってるなら……先に行って欲しくはなかったんだけど」
「むぅ……それを言われると、反論できない」
「まあ、別にもうそれでどうこう言うつもりは無いさ……」
俺達はそう軽口を叩き合いながら、しかしながら五感を研ぎ澄ましていく。
魔物達の微かな動きも見逃さない、とばかりに。
(不思議だ。これだけの魔物が俺達のことを殺そうとしているのに……。レイラと一緒なら負ける気が……いや、勝てる気しかしない!!)
心中、俺がそう確信すると同時に、
『グルアアアアアアァァァッッ!!!』
『ジャジャジャジャッ!!!』
『シャァァァァァァッッ!!!』
痺れを切らしたように、魔物がそれぞれの特有の鳴き声を上げながら、本能に任せて俺達に飛びかかってくる。
もはや俺達を殺すことしか考えていない、そんな様子が彼らからは伺うことが出来た。
白目を向き、涎を吐き出し……そんな様子で。
「なあ、レイラ。なんでか知らないけどさ……今の俺達ならどんなことだって出来そうな気が無性にしないか?」
彼らがこちらへと襲いかかってくる刹那の間、冷静に思考を加速させながら俺はレイラに問う。
命のやり取り。二体百以上。
しかし俺はそんな状況でも、気持ちの揺らぎは全く起きなかった。
至って冷静、ベストコンディション。
その瞬間、俺の奥底に眠る何かが覚醒する。
全ての圧倒的加速に、俺の視界がモノクロと化し時間がゆっくりと流れ移る。
「うん。同感」
背後からレイラのそんな呟きが聞こえる。
思考さえも全てが加速し、時の流れが遅くなる……そんな感覚の中で俺達は同時に動きだした。
まるで俺とレイラがシンクロしたような感覚。全ての動きが手に取るように理解出来る。
「……なら、行こうか!!」
レイラの足りないところを俺が、俺の足りないところはレイラが互いに補い合う。
そうすれば俺達は無敵だ。
そんなことを心の奥底で考えながら、俺達二人は圧倒的数を誇る魔物達との戦いに身を投じたのだった。
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