第13話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 10 】
「ふぅー……」
俺は大きく深呼吸をする。
ある日の早朝、俺はこの三年間欠かしたことの無い日課を行っていた。
そう、素振りである。
(朝の鍛錬と言えば、素振り以外ありえないよなぁ)
素振り……一件ただ単に剣を振るっているだけに見えるが、素振りは剣技の全ての基本である。
毎日コツコツとそれを行うことによって剣技の上達につながるのだ。
俺はそれを知っているので、そんなことを心の中で思ってしまう。
ちなみに、俺が今素振りをしているのは帝都で俺が取っている宿屋の裏庭だ。
特に何があるわけでもなく、早朝と言うことで周り、というか裏庭には人がいない。
そんな中で俺は一人、黙々と素振りをしていた。
「ふっ……!!はっ!!ぜぁっ……!!」
勿論、使用しているのは愛武器である世界樹の木刀である。
怖いぐらいに違和感なく手に馴染む感触は、もはやこの木刀以外の武器を使えないのでは無いか、と疑問に感じるほどだ。
俺が木刀を振り下ろす度に『ブォン!!』と言ったようなとても鈍い風切り音が周囲に響く。
不思議と心が安らぐので、俺はこの音を聞くのは好きである。
そうすることおよそ1時間、素振りをしていると唯一のパーティメンバーであるレイラさんが、裏庭へとやってきた。
「そろそろ終わる?」
レイラさんは、俺を見ながらそう聞いてくる。
どうやら、レイラさんはこれ以上待ちきれないようだ。
「ふっ……!!……そうですね……なら、今日の素振りはこれぐらいにしときます」
とはいえ、俺もどちらかと言えば待ちきれなかったので、世界樹の木刀を腰に戻し、本日の素振りを終了した。
俺たちが何を待ちきれないのか……それは、今日がレイラさんと俺のパーティとしての初仕事だからだ。
レイラさんと『世界樹の剣』を結成してから二日が経過している。
昨日は、疲労回復のため一日休みだったということもあって、パーティとしての活動は今日が初となるのだ。
(というか、俺にとっては冒険者としての仕事自体が初めてになるんだけどな……)
ギルドに登録し、直ぐにパーティを組んでしまったので、ソロで冒険者の仕事をする機会がなかったのだ。
そうして、レイラさんと共に俺は宿へと戻る。
宿へと戻る……と言ったが、レイラさん自身はこの宿を利用していない。
冒険者として高収入を得ているので、ずっと前に自身の家を購入したんだとか。
俺みたいな貧乏人と違い、レイラさんはとてもお金持ちだ。
羨ましい。
……とまあ、俺がそんなことを思い終わるうちに、着替えが終わり、ギルドへと向かう準備が完了する。
「じゃあ、行こっか」
「そうですね」
そんなやり取りをして、俺たちはギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇
「これなんてどうですか?」
場所は変わって、俺たちは今ギルドで依頼を選んでいる。
俺たちのパーティランクはCであるので、依頼の危険度はBまでのものを選ぶことが出来る。
出来れば、討伐依頼を受けたかったので、手頃なものをピックアップして、レイラさんに聞いてみた。
「ん……リザードマンの群れの討伐……数はおよそ十体ほどだと予想される……ふむふむ、いいかもね」
リザードマンとは体調約2m程の……分かりやすく言えば、緑の鱗を持つ二足歩行のトカゲである。
知能がそこそこ高く、その黄色の瞳は夜目がよく効き、そして高い近接戦闘能力を持つ。
単体でいえば危険度Dなのだが、群れとなるとその連携力から危険度Cとなるらしい。
しかし、こちらにはAランク冒険者もいるし、危険度Cとあって、報酬もかなり高い……俺自身もリザードマンには遅れをとらないだろうと判断しての事だった。
「レイラさんも賛成っと……なら、これにしましょうか。カウンターに持っていきますね」
その俺の言葉にレイラさんは「……了解」とだけ言ってぽけー、とし始めてしまった。
(レイラさんは相変わらずだな……)
俺はどうしてもそう思ってしまう。
まだ出会って数日ではあるが、全くぶれないその性格に俺は苦笑してしまった。
そして、半ば専属になりつつあるカレラさんの所へ依頼書を持っていった。
「これを受けたいんですけど……」
「リザードマンの群れの討伐ですね。こちらはここからおよそ二時間ほどの洞窟に住み着いているらしいので……お願いしますね」
「まあ、初仕事ですしね……頑張ります」
そう言って依頼の手続きを進めていく……が、ただの討伐依頼だったのでそれ自体は数分ほど出終わった。
「では、気をつけて行ってらっしゃいませ」
最後にそう言って、お辞儀をしてくるカレラさん。
俺はそれに対し「分かりました」とだけ言って、レイラさんの下へと戻った。
「……どうだった?」
「依頼、受けて来ました……どうやらここから二時間ほどかかるそうなので、なるべく早く行っちゃいませんか?」
「そうだね……じゃあ、早速行こうか」
レイラさんはよいしょ、と言わんばかりに立ち上がる。
そして、俺達がいざ出発しようとしたその瞬間……今までの平穏のツケが回ってきたのか、俺としては嬉しくない出来事が起こった。
俺に向かってドン!!っと見知らぬ冒険者たち数名がぶつかってきたのだ。
そこまで大きい衝撃ではなかったので、しりもちをついたりはしない。
(ぶつかってきたのはあっちだけど、なるべく穏便に済ませたいし……とりあえず謝っとこう)
そして、俺は穏便に済ませるために謝ろうとして、その冒険者達の顔を見るのだが、咄嗟に気づいてしまった。
(いや、これは……あれか……)
俺とレイラさんがパーティを組んだというのは他の冒険者達には既に知られているらしい。
これまではなにかされる等は無かったので、特に気にしてはいなかったが、俺はその男たちの目を見て、嫉妬か八つ当たりかは分からないが、意図的に俺にぶつかってきたことを理解した。
王都の冒険者育成学校似通っていた時にも彼らと似たような眼をしているものを幾人も見てきた俺だからこそ分かった。
「んなんだぁ?どこ見て歩いてんだよ、クソガキ!!」
「俺たちにぶつかってきて、タダで済むと思ってんのか、あぁん!?」
そんなセリフを吐いてくる。
ぶつかってきたのは明らかにそっちの方だろう、という意見をぶつけたかったが、我慢する。
そうしていると、彼らはさらに喋り続けた。
「てか、なんでここにてめぇみてぇな餓鬼がいんだよ」
「そうそう、とっとと家に帰って糞して寝とけ」
こ、こいつら……っ!!……いや我慢だ、我慢しろ。
(ここで言い返したら問題になる)
「レイラさん、この人たちのこと知ってますか?」
俺はそんな言葉を無視して、レイラさんに彼らのことについて聞いてみた。
「ん……知ってる。左がガイゼル。右がラーゼン。二人ともCランク冒険者だけど、そんな強くない」
どうやら顔は厳ついが、強さはそこまでらしい。
俺がそう考えていると、その2人組冒険者達がレイラさんに向かって怒鳴った。
「てめぇ、レイラ!!雑魚の癖に調子乗ってんじゃねえぞ!!」
「何様のつもりだ!!」
「雑魚じゃない、私はランクA冒険者。あなた達よりは圧倒的に強い」
レイラさんは淡々とそう返す。
「何言ってんだ、新人ごときに負けちまったくせに……ランクA冒険者ってのも大したことはねぇだろうが!!」
「そうだ!!このアバズレが!!」
アバズレ……それがいけなかった。
(レイラさんに……俺の仲間に
俺への誹謗中傷は何とか我慢してきたが、それを聞いて俺の中で何かが切れる。
「てめぇみてぇな雑魚ぺげぇっ!?」
俺は冒険者の一人を殴り飛ばした。
あまりの勢いにギルドの壁へと吹き飛ばされかなり大きいギルドがズゥゥゥン、という音を立てながら揺れる。
そうして、バウンドしながらこちらへと戻ってきた。
何とか殺さないようには手加減したので、一応生きてはいる。
その勢いのまま、もう一人も殴り飛ばし、また同じ結末を辿る。
その様子にギルド内の人達が、全員目を見開いて俺を見ていたのだが、俺は気づかない。
そうして口を開く。
「おい、ゴミ共……これ以上レイラさんを悪く言ってみろ。そん時はこんなもんじゃすまねぇぞ?」
俺は自身の口調に気づかず、話した。
そして、とてつもない密度の殺気を放つ。
「アバズレだと!?てめぇらとは違ってレイラさんは美しくて優しい、強い女性だ!!そのことを肝に命じておけクソ野郎ども!!」
俺がとんでもない怒気を含ませた声出そう言うと、
「ひいいいいいぃぃぃいぃぃ!!!」
「わかった!!わかった!!わかりました!!だから殺さないでくれ!!」
彼ら二人は顔をあらゆる体液でぐしゃぐしゃにしながら俺にそう懇願してきた。
さらには失禁までしてしまう始末……それを認識するとこんなものか、と俺は急速に冷静になり萎える。
「レイラさん、早く行きましょう。こいつらと同じ空気をこれ以上吸いたくない。」
そう言って俺は歩き出す。
レイラさんはしばらくぽかん、としていたが、
「え?……あっ……う、うん」
と言ってトコトコとついてきた。
こうして、俺たちは依頼を達成するためギルドを出たのだった。
……この出来事をきっかけに一部の冒険者が俺の事を『
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