第12話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 9 】

「それで……パーティを組むのはよろしいんですが、パーティ名は、どうするのですか?」


 出会って二日目でレイラさんとパーティを組むこととなった俺。


 カレラさん、レイラさんとそれについての話をしているとカレラさんがそう聞いてきた。


「パーティ名か……レイラさんは何がいいと思う?」


 とりあえずレイラさんになにか案があるかを尋ねてみた。


「なんでもいいけど、強いて言うなら……」


 レイラさんは深く考える素振りを見せて、言葉を発する。


「……悪星あくせい……とかどう?」


「いや、それはちょっと……」


 悪星。……つまりは悪の星という意味だ。


 パッと見みれば、まるで俺達が悪いパーティーか何かに見られる可能性がある。


 活動にも支障が出る可能性だってあるのだ。


 これから活動していくパーティ名としてはレイラさんには悪いが、有り得なかった。


「む……なら、カノンはどんなのがいい?」


「そうですね……」


 考えてはいるがなかなか難しい……。


 通常、パーティ名に用いられるのはそのパーティーのリーダーである人間の強さの象徴や特徴などを名前とするのだが……俺自身の力は皆無なのでそれはできない。


(となると……この木刀しかないよなぁ)


 俺の全ての始まりである世界樹の木刀。それをパーティ名にしようと俺は考えた。


 世界樹、世界樹、世界樹……これにするか。


「『世界樹の剣せかいじゅのけん』、これはどうですか?」


「世界樹?それっておとぎ話とかに出てくる?」


「はい」


 俺がそう言うと、レイラさんは「世界樹の剣、世界樹の剣」と、何度も小声で呟き始めた。


「……ん、いいと思うよ。結構かっこいいし……まぁ、私のやつよりはかっこよくないけどね」


「ははは……そうですか」


 俺は、苦笑しながらそう返すことしか出来ない。


 しかし正直、あのネーミングセンスはどうかと思う。


 何かの名を決める際に、レイラさんに任せるのは止めた方が良さそうだ。


 俺はそう考えながら、カレラさんに話しかける。


「じゃあ、それでお願いします」


「はい、かしこまりました。ランクD冒険者カノン・シュトラバインさんとランクA冒険者レイラ・イーグリアさんの二人組でパーティを結成させていただきますね。パーティ名は『世界樹の剣』、こちらで大丈夫でしょうか?」


「はい」


「では、少々お待ちください」


 カレラさんはそういって手続きを始めてしまった。


 カレラさん曰く数分ほどかかるそうで、俺が待っていると隣のレイラさんが話しかけてきた。


「……でもなんで世界樹なの?」


 まぁ、確かに疑問に覚えるところではある。


 自身のパーティー名の由来が気になるのは当たり前か、と俺は考える。


「……俺にとって世界樹っていうものは大切にしたいものなんです」


「ん……よく分からない」


 レイラさんはそう言うが、それもそうだ。


 俺もこの木刀を渡されるまでは、世界樹ユグドラシルなんてものは架空の存在だと思っていたのだから。


「まぁ、詳しいことは後で話しますよ」


 俺はレイラさんに向かってそう言う。


 パーティメンバーとなり、仲間であるレイラさんには世界樹の木刀についてを話そうという風に決めていたのだった。


 そうしてレイラさんと他愛のない話をしていると、カレラさんがこちらへと戻ってくる。


「カノンさんをリーダーとする『世界樹の剣』のパーティ登録が完了しました。パーティランクはランクCからとなります」


 レイラが言うには、パーティランクCというのは俺のランクとレイラさんのランクを平均したものであるらしい。


「パーティメンバーが何か問題を起こした場合、そのパーティのリーダーにも連帯責任として責任が生じますので、お気をつけください」


 カレラさんがそう注意してくる。


「ではこれで、本日お話する内容は全てお話させて頂きましたので今から名実共にランクD冒険者として活動して頂くこととなります……カノンさんからは何かございますでしょうか?」


 何か……そうだ、忘れるところだった。


「実は、この帝都に来るまでに魔物を倒していまして……その素材を買い取ってもらうことは出来ませんか?」


「はい。大丈夫ですよ……それでどんなものでしょうか?」


「えと、赤い狼の牙と魔石なんですけど……」


 そう言いながら懐を漁り、その二つを取り出してカウンターの上に置く。


 それを見たカレラさんは何故か目を見開き、びっくり仰天といった感じで驚愕した。


「こ、これってまさかシャドウレッドウルフの牙と魔石ですか!?」


 カレラさんがかなりの声量でそう言うと、ギルドの中にいた冒険者達がざわめき始めた。


「シャ、シャドウレッドウルフってまさかあんな小僧が!?」


「何もんだよ……アイツ」


「てか、あの坊主は昨日ランクAのレイラと戦って、勝利したやつじゃないか?」


「な、なにっ!?あのレイラが負けたのか!?」


「あ、ああ……かなりの接戦だったがな……」


「ならなんでそのレイラがアイツの隣にいるんだよ?」


「知らねえよ……気になるなら、自分で聞いてこい」


「そうだ!!俺たちの兄貴はすげぇんだぜ!!」


 などと丸聞こえである。


 昨日の俺たちの戦いを知らない冒険者達に、知っている者が教えているのがよく聞こえた。


 そして、最後に少し変な言葉が混じっていたが、ある程度は予想が出来るので俺は気にしないことにした。


「シャドウレッドウルフ?」


 あいにくだが、俺は知識がない故にその魔物の名前は知らない。


 そのため、俺が聞き返すと隣にいるレイラさんが代わりに説明してくれた。


「ん……シャドウレッドウルフは危険度Bのモンスター。とても身体能力が高くて、さらには口から炎を吐くのが特徴。だから危険度Bの中でもなかなか強い。」


 レイラさんの説明を聞いて確かにあの狼と一致する、と考える。


「多分、それだと思います。特徴に一致しますし……」


「そ、それは凄いですね……。この魔物はランクA冒険者並の実力者じゃないと一人で討伐は難しいんですけど……いやそういえば、レイラさんに勝ったんでしたね……」


 カレラさんの言葉は全体的に小かったので上手く聞き取ることができなかったが、独り言だと思って俺は特に気にしたりはしない。


 それよりも、あの赤い狼はかなり強かったが、そこまで苦戦はしなかったので、狼が危険度Bという事実に俺は驚いていた。


「……とりあえず、査定してもらっても良いですか?」


 周りの冒険者たちの反応から、このままだと面倒事に巻き込まれそうと感じたので、俺はそう促す。


「は、はい!!すいません、直ぐに査定させていただきます」


 こうしてカレラさんは狼の査定を始めた。


 そうして数十分後、結果として魔石が虹金貨一枚、牙が金貨一枚という予想以上の金額に俺は驚きながらも、ホクホクとなった懐に喜びを噛み締めるのだった。




 ◇ ◇ ◇




 カノンとレイラがパーティを組んだその日の夜、ギルドでは上層部による話し合いが行われていた。


 三十メートル四方のその部屋には、余計なものがあまり無く、かなりスッキリしている。


 唯一の物といえば、部屋の中心に置かれている巨大な円卓と椅子ぐらいなものである。


 部屋は全体的に暗かったが、そんなことはお構い無しと言わんばかりに、幹部十名とギルドの主であるギルドマスターが話し合いもとい会議を行っていた。


「この報告は本当なのかね……?」


 幹部の一人である男がそう呟く。


「ああ。にわかには信じられないが、事実である」


「……まさか無名の新人冒険者が実技審査で……しかも本気のランクA冒険者を倒すとは……頭が痛いな」


 そう、今彼らの頭を悩ませているのは、昨日行われたカノンとレイラの審査についてである。


 ランクA冒険者はギルドの看板であり、それを新人冒険者が倒したとなれば、話題に上がらないはずがなかった。


「まぁまぁ、確かにこれは前代未聞の出来事ですが、強力な新人が入ってきたことは良い事じゃないですか」


「むぅ……まぁ、そうだが」


 ある幹部は強力な新人と言うことで将来を期待できると主張する。


 確かにそうなのだが……


「しかし、今回その新人に負けてしまったことで、我がギルドの高ランク冒険者の実力を疑う噂が流れる可能性があるのだぞ……」


 分かりやすく言えば、レイラがカノンに負けてしまったことで、高ランク冒険者も大したことはないという噂が流れる可能性があるのを彼らは危惧していた。


 勿論、彼らは高ランク冒険者の実力というものを知っているので、決してそんなことを思ったりはしない。


 レイラとカノンの審査を見ていた冒険者達はそんなことはしないだろうが、審査を見ていなく、結果だけを聞いた冒険者達が普段の嫉妬などの理由からそんなことをする可能性があったのだ。


「冒険者達の口止めをしてもあまり効果はないと思うし……今は様子を見ることが最も賢い選択だと私は思うね」


「……まぁ、そうですな」


 男がそう言うと、幹部たちは一同にその提案に賛成し始めた。


 確かにそれが最も最前の選択と分かってはいるのだが、色々と言いたいことがあった幹部もいたのだが、それをたった一言で黙らせてしまう。


 それはこの人間がこのギルドの最高権力者であるギルドマスターだったからである。


 反論するだけ時間の無駄だということが分かっていたのだ。


「そういう事で様子を見ることとしよう……今日の議題は全て話し終えたね……では、解散」


 彼がそう言うと幹部たちは、席を立ってその部屋から出ていく。


 そうしてしばらく……ついに一人となったところでギルドマスターは呟いた。


「カノン・シュトラバインか……おそらくは『神の遺産』を持つ剣士。ふふ、これから面白くなりそうだ……」


 そう言って、微笑を浮かべる。


 こうして、ギルド上層部はカノン・シュトラバインという新人冒険者に興味を持ち始めるのだった。

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