第11話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 8 】

 翌日


 俺は冒険者ギルドへと赴くために、帝都内の大通りを歩いていた。


(なんでまた……)


 正直、二日連続でギルドへと行かないといけないと言う事実にため息を吐く。


 俺自身の考えとしては、今日は宿でゆっくりと休みたかったのだが、どうしてもギルドへと赴かなければいけない理由があったのだ。


(面倒くさいなぁ……)


 こんなことになったのは昨日のレイラさんとの戦いが原因である。


 新人冒険者の俺がAランク冒険者に勝ってしまったという前代未聞の出来事が起きてしまった。


 なので、ギルドも対応が難しいと言うことで翌日……つまり、今日ギルドにまた来て欲しいと言われたのだ。


 しかも、早朝にという時間指定もされている。


(言われた通りに戦っただけなのに……審議の時間として一日開けるのはまだ理解できるけど、なんで早朝に……)


 こうして、俺の気分はあまり宜しくなかった。


 そんな文句を内心グチグチ言いながらも、冒険者ギルドに到着する。


(相変わらず大きい……それにしても、思ったよりも人は少ないな)


 朝、ということもあって冒険者がその日受ける依頼を決めるためにギルドに多く訪れていると思っていたのだが、予想よりも冒険者たちは少ない。


 だが大勢の人の中を歩かないで済むのは、かなり楽だった。


 そうしていると、唐突に声が聞こえてくる。


「「「おはようございます、兄貴!!」」


「……うん、おはようございます」


「おはようございますなんて!!そんな敬語じゃなくていいんすよ!?」


「いえ……これが性分なもので」


「くぅぅ〜!!やっぱ兄貴は最高だぜ!!こんな俺たちの事も気にかけてくれるんだからなぁ……」


 そんなやり取りをする。


 この人たちは昨日、俺とレイラさんの審査を見ていた冒険者達だ。


 昨日審査が終わった後からこんな調子である。


 俺の戦いぶりに感銘を受けたらしく、俺の事を『兄貴』と呼ぶようになっていた。


 もちろん全員が全員そうな訳では無い。


 数名といったところだったが、そんなことになっていた。


(正直、やめて欲しいんだけど……やめるように頼んだけどやめて貰えないし……どうしてこんなことになったんだろう……)


 やめるように行ってもやめないと言うことで、俺は半ば諦めかけていた。


「すいません、今から予定があるのでそろそろ……」


「はい!!頑張ったくだせえ、兄貴!!」


 そう言いながら、彼らは仲間と共にこの場から離れていった。


(あの人たち凄い顔怖いからな……もしかして、このままいけば俺が暴力団のボスとかそんな噂が流れたりするのだろうか……?)



 そう考えながら、カウンターへと近づいていくと、見た事のある受付嬢が話しかけてきた。


 カレラさんである。


「おはようございます、カノンさん。本日お越しの目的は、昨日の件についてでよろしいですか?」


 そのカレラさんの確認は見事に的中していた。


 しかし、当たり前である。


 昨日のことはカレラさんも承知しているので、俺が今日こうしてギルドに訪れる理由はそれ以外有り得ない。


「はい。それで俺はどうすれば……」


「ここでお話をさせて頂きますので、そこにお掛けになってください」


 そう指示されたので、それに従い大人しく座る。


 そうしてカレラさんは結果について説明し始めた。


「カノンさん、昨日は大変お疲れ様でした。正直びっくりしちゃいましたよ。ギルドに所属してそうそうランクA冒険者を倒してしまったのですから」


 そういうと、カレラさんは何かに気づいたようにハッとする。


「おほほほ……すいません、昨日のことでしたね」


「……で、どうなったんですか?」


 俺がそう聞くと手元にあった資料を読み上げた。


「結果として、ギルド上層部はカノンさんはランクDとして認定するとの事です。」


「ランクD!?」


 予想していたよりも、高ランクからスタートできることに驚きを隠しきれない。


 良くても精々、ランクE辺りだろうと思っていたのだが……。


「カノンさんは自分がどれほど凄いことをしたのかを理解出来てないようですね……ランクA冒険者はギルドの看板であり一騎当千の猛者、それを倒したんですよ?」


「それにしても高すぎませんか?」


「いえいえ、これでも低い方なんですよ?……ただギルドの規則としてこれ以上はあげることが出来ないんです」


 これ以上あげることができないなどと言っているが……正直、充分すぎる。


「どうしましたか?」


 カレラさんが俺の顔を見てそう言ってきた。


「い、いえ……なんでもないです。分かりました。ではそれでお願いします」


「はい、かしこまりました。ではギルドカードを作成致しますので少々お待ちください」


 そう言うと、カレラさんはよく分からない道具を用いてギルドカードを作り始めた。


(それにしても……登録そうそう目立ってしまったなぁ……)


 登録して間もなくこれである。


 俺はこれからの自分自身の将来……主にトラブルについてだが、不安を感じられずにはいられなかった。


 そう考えながら少しの間待ち続ける。


 そして、約二分後……ギルドカードが完成した。


「こちらがカノンさんのギルドカードとなります。紛失した場合は料金を払って作り直して貰うこととなりますのでご注意下さい」


 ギルドカードを受け取る。


 どうやら材質は鉄でできており、そこに文字が打ち込まれていた。


 そこには主に名前などの個人情報欄、ランク欄、備考欄が存在している。


 しかし、俺の備考欄は全くの空欄であった。


 これは昨日の基本情報の質問の際に、俺が一切自分の力について話さなかったためだ。


 大抵は自身の霊装神器などを伝えるのだが、俺はそもそも霊装神器を持っていないため空欄である。


(これで俺もついに冒険者か……ランクが少し誤算だったけど、まぁいい事だしな)


「ありがとうございます。しっかりと無くさないように気をつけます、それで他には……」


「あー、はい。あと一つだけお願いがあるのですが……」


 この言葉を聞いて正直、俺はろくな気がしなかった。


 昨日もそう言って、百名以上の冒険者を観客として連れてきたのだ。


 カレラさんが悪い……とは言わないが、内心ため息を吐いてしまう。


 しかし、逆らう気にはならない。


 俺は冒険者ギルドに所属させてもらっているなのだ。


「……なんですか?」


「はい、その事なんですけどレイラさんと……」



「私とパーティを組んでみる気は無い?」



 カレラさんの言葉を遮って喋りかけられるその状況に既視感を覚える俺。


 反射的に後ろを振り向くと、そこには話題のレイラさんが突っ立っていた。


 昨日と全く同じ展開での登場に俺は苦笑する。


(……やっぱり、この人気配隠すの美味すぎじゃないか?……全然気づかなかったし)


 全くもって神出鬼没しんしゅつきぼつである。


 というか、パーティってどういう事だ?


「レイラさん、パーティとはどういうことですか?」


「ん……そのままの意味。私とカノンの二人でパーティを組もうということ」


 レイラさんはそう言ってくる。


 いや、意味はわかるのだが、パーティを組もうと思った理由がわからない。


「どうやら、レイラさんは昨日の戦いでカノンさんに大きく興味を持ってしまったのです。今まで同年代では負けなしだったので……そうですよね?」


「うん」


「それで、カノンさんのことをもっと知りたいそうで……レイラさんはパーティを組もうと考えたそうですよ」


 興味!?それはどういう……


「きょ、興味を持ったって、それは俺の実力にですか?」


 まぁ、レイラさんが俺に男女の好意を持つなんて有り得ないだろう。


 そう思っていたのだが……


「それもそうだけど……カノンのことを男の人として好きになっちゃった……かも」


 ……え?


「……ほ、本気ですか?昨日知り合ったばかりなのに?」


「時間なんて関係ないよ……まぁ好きなのかは分かんないけど興味があるのは事実なんだし……それよりも私とパーティを組んでくれない?」


 それよりもって何!?


 俺にとっては結構重要なことなんだけど……いや、好きかも、ってだけだし思い込みだよな、うん。


「……ねえねえ」


 そう言いながらレイラさんは、俺へと顔を近づけてくる。


 ちょっと待って欲しい、てか近い!!


 なんかいい匂いがするし……だから近づかないで!!


「……どうするの?」


 レイラさんは俺だけに見える不思議なオーラを纏いながらそう聞いてきた。


 ……少し怖くなってきた。


「分かりました!!分かりましたから!!だから離れてください!!」


 そうして何とか引き離すことに成功する。


「ふふ、言質は取ったからね……」


 レイラさんは思わずゾッとするほどに魅惑的な微笑でそう呟く。


 しまった、と思う頃にはもう手遅れである。


 つい流れでそう言ってしまった俺。


(はぁ……まあ、いいか。どうせ一人じゃ冒険には限界があるわけだし……レイラさんはランクAで本物の実力者な訳だし……)


 実際戦ってみてとんでもない強さを持つのは理解している。


(俺、いつか刺されるんじゃないかな?……主にレイラさんのファンとかに)


 俺がそんなことを考えていると、レイラさんが俺に向かって手を差し出してきた。


「私達はもう仲間だよ。これからよろしく……カノン」


 俺はレイラのその言葉に目を見開いてしまう。


『仲間』


 俺とレイラさんが仲間……?


 そうだ、そうだよな……パーティメンバーなんだからそれはもう仲間だ。


 今まで生きてきた中で、仲間と呼べる存在はいなかったので、初めての体験にどうしても感動してしまう。


(その場の雰囲気でパーティを組んじゃったけど……それは間違いじゃなかったな)


「……ええ、これからよろしくお願いします」


 そう言いながら手を握る。


 レイラさんの手はとても小さく、柔らかかった。


 こうして色々あったが、俺とレイラさんはパーティを組むこととなったのだった。





「私、途中から空気になっていた気が……」


「すいません!!」


 その後、カレラさんがそう呟いたのが聞こえ、俺は必死に謝る羽目になってしまった。

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