第14話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 11 】
あぁ……、やっちまった……。
リザードマンの群れの討伐のために移動すること既に一時間、俺はその間ずっと先程の失態について頭の中で考えていた。
先程、ギルドで冒険者二人組に絡まれた俺。
俺だけならまだ問題はなかったのだが、パーティメンバーであるレイラさんのことを侮辱されてしまい、我慢できなくなって問題を起こしてしまったのだから。
さらにはそれを放って、今こうして依頼を受けている。
ギルドに戻ったら何らかの処罰が下されるのだろうな、と思った。
その事にどうしても顔を青ざめてしまう。
(登録そうそう追放なんかされたら、ほんとに洒落にならないぞ……)
冒険者を追放。これをされてしまうと、もうその者は二度と冒険者として活動することが出来ない。
何かトラブルが起こるかも……なんて考えていたが、実際に起こってしまうとため息ばかりが出てしまう。
(どうするか……)
俺がそう憂鬱な考えを浮かべながら、歩いていると隣で同じく歩いていたレイラさんが話しかけてきた。
「さっきから悶々として……どうしたの?」
どうやらレイラさんには俺が不安がっている理由がわかっていないらしい。
相変わらず、この人は……。
だが、そんなぶれないレイラさんを見て少し気持ちが軽くなった。
そのことを自覚し、苦笑しながら話す。
「さっきのことですよ。あの冒険者二人組にしてしまったことを考えてたんです」
「先に挑発してきたのはあっち。だからカノンは悪くないと思う」
「そうだといいんですが……」
「それに、私のために怒ってくれて嬉しかった……ありがとう」
レイラさんは少し顔を赤らめながら、俺にそう言ってきた。
俺はレイラさんに見とれてしまう。
(……ギャップがすごいな)
普段はぼー、としているために顔を赤らめ恥じらいの様子を見せられるとどうしてもそう思ってしまった。
しかし俺がそう思っていると、レイラさんが「そういえば」と言って質問をしてくる。
「怒ってる時に口調すごいことになってたよ?あれはわざに見えなかったけど……」
純粋に疑問を感じたと言うふうに聞いてくる。
(ああ……また出ちゃってたよなぁ)
別に隠すことではないのだが、自分から積極的に教えたいという訳では無いのでどうしても話すのに少し時間がかかってしまった。
「俺、昔から本気で怒ると無意識に口調が荒くなるんですよ。俺的には荒くしているつもりは全くないんですけど、どういう訳か……」
「ふーん……変な癖だね」
「……その、気持ち悪いとか感じますか?」
このことを聞くと全てではないが、かなりの人が気味が悪い等を言ってくる。
俺はレイラさんにそう思われていないかを不安に思っていたが……
「別に?気持ち悪くないよ……まあ、カノンは怒らせないようにしようとは思ったけどね」
どうやらそれは杞憂だったようだ。
(やっぱり仲間っていうのはいいものだなぁ)
俺はそう再実感したのだった。
しかし、レイラさんはそう思っていても、ギルドであの場面を見ていた冒険者達は俺の事を怖がっていたりするのだろうか、と疑問に思ってしまう。
「ん……全員が全員怖がらない、とは言わないけどかなりの人が自業自得だって思ってると思うから、気にしないでもいいと思うよ」
レイラさんがそう答えてくれる。
どうやら、俺の未熟なポーカーフェイスから何を心配しているのかを悟ったらしい。
「そ、そうですかね?」
「うん。カノンはめちゃくちゃ強いのに、変なところで心配性なんだね」
これは心配性と言えるのだろうか。
(誰でも悩んだり心配したりするとは思うんだけど……いや、レイラさんが特殊なだけか)
俺がそう考えていると、レイラさんは先程のことなど忘れたと言わんばかりに話題を変え、質問をしてきた。
「てか、ほんとに強いよね。一応『
「く、『
俺はその事実に驚く。
異名とはそのものの強さを表す代名詞である。
高ランク冒険者でも持っているものは多くなく、何か偉業を成し遂げた者が持つと言われている。
「うん、私結構すごいから。カノンには負けちゃったけど」
そう言うレイラさん。
「この前の審査の時の戦いで、疑問に思った事が二つあって……いい?」
「ええ……全然大丈夫ですよ」
だいたいどんな内容なのかは、レイラさんの様子を見れば理解出来たので素直に頷いた。
「一つ目はその木刀のこと……『
やはり、それか。
信じてもらえるかどうかは分からないが、俺は正直に話す。
「これは世界樹ユグドラシルから作られた木刀なんですね。だから、特性をいくつも受け継いでいて、その中の一つに『不滅』というものがあるんですよ」
「ふーん。それはすごい」
……え?それだけ?
「ふ、ふーんって。それだけですか?世界樹ですよ?あのおとぎ話の」
「別に驚く事じゃない。他は知らないけど、私にとっては疑問が一つ解消されたってだけ」
レイラさんは相変わらずの淡々とした様子でそう言う。
やはり、この人に俺の考えは及ばない。
そう思うと、無駄に張り詰めていたものが急速に緩んでいく気がした。
「まあ、レイラさんが気にしないっていうならそれでいいですけど……」
やっぱりレイラさんは特殊である。
「ん……二つ目は最後の攻撃について。最後の攻撃、めっちゃ凄かった。速さも強さも……あれは何?」
レイラさんが興味津々な様子で聞いてくる。
「ああ、あれは『
「そんなこと出来るの?」
「まあ、身体のあらゆる部分の自己制御をする必要があるのでかなり難しいんですけどね」
「技の一つってことはまだ他にもそんなのがある?」
「ええ、数ある『秘剣』の一つなので」
俺がそう言うと、レイラさんは少し顔を歪ませた。
「それ強すぎない?似たような技がまだまだあるんでしょ?近接戦闘で勝てる人居なさそうだけど」
さすがにそれは言い過ぎではないだろうか。
「そんなことはありませんよ。俺はまだまだ未熟ですし、実際本気でやっても俺に戦いを教えてくれた先生には勝てませんし」
そう、この三年間本気で婆さんに挑んだことが何回かあったが、善戦はできても勝つことは不可能だった。
「ふーん。まあ、それはいいや」
レイラさんはそう言ったが、直ぐに切り返してきた。
「……ねえ、カノン?」
「はい。なんでしょうか?」
「……私達は仲間って言ったよね?だったらさ、敬語はやめにしようよ」
「……え?」
「なんか一応カノンがリーダーなんだし……むず痒い」
そうだったのか。
俺としては敬語で話すことは、尊敬をしているということを示していると思っていたのだが。
どうやら違ったらしい。
「わかり……わかった。これからは普通に話させてもらうよ……レイラさ、レイラ」
「うん。それがいい」
レイラは微笑みながらそう言ったが、次に発した言葉に衝撃を受けてしまった。
「いくら私が侯爵家の娘だからって、パーティリーダーにまで敬語で話されるのは嫌」
……え?
「い、今……侯爵家?まさかレイラって貴族だったのか!?」
「え、うん……まさか知らなかった?てっきり知ってるものだと……」
確かに今考えてみれば、どこか育ちの良さを感じるし見た目も完璧、貴族と言われても納得がいく。
「あわわわわわわ!?も、申し訳ございませんでした!!……いや、ごめん?……ど、どっちで話せばいいんだ……?」
レイラの考えは普通に話して欲しいというものだが、普通は貴族に対して平民は敬語で話さなければならないので、どうすればいいか悩む。
しかし、レイラはそんな俺を見据えながら話してくる。
「だから、普通に話してくれていいって言った」
「……本当か?……不敬罪とか言わないよな?」
「うん。だから普通に話してくれていい」
なら、普通に話すとしよう。
まあ……レイラからお願いされたんだし、多分大丈夫だと思う。
「そ、そうか……」
「カノンは無知?」
現にこうして知らなかったりしたので、否定できないのが辛い。
「ははは……まぁ、俺は王国の田舎で育った田舎者だからな……許して欲しい」
「別にどっちでもいいけど。カノンはもっと……ん?」
レイラはそう訝しみながら、歩みを止めた。
どうしたんだろう、と思ったが、レイラに遅れて俺も気づく。
話しているのに夢中になっていたせいで、いつの間にか目的地である洞窟に到着していたのだ。
(それだけ楽しかったってことか……)
俺がそう言うと、レイラはこちらへチラリと、視線を向ける。
「行こう」
レイラは先程までとは違い、とても真剣な表情でそう話しかけてきた。
仕事はきっちりとこなす、これはレイラの美点の一つである。
(……さて、ついに俺の冒険者としての初仕事が始まるのか)
俺もそれに倣って全身の感覚を研ぎ澄ます。
「そうだな……なら、中に行ってみようか」
俺はレイラに向かってそう言う。
俺たちはそうして洞窟の中へと入っていった。
◇ ◇ ◇
「今のところは何もないな……」
目的地である洞窟に入って、十分程歩いている俺たちはだが、今のところは何かが出てくる気配もなかったので、ついそう呟いてしまう。
しかしいかんせん洞窟内は広すぎる。
先程、レイラに聞いた話だと、俺たちはまだ洞窟内の数十分の一程度しか歩けていないと言う。
(ほんとにリザードマンがいるのか?)
俺がついそう思ってしまったのも無理ないだろう。
「油断しちゃダメ……ちゃんと気を引きしめる」
レイラがそう言ってきた。
確かにそうである。
帝都に来るまでの実践で俺は身をもってそれを経験したのだ。
俺がそう思い出した、その時だった。
(油断はしな……なんだ?……いや、これは)
俺が油断をしないように、と内心考えているとタイミングが良いのか悪いのか生き物の気配を感じた。
いや、これは良かったというべきなのだろう。
そして、それらはだんだんとこちらへ近づいてくる。
しばらくもしない内に……
「来た……」
レイラがそう呟いた。
この洞窟は正直いってとても暗い。
俺は『活性』を使い眼の機能を上昇させているので、夜目が効いているが、せいぜい見透せるのは十数メートルである。
なので今までは距離があり、その生き物の姿を確認することは出来なかったのだが、近づいてきたことで遂にその姿を見ることが出来た。
「……っ」
俺が確認したその生き物は緑色の肌を持つリザードマン、しかも数は二十匹ほど。
(……何故か、情報よりも数が多いけど)
それは俺たちが冒険者として、討伐しに来た魔物達だった。
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