第15話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 12 】
「あれが……」
俺たちが洞窟に入って数十分。遂に遭遇した今回の討伐対象であるリザードマンを見て、俺は小さい声だったが、そう呟いてしまった。
リザードマン自体はギルドの情報通りの見た目をしているが、いかんせん数が多い。
二十体程と、およそ倍の数である。
さらにはその中に、普通のリザードマンよりも一回り大きく、恐らくは強いだろうリザードマンもいることが確認できた。
(あれが恐らく……リザードマンの群れの親玉だろう。確か……希少種だったっけ?)
道中にレイラから聞いた話で、魔物が突然変異によって普通よりも強力になったもののことを指すという。
よって魔物としての危険度はワンランク上昇する。
今回の場合は、普通のリザードマンの危険度がDなので危険度Cとなるわけだ。
「リザードマンジェネラル……」
俺の隣にいたレイラがそう呟いた。
「それがあの希少種の名前なのか?」
「うん、頑丈な鱗が厄介。それに群れ自体も倍近いの数いるし……これは危険度CじゃなくてBが妥当」
リザードマン達は俺たちを目の前にして威嚇をしているので、レイラとそう会話する。
レイラのその言葉を聞いて俺は、全く……と内心ギルドに対して不満の声を漏らしてしまった。
「まあ、やるしかないよね。ここまで来ちゃったんだし。……それに危険度が一つ上がったけど、私とカノンなら多分問題ない……」
「そうか?……いや、まあそうか」
俺は一瞬、レイラのその言葉に疑問を覚えたが、実際一人で危険度Bの狼を倒していることを思い出した。
危険度でいえば、あれよりも弱いのだから大丈夫だろう……と。
そうしてリザードマン達を見据える。
どうやらまだ威嚇をしながら、俺たちの出方を待っているようだ。
「とりあえずまずは群れをどうにかして……その後私があのリザードマンジェネラルとやる」
レイラはそう言ったが、正直いってあのリザードマンジェネラルとは俺も戦いたい。
「俺もあのリザードマンジェネラルと戦いたいからさ……今回は譲ってくれないか?」
「でも、あの希少種の特徴は高い身体能力と、とても硬い鱗にある。私の『
確かに、レイラの言うことは最もだ。
想定以上の数に加え、希少種までいたのだ。できるだけ効率よく倒したいというのは理解出来る。
さらにはその希少種とレイラの霊装神機の相性は抜群であるのだから。
……しかし、俺はそれが分かっていても自分が戦いという
「確かに、相性や効率的に見ればそうなんだろうけどさ……俺、実践をやったのがまだ数回しかないんだよ。だからこういう場で少しでも強いやつと戦っておきたいんだ」
そう、俺は実践を経験したことが少ない。
これから自分よりも格上の相手と戦うことも多くあるだろう。
その時に勝利を収めるために、経験やシックスセンスなどを身につけておかなければならないと考えている。
量を質で補おうということだ。
「……確かに経験を積むことは良い事だね。……わかった、いいよ。群れを殲滅した後、あの希少種とはカノンが戦って」
レイラは一瞬考え込むような様子を見せたが、直ぐに俺に了承の意を告げてきた。
こうして、客観的に冷静を保ちながら物事を考えることが出来るのもレイラの美点のひとつである。
「ありがとう。理解が早くて助かるよ」
俺は自身の素直な気持ちをそう伝える。
そうして一歩前に進み出た。
「……さて、いつまでもこうして睨み合ってる訳にもいかないし……そろそろいくとしよう」
誰がどれをどうするか、そんな方針が決まったと判断した俺は腰から世界樹の木刀を引き抜き、戦闘態勢に入りながらそうリザードマンたちに話しかけた。
(もちろん、リザードマン達のそこそこの知能では人語は理解できないけどな……)
それにつられてレイラも小声で霊装神器を顕現させる。
あの時と同じでレイラの前に龍蛇が現れ、それが美しい一本の剣を形作っていく。
剣自体が薄く赤と緑色に発光しているので、この暗い洞窟の中ではかなり目立っていた。
『シャァァァァァァァァァッッ!!!』
俺たちが戦闘準備に入るのを確認すると、今まで威嚇をしながら様子見をしていた彼らも、さらに威嚇をしながら戦闘準備へと入る。
リザードマンたちが持っている武器の一つにどこで拾ったのか、明らかに人工物の鉄の槍があった。
これはレイラの霊装神器とはあまり意味をなさないが、霊装神器を持たない俺にとっては見過ごす、という訳には行かない。
しかし、それよりも警戒すべきは彼らが持つ鋭利な牙と爪だ。
これは流石のレイラも警戒する。
鉄の槍とは違い、その鋭利さから当たればタダでは済まないだろうそれをリザードマン達はこちらへと向けてきた。
『シャァァァァァァ……』
リザードマン達は鳴きながら警戒をする。
魔物とは思えない程に上手い陣形を組みながら、絶対に俺たちの動きを見逃さない、と言わんばかりに。
(……だが、それは全くもって無駄だ。)
そう、そんな警戒は全く意味をなさない。
なぜなら……リザードマン達では反応すらできないほどの速さでレイラが一瞬で間合いを詰めたからだ。
「
夜目を持っているとは言え洞窟内が暗いという事も関係しているのだろう。
リザードマン達は反応できない。
最も陣形の先頭にいたリザードマンの一匹の胴をまるで豆腐を斬ると言わんばかりの様子で切り裂き、真っ二つにする。
レイラの持つ霊装神器の能力の空間切断だ。それによって硬いリザードマンの鱗を抵抗なしに楽々と切り裂く。
(やっぱり、めちゃくちゃ強い……)
俺には世界樹の木刀があるのでレイラに勝つことが出来たが、空間切断という能力がとてつもなく強いものだと言うのを今の一撃で再実感した。
俺はそんなことを思っていると、リザードマン達は驚愕のため鳴き声をあげる。
『シャァァァァァァッッッ!?』
だが、それもそうだろう。俺たちを警戒していたはずなのに、いつの間にかレイラに接近され、さらには仲間を一匹失ったのだから。
彼らは何が起こったのか分からない、という風にして一斉にレイラを見る。
「戦場で敵から目を離すのは良くないな……驚く気持ちもわかるけど隙だらけだ」
俺はそんなことを呟きながら、レイラと同じく一瞬で間合いへと近づき、横薙ぎを放ち攻撃する!!
そのリザードマンは俺の力任せの攻撃に、ゴキュゥ!!という骨が作り出した鈍い音を響かせながら真横に吹き飛ばされていく。
痛みを感じる暇なくして、即死した。
俺がその攻撃を繰り出した後、ようやくリザードマン達は危機的状況にあると言うことを理解したのだろう。
すぐさま陣形を建て直し、複数匹で俺たちに波状攻撃を仕掛けてきた。
さすが、危険度Cというべきなのだろう。
『シャァァァァァァッッ!!』
そう鳴きながら攻撃してくる。
しかし……
「遅い!!」
俺はリザードマンたちの鉄の槍の突き刺し、鉤爪の攻撃を素早くしゃがむことによって回避する。
そしてそのまま一匹の四肢を砕いた後、首の骨を叩き折り、残り二匹の鳩尾と目玉に向かって瞬時に二連の突きを繰り出す。
リザードマンは魔物とは言え、人型であるため人間と急所はあまり変わりない。
『『シャァッ……』』
よって、鳩尾と脳みそを木刀で突かれ、二匹のリザードマンはぐらり、と倒れ絶命した。
そして、数匹を討伐した俺は直ぐにレイラの方を見る。
レイラの方には確かリザードマンが五匹ほど向かっていたのでもしかしたらと、危惧したのだが……
「そんな遅い攻撃は当たらないよ」
余裕の表情を浮かべながら、そんなことを言っていた。
そうしながらリザードマン達の攻撃を全て捌く。
それどころか、リザードマン達が己の鉤爪で攻撃したのに対し、空間切断で全てのそれを切り落としていた。
『シャァ?』
彼らは自身の爪がいとも容易く切断されたことに動揺し、一瞬動きを止めてしまう。
一瞬だったが……それはレイラを前にして致命的な隙である。
「まだまだ未熟……」
そう言って、ひと息で五匹全てを切り裂いた。
(どうやら心配する必要はなかったよだな……)
俺はそう思ったので瞬時に意識を切り替え、世界樹の木刀を片手に残りのリザードマンを討伐していく。
「ーーシッ!!フゥ……ッ!!あぁッッ!!」
切り上げ・振り下ろし・袈裟斬り・逆袈裟等残っているリザードマン達に俺はそのようなの攻撃を仕掛けた。
もちろん彼らも生き残るために抵抗し、俺たちを倒そうと攻撃してくる……が、いくら数が有利でも、俺とレイラとは元々の地力に大きく差がある。
俺に向かっての攻撃を全て避け、またはいなしそのままカウンターとしてリザードマンの急所を攻撃していくのだった。
『シャァァァァァァッッ!!!』
……恐らくは数分もかからなかったのではないだろうか。
遂に俺とレイラによってリーダーであるリザードマンジェネラルを除くリザードマンは全て討伐された。
俺とレイラが佇んでいるところの付近には
レイラが討伐したものは様々の所を綺麗に斬られ血の池ができており、俺が討伐したものは逆にあまり血が出ていない。
ほとんど逆と言っても良かった。
俺はそれを奇妙な光景だ、と考えながら残ったリザードマンジェネラルを見る。
『シャァァァァァァッッ……』
仲間を殺されて怒り狂っているのが分かる。
しかし、彼はその怒りを制御しながら俺に向かって自身の鉤爪を向けてきた。
(面白い戦闘姿勢だな……)
俺はそれを見て思わずそう思ってしまった。
「じゃあレイラ……やってくる」
「ん、カノンなら大丈夫だと思うけど……気をつけて」
レイラからそう励ましの言葉を受け、俺は頷きながらジェネラルと戦うために前へと進み出た。
(リザードマンの希少種、リザードマンジェネラル……どれほどの力を持つのか……)
そう考えながら俺はザッ、ザッと音を立てながら歩く。
数メートルほどそのようにして歩いただろうか……その瞬間、俺は自身の脚力を使い一気に加速した!!
『シャァァァァァァッッ!!!』
しかし、ただのリザードマンでないだけあってジェネラルは何とか俺のその加速に対応する。
突進してくる俺に対し鉤爪をふるおうとタイミングを測っているのだろう。
『シャァァァァッッ!!』
そして俺が鉤爪の間合いに入るや否や、先程までのリザードマンとは比べ物にならない程の速度で鉤爪を振るってくる。
……がしかし、その攻撃は俺を捉えず『斬!』と空気を斬っただけであった。
「……ふっ!!」
俺は上へ跳躍することでそれを避け、そのままジェネラルの背後へと無音で降り立つ。
ジェネラルはそれを風の流れや気配で察知したのだろう、それを認識してすぐさま振り向こうとした……が、既に遅い。
俺は『活性』を使用し、身体機能を上昇させる。
「あの狼よりは弱かったけど、危険度Cなだけあってなかなか強かったかな……」
本心からの言葉をジェネラルに呟きながら俺は終わりにしよう、とレイラを破ったあの技を使用した。
「
『シャァ……』
そうしてジェネラルが振り向き、俺を捉えた瞬間……首を消し飛ばす程の爆発的な速度の天叢雲が、ジェネラルを絶命させたのだった
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