第16話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 13 】
「ふう……」
リザードマンジェネラルとの戦闘が終わり、俺はそう深く息を吐く。
実際に戦ってみた感想として、やはり希少種は普通のものとは別物の強さを持っていた。
(まぁ、苦戦するほどではなかったけど……)
そう考えながら俺はチラリとリザードマンジェネラルを見る。
天叢雲によってもはや首という部位が存在していない……それは傍から見ればとても奇妙な死体だ、ということを考えされられた。
しかし、これで今回の初の依頼は完了である。
そう思うと、心のどこかで少し嬉しさが生まれた。
「さすがだね……やっぱり見事、としか言えない」
俺がそうしていると、トコトコと歩きながらレイラが話しかけてきた。
「やっぱり希少種だけあって、なかなかだったよ」
「そう?……結構、楽勝展開だったと思うけど……」
「まぁ強さ的にいえばな……危険度Cならこのぐらいだろう」
結局のところレイラが言った通りとなった。
色々と誤算があったが、元々の危険度が危険度だけに、特に危なげなく依頼を完遂させることができた。
「……それで、どうだった?いい経験になったと思う?」
レイラが首をこてん、と傾けながらそう聞いてくる。
「正直、目に見えて何か変化があるって訳じゃないけど……まあ、命のやり取りでどこか成長したところはあったと思うかな……」
俺はレイラにそう返す。
言葉で表現するのは難しいのだが、実際に実践を経験したことで、肉体面ではなく精神面でどこかが、変化したような気がしたのだ。
シックスセンス等はたった一回の実践で身につくものではないが、この精神的成長が出来ただけでも良い経験となった。
(前者の方は結局、多くの修羅場をくぐり抜けなきゃ行けないだろうなぁ……)
俺はそれまでの険しい道のりを想像し、少し悲観的になってしまったが、しかし「……よし!」と言ってすぐに意識を切りかえた。
「とりあえず、このリザードマンたちの解体をしない?」
リザードマンの主に有用できるところは、まずはその高い硬度を誇る鱗と爪。魔石も高く売ることができ、肉なんかも食用としては上等である。
解体の際はかなりの冒険者が鱗によって苦戦さられるのだが、レイラの霊装神器や俺の身体スペックを使えばそこまで苦労はしないだろう。
「少し数が多いから、時間かかりそうだけど……そうだね、やっちゃおう」
そういって早速解体のために、レイラは散らばっているリザードマンの死体を一箇所に集めようと行動する。
(木刀じゃ解体は出来ないから……昨日買ったこのナイフを使うか)
俺はそう言いながら懐から一本のナイフを取り出す。
これはなけなしの金を使い、昨日買っておいた解体専用の物である。
もちろん安物であるので、鱗などは斬ることは出来ない……ということで、切断面の内側からリザードマン達を解体していくこととした。
そうして解体をすること約四時間程が経過した時、遂に全てのリザードマンの解体が終了する。
血抜きをし、鱗と肉を分け……などとやっているたためかなりの時間がかかってしまった。
「ふう……やっと終わったか……」
俺は開放感のあまりそう呟く。
俺はこの三年間、戦闘能力ばかりを鍛えてきたため、魔物の解体などの地道な作業はあまり得意ではなかったのだ。
しかし、そんな中でも俺はやり遂げた。
そう思うと、どうしても声を出してしまったのも仕方ないだろう。
「お疲れ様」
俺の近くで、同じように先程まで解体をしていたレイラがそう告げてくる。
レイラは冒険者として活動しているため、魔物の解体などには既に慣れているようで、俺と違い全く疲れているような素振りはない。
(これが年季の差か……)
そんなことを内心考えてしまう。
戦闘能力では俺の方が上でも、総合的な冒険者としての実力はまだまだレイラの方が上のようだ。
「レイラもお疲れ様」
俺はそう返す。
「ん……じゃあ解体も終わってやること無くなったから、そろそろ帝都に戻ろうよ」
レイラがそんなことを言ってきた。
夜目を持っているとは言え、ここは暗い洞窟の中である。依頼を終えたのなら他の魔物と相容れないうちにさっさと帰りたいというのは理解出来たのだが……
(でも……)
「確かに戻るのは賛成だけどさ……このリザードマンたちの素材はどうする?この量だと馬車とかが必要になると思うけど……」
俺はそう言いながら牙は牙、魔石は魔石などとひとつにまとまっている素材たちを見た。
そう、問題は解体したリザードマンたちをどうするかである。
リザードマンの体重は一匹約百キロある。
これが二十匹以上存在しているので、単純計算で言えば二トン以上もあるという事だ。
さすがにこの量を二人で運ぶことは出来ない。
量を減らすか、馬車などの持ってくる必要があるのだが……俺がこのことに気づいたのが解体中だったので、もちろん馬車などは用意していない。
量を減らすしかないか……と考えていた時、レイラが「……大丈夫」と、話し始めた。
「私の霊装神器の主な能力は空間切断」
それは知っている。何度も言うが、とても強力な能力だ。
「……でも空間操作も少しだけ使える、だからこうすれば」
そう言いながらレイラがリザードマンの素材に触れると、素材が……否、その素材が存在している空間が歪み初め、数秒もしないうちに消えていった。
「なっ……!?」
俺はその光景を見て驚きを隠す事が出来ない。
レイラが何をしたのか、俺は全く理解出来ていなかった。
「ど、どういうことだ?……素材が消えたんだが……」
「私の本当の能力は空間支配。ただその中でも九割ぐらいに空間切断の適性があっただけ。だからいつもはそれを使ってるけど……少しぐらいなら空間操作ができる。今のは異空間を作って、そこに素材を転移させた」
そういえばレイラの能力は
(そんなことが出来るなんて……)
俺がそう思っていると、レイラはいきなりしゅん……としながら説明を続けた。
「でも私にはやっぱり空間操作の才能は乏しいから……普通と比べて作れる異空間の広さは大きくない。これぐらいなら大丈夫だけど、使いすぎると直ぐに無くなっちゃう……」
いや、確かに普通よりは小さいのかもしれないけど、これは冒険者にとっては喉から手が出るほどに欲しい能力である。
旅中の食事、物資、素材などを保存できるのだから。
というか、空間を司る霊装神器を持つ者はこの世界に片手で数えることが出来る程しかいないと王都の学校で習ったような気がする。
それほど希少で便利な能力なのだから、少しぐらい小さくてもどうとも思わない……というか、むしろありがたかった。
「いやいや、すごい便利な能力じゃないか。いや便利なんてものじゃないぞ、やっぱりレイラはすごいよ」
俺は本心からの言葉を伝える。
「……そう、かな?カノンに喜んでもらえたなら……良かった……」
レイラは美の女神かと見間違うほどに美しくはにかんだ。
俺はそれを見てやはり悶えてしまう。
(うっ……だから、ギャップがすごいって……!!)
そんな俺の様子におかしなところが見受けられたのかレイラは「どうしたの?」と聞いてきた。
「い、いや……なんでもないです……」
その様子に俺はどぎまぎしながらそう返すことしか出来ない。
「そう?まあ、いいや……ならリザードマン、全部異空間に転移させるね」
そう言ってレイラは、ひとつにまとまっているリザードマンの素材を全て転移させていく。
その光景はまさに圧巻の一言であった。
「ん……終わったよ」
そうすること少し……
量が量だったのでかなりの時間がかかると思っていたのだが、リザードマンの素材の転移自体はものの数分で終わった。
そうしてレイラが声をかけてくる。
「ありがとう。レイラのおかげでとても楽が出来そうだよ。……出来ればこれからもお願いしたいんだけど……厚かましいか?」
レイラのその能力を使えば、とても効率よく仕事が出来る。……レイラに頼るのは少々気が引けたが、申し訳ないと思いつつもそう聞いてみることにした。
「ん……全然大丈夫。……むしろ頼って欲しい」
だが、レイラは俺にそう返してきた。
そう言って貰えると、罪悪感のある俺の心も少しは楽になるというものだ。
「そうか……」
俺はそう言いながら、問題であった素材についても解決したし、レイラの言う通り帝都に戻ろうと考える。
「じゃあ、行こうか」
「ん……」
俺がそう言い、レイラがいつも通りに返す。
そうしてここまで来た道を俺たちは戻り始める。
洞窟内は暗闇とあって外に出ることが出来るかどうかが、少し心配であったがレイラの高い記憶力もあって無事に外へ出ることが出来た。
その後もレイラと様々なことを話しながら歩き続ける。
冒険者ギルドを出てから約九時間……そうして帝都に戻ることには既に空の色は黄昏色となっているのだった。
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