第17話 【帝都誕生祭 1 】

 リザードマンの群れの討伐という冒険者としたの初仕事が終わった日の翌日……。


 俺とレイラは冒険者ギルドへと赴くためにいつも通りの帝都の大通りを歩いていた。


 冒険者ギルドへと向かっているが、別に今日何か依頼を受けようなどという事ではない。


 ただ単に昨日のリザードマンの素材の買取と、依頼達成の報告をしに行くだけである。


 依頼達成の報告に必要なのはその魔物の討伐証明部位……この場合はリザードマンの爪だが、それを受付で見せるだけで良い。


 そうすればギルドは依頼を無事達成したとして、報酬を冒険者に渡すという訳だ。


 しかし現在、そんな中でも俺はギルドに行くことにあまり乗り気ではなかった。


(完全に自業自得なんだけど……やっぱり処罰とかどうなっているんだろう……)


 昨日の依頼以降は完全に忘れていたのだが、一昨日の冒険者二人に手を出してしまったことについて、実際に冒険者ギルドへと赴くとなると反射的に思い出されてしまい先程からそれしか考えられていなかったのだ。


(本当にどうなるのやら……)


「だから、大丈夫だって何度も言ってる」


 俺がそう考えていると横からレイラがため息を吐きながらそう言ってきた。


「で、でもさ……」


 確かにレイラは何度もそのように言ってきてはいるが、俺が手を出してしまったのは事実なのだから、どうしても心配せずにはいられない。


「冒険者ギルドだってそんなことで期待の新人を失いたくないはず。それに最初に挑発してきたのはあっちなんだから……あそこにいた冒険者達が証人になってくれるし……」


 レイラは俺にそう言ってくる。


 まあ、確かにレイラのその言葉を聞いていると色々と共感できるところもあり、なるほど……と思わされた。


(よくよく考えれば……そう、だよな。周りの冒険者が証人になってくれる……か)


「確かに、深く考えすぎてたかも。先に挑発してきたのはあっちなんだから俺はそこまで悪くない……はず」


「ん……そうだよ。だから堂々とするのが一番」


 レイラがそうアドバイスをしてくる。


 それを聞くとさっきまでの様子はなんだったのか、特に理由はないが無性に自信が出てきた。


「そうだな。ありがとう、レイラの言う通りだよ。……堂々としてればいいんだ」


 最後の言葉は自分自身に言い聞かせたものだ。


 そうするとすぅ……とかなり気持ちが楽になったような気がする。


(よし……)


 そうしてとても軽くなった足取りで、俺達は冒険者ギルドへと向かうのだった。




 ◇ ◇ ◇




 ギィ……という音を立てながら、レイラが冒険者ギルドの大きな入口の扉を開けた。


 扉は木製であり、更には金具が少し錆びているのか、どうしてもそんな音がしてしまうのだ。


 そしてそんな中、レイラは受付へと黙って歩いていく。


 俺は距離をなるべく開けないようにして、目立たない様にレイラの後ろを静かに歩いていった。


 ……が、そんな努力をしても意味は無い。


 俺がギルドに入ると既に中にいた冒険者達から注目を浴びていたのだから。


「おい、あいつって……」


「ああ、登録そうそう冒険者二人を殴ったっていう……」


「おい……!あんまり目を合わせるなよ。……噂じゃ目を合わせただけで問答無用に殴られるらしいからな」


「いや、それは誇張しすぎじゃないか?……そもそもあいつらは、挑発したから殴られた訳だろ?自業自得じゃないか?」


「えっ、そうなのか?……俺が聞いた話だと気性がとても荒く、三度の飯より喧嘩が好きだって……」


 冒険者達が俺を見てそんなにことを言っているのが丸聞こえである。


 確かに冒険者二人を殴ったことは事実だが、そこから派生したのか喧嘩を好むとかいうよく分からない噂まで流れているらしい。


 あの時のことを見ていたのか、しっかりと自業自得ということがわかっている冒険者もいるのだが、その数はかなり少ない。


(はあ……やっぱり噂になってるのか。というか三度の飯より喧嘩が好きって……そんなことあるわけないじゃないか。……このまま噂が広がり誇張されていけば、取り返しがつかなくなりそうなのは気のせいか?)


 俺は内心そんなことを思いながら、かわらずレイラの後ろを静かに歩いていく。


「……ん」


 そうして少し歩けば受付へと到着する。


 その中でもカレラさんがいる前へとレイラは進み出る。


 しかし、そのカレラさんと言えば仕事が溜まっているのか、必死に書類仕事をしており近づいたにも関わらず俺たちの存在に気づいている様子はない。


 少しの間待ってみても気づかれないということで、レイラがカレラさんに声をかける。


「カレラ……」


「は、はい……っ!!!……ああ、レイラさんとカノンさんですか……」


 レイラが声をかけると、カレラさんはそう返事をしながらあまりの驚きにか飛び上がった。


 しかし、いくらなんでも驚きすぎでは無いだろうか。……もしかしたら、カレラさんも俺の事を怖がっているのかもしれない。


 帝都でできた数少ない知り合いに怖がられているかもしれないと考えてしまい、どうしても悲観的な気持ちになってしまった。


「リザードマンの群れの討伐依頼が完了した。それと、買取」


 レイラはそう言って霊装神器の能力で異空間に収納してあった素材と討伐証明部位を転移させる。


 ちなみにこれぐらいのことなら、レイラ曰く霊装神器を発現させなくても出来るとの事だ。


 これくらいという言葉に少し疑問を覚えるが、レイラだからという理由で納得しておく。


「相変わらず便利な能力ですね……というか、やけに数が多い気がするんですけど……」


 カレラさんは出現したリザードマンの素材たちを見てそう呟く。


(まあ、ギルドは十匹ほどだと言っていたからな……)


 俺がそう思うと同時にレイラがカレラさんに事情を説明し始めた。


「ギルドはリザードマンの群れは十匹だったと言った。でも実際に行ってみれば、倍以上の数に希少種のリザードマンジェネラルまでいた」


「ええっ!?……それは、大変申し訳ございませんでした……」


「……ん、謝らなくていいから。……でもこういう場合は追加で過失金としてお金が払われるよね?」


「は、はい。少し時間がかかりますが、それが事実だということが分かれば、過失金と素材の高価買取の保証を受けることができます」


 カレラさんは丁寧に説明をしてくれた。


 確かにそれもそうだ。個人的にどう思っているかは別として、ギルドとしてはしっかりと調査をしてそれが事実かどうかを確認する必要があるのだ。


「それはどのぐらいかかる?」


 レイラがそう聞く。


「そうですね……詳しいところは分かりませんが、2週間もあれば大丈夫でしょう。……とりあえず今日のところは元々の報酬金と、素材の買取については適正価格で対応させていただくこととなります。で、追加の金額は支払わせていただくとこととなりますね」


 カレラさんは2週間かかると言ったが、どうやって調査をするのだろうか。


 あそこは洞窟の中でもかなり進んだ所だったので、特に目撃者がいる訳でもない。


 俺がそんなことを考えていると……


「何かの調査を専門としている霊装神器を持つ者に依頼するんです。……もちろんそれが本当のことであったならば、依頼料はギルドが持つ事となっていますので」


 俺の思考を読んだかのように、俺に向かってカレラさんがそう話しかけてきた。


(なるほど……。そんな霊装神器まであるのか。……というか)


 霊装神器の持つ力の多様さに感心していた俺だが、その時気付く。


「今普通に俺に話しかけてきましたけど、怖くないんですか?」


「怖い?カノンさんがですか?」


「は、はい。昨日のあれのことで……」


「昨日のですか?ああ……確かに見た目にそぐわず大胆と驚きはしましたが、別に怖がったりはしませんよ。ああいったことは日常茶飯事……とまではいきませんが、なかなかの頻度で起きますので。それに仲間を悪く言われれば怒る気持ちも分かります」


 ……カレラさん、なんていい人なんだ。


 あんなことをしてしまったのに、怖がらないどころか怒る気持ちも分かる、と励ましてくれるなんて……。


 なんだか少し、カレラさんが天使かなにかに見えてきた。


 俺はカレラさんのその言葉を聞いて感動のあまり、そのまま身体を乗り出し、カレラさんの両手を握ってしまう。


「あ、ありがとうございます!実はカレラさんに怖がられたんじゃないかって結構心配してたんです。そう言って貰えると本当に助かります!」


 俺はつい興奮した様子でそう言ってしまった。


「そ、そうですか。それは良かったです……」


 しかし、そんな俺にカレラさんは苦笑いをしながらそう返してくる。


「あ……す、すいません」


(しまったぁ……)


 俺はやりすぎた……と深く反省しながらカレラさんの手を離す。


(……ん?)


 ……と、その時不意に視線を感じたので俺がチラリと横を見ると、


「……むぅ」


 何故かレイラが俺とカレラさんのことを何か悔しがっているような、そんな視線で見つめてきていた。


 どうしたのだろうか?


「なにかついてるのか?さっきからじっと見てくるけと……」


 疑問に思ったので、俺がそう聞くとレイラは「……なんでもない」と言ってそっぽを向いてしまった。


(ええ……。なんで不機嫌になったのか全く分からない。……やっぱり女性の扱い方って難しいな。)


 以前に婆さんが俺に教えてくれたことを思い出す。


『女性はとってもなものじゃ。決してぞんざいに扱うでは無いぞ』


 婆さんの言った通り、特にぞんざい扱ったつもりはなかったが実際にレイラは不機嫌になっているので、俺は困惑する。


(……まあ、このままにはしておけないからな)


 そうしてそこから、俺は機嫌を治すために色々と頑張って……結局、レイラの機嫌が治るまでに約十分程の時間を有したのだった。

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