第18話 【帝都誕生祭 2 】

「そう言えばもうすぐ帝都誕生祭ですね」


 俺が色々と行動しレイラの機嫌を何とか治した後、カレラさんは微笑をうかべ俺たちに向かってそう話してきた。


 帝都誕生祭という名前からして、おそらくは帝都が誕生したことを祝う祭りか何かだろうか。


(祭りか……なかなか興味深いけど、実際どんなものなんだろうか)


 王国にいた頃は一緒に行く人も特にいなかったし、そんなことよりも強くなることを優先していたので、俺は今まで生きた中で、祭りというものに参加したことがなかった。


 俺はまだ帝都に……否、帝国に来て間もないということでその祭りの名前すらも聞いたことがなかったので思わず聞き返す。


「ある程度はその名前から想像できますけど……その、帝都誕生祭について教えて貰っても大丈夫ですか?」


「はい。今の時間はあまり冒険者の方もいらっしゃいませんし。……大丈夫ですよ」


 俺がそう聞くとカレラさんは快く引き受けてくれた。


「カノンさんは帝都に来てまだそこまで時間も経ってないので知らないのも無理ありません。なのでさっそく……帝都誕生祭の期限は約2000年前に遡ります」


 そうして説明を始めていく。


「私も詳しいことまでは分からないのですが……現在は大国として存在しているこのリングランド帝国ですが、昔はこの土地は『死の大地』と呼ばれており、到底人の住める場所ではなかったそうです。しかしそこで一人の人間が現れ、この地に国を築きました。……それがリングランド帝国であり、初代皇帝カールナー・リングランド様だったのです」


『死の大地』と呼ばれ、人の到底住めない大地に国を作った、か。


 それはどれだけの苦労だったのだろうか……実際に体験していない俺には分からない。


 更にはカレラさんの話は続く。


「しかし、どうやってカールナー様はこの地に国を築いたのかという疑問が残ります……そしてそれは、神様や精霊王様などから『遺産』と呼ばれている不思議な力を持つ道具を承ったからと言われています」


 神様や精霊王様、これは世界樹と同じでおとぎ話などによく描かれている存在だ。


 おとぎ話だと思っていた世界樹が実際に存在していたことから、神様や精霊王様も実際に存在していた可能性が高い……と俺は考える。


「カールナー様がそれをこの地で使えば、到底人の住めない環境にあった大地が全て癒され、人の身でありながら神の奇跡を起こしたと言われています。……そうして、リングランド帝国が出来たという訳です。」


 使うだけで『死の大地』を癒したというその『神の遺産』とやらに驚いてしまう。


(……神様達からそんなものを授かるなんて、初代皇帝は何者なんだろうな)


 俺は今は亡き初代皇帝のことについてそう考えた。


「で、帝都誕生祭についてですが、これはこの国を生み出してくださった初代皇帝や神・精霊王様に感謝を捧げ、これからの繁栄を祈るお祭りです。何故感謝を捧げる儀式がお祭りなのかというふうに疑問を抱く方もいらっしゃいますけど、露店やお店がいつも以上に開かれて帝国民からはとても人気なんですよ」


「ん、とても賑やかで楽しい」


 カレラさんが説明すると、それに続いてレイラがそう言ってきた。


「レイラはその、帝都誕生祭に行ったことはあるのか?」


「うん……数回だけど。その日は食べ物とかとても安くなるから」


 あまりそのような祭りごとに興味を持たなそうだ、と思っていたので意外な一面を発見したと考える。


(……いや、勝手に先入観を持ってたな)


 内心、俺はそれを反省する。そうしているとカレラさんが質問してしてきた。


「なので、カノンさんも一度足を運んでみてはどうですか?行ってみて損は無いですし……」


 確かに俺は祭りに参加したことは無いので、話を聞いてみる限りはとても興味をそそられる話である。


「それはいつ頃あるんですか?」


「今日から丁度一週間後の丸一日を使って、帝都で行われます」


 丸一日行われるとは、予想はしていたがとても大きな規模の祭りである。


 そこにきて、行ってみようかな……と、思い始めていた俺だがどうせなら、ということで隣にいるレイラに声をかける。


「なあ、レイラ……俺は参加しようと思ってるんだけど……良かったら俺と一緒にその祭りに行かないか?」


 俺がレイラにそう尋ねると、その綺麗な目を大きく見開き驚愕の表情を浮かべた。


 美人はどんな表情をしても美人である。


 しかし、どうしたのだろうか?


 もしかして、俺とは行きたくないのか。……もしそうなら精神的にかなり傷つきそうだ。


 ……だが俺のそんな考えとは裏腹にレイラは呟く。


「一緒にって……私とカノンの二人で?……私を誘ってくれるの?」


「え?……あ、ああ。どうせ行くならレイラと一緒に行きたいと思ったんだ。……もちろんレイラが良ければだけど」


「ん……行く。絶対行くから」


 俺がそう返すと、レイラは何故か少し興奮気味な様子でそう返してきた。


 そこまで即答されると、どう反応すれば良いのか少し困惑するが、悪い気はしない。


 そうして俺は少し照れてしまったが、しかし直ぐに疑問に感じたことをカレラさんに質問する。


「祭りって……どんな服装をすればいいんでしょうか?」


 俺は祭りにどのような服を着ていけばいいのかが分からなかった。


 俺の持っている服はとても少ない。品質も悪く、粗悪品がほとんどであるといっても過言ではないのだ。


 討伐依頼の報酬などが貰えるとはいえ、貧乏人であることに変わりはない……ということでなるべく出費を安くしようと俺は考えていた。


「そうですねぇ……特に服装に決まりはありませんが、男性はともかく女性は着物を着て参加するという方が結構いらっしゃいますよ」


「着物?」


 俺はその聞きなれない単語にまたもや疑問を返してしまう。


「着物っていうのは、はるか昔に伝わってきた東方の国の伝統衣装の事。……たしか和服っていうものの一種で、色々な柄があってとても綺麗」


 俺のその呟きを聞いたのか、レイラがそう説明をしてくれた。


「へぇ、そんなものがあるのか。ならレイラはやっぱり?」


「うん、私は着物を来ていくつもり。帝都誕生祭が近いから、着物を借りることの出来るお店も沢山ある」


 なるほど、店にとっては稼ぎ時ということである。


「まぁ、レイラはそれでいいとして、俺はどうするか……別に普段着でもいいんだけど、せっかくの祭りだからな」


 俺はそう独り言のように呟く。


 普段着とは今着ている、帝都に来る途中で助けた行商人たちから貰った漆黒と言える黒色が主体のコートのことである。


 カレラさんの話では男性には特に決まりはないと言っていたのでそれでも良いと思っていたのだが、しかし……どうせなら俺も着物を着てみたいと思ったのだ。


「おそらくはカノンさんが思っている以上に着物のレンタル料金は安いですよ。こう言ってはなんですが、所詮は着物のレンタル……あまりに高いとお店も儲からないので……」


 丁度その料金を考えていたところにカレラさんから思わぬ助言が入る。


 確かにその通りである。そんな簡単なことも考えつかなかった自分を少し自虐しながら俺は考えた。


「なら……俺も着物を借りることとするか」


 カレラさんたちの話を聞き、俺はそう決める。


 しかし、それと同時に借りる着物は安いものにしようとも考えていた。


 先ほども言ったように俺は貧乏人なのである。お金に余裕がある訳では無いのだ。


「ふふ……是非楽しんできてくださいね」


 俺がそんなことを考えていると、カレラさんは上品に笑みを浮かべながら俺たちに向かってそう言ってきたが、俺はその言い回しに疑問を感じる。


「カレラさんは帝都誕生祭に行かないんですか?」


 俺がそう質問すると


「はい。私はギルドの受付嬢なので仕事が……。ということで残念ですが今回はおそらく……」


「……それなら仕方は無いですね」


 どうやら……いや、やはりというべきだろう、受付の仕事はとても大変なようだ。


 仕事が理由ならば俺にどうこう言う権利などはない。


 カレラさんはなかなか残念そうにしていたので、俺はそれ以上は祭りについての話をすることをやめたのだった。




 その後は今回ギルドへと訪れた目的であるリザードマンの群れの討伐報酬と素材の金銭を受け取った。


 元々の報酬が金貨2枚と今回の素材の金額が虹金貨1枚というものとなり、これをレイラと俺の二人で半分に割る。


 追加の報酬でおそらくは後日貰える金額は金貨五枚だそうだ。


 赤い狼の買取に続いて今回の依頼の報酬で今まで手にしたことの無いような程の学の金額を手にしてしまい、俺は「冒険者って儲かる職業なんだなぁ」などと思ってしまった。


 そして要件が終わり、その後はレイラと共にギルドを出る。


 ギルドにいたのはおよそ1時間ほど……ということでまだまだ外は明るい。


 しかし、昨日は依頼を受けたばかりということで今日は休みとしようと言うことをレイラと話す。


 二日連続で依頼を受けようと思えば受けれたが、レイラに最初は休むことも大事だということを諭され、また俺自身もそこまで乗り気ではなかっためだ。


 そうしながら賑わう大通りを歩くことしばらく……。


「じゃあ今日はこの辺で別れるか」


「ん」


 俺たちは互いにそう言って別れる。


 レイラはそのままトコトコ、とどこかへと歩いていく。


 いくらパーティメンバーと言えど、プライベートに干渉する気などはさらさら無いため、そのままレイラを見送る。


(……さて)


 そうして俺は去っていくレイラを見終わった後、自身の宿に戻るためにそそくさと歩き始めたのだった。

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