第27話 【大暴走と黄道十二星座 7 】

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大地に降り立ち、そのまま駆け抜けていた俺はそのように声を張り上げながら、乱戦状態となっている戦場地へと走り続けて行った。


『活性』を使用して身体機能が上昇している今の俺の出せる全力で、まず初めに丁度いたおよそ数十匹で構成されている灰色の狼達の群れへと突撃する。


『『『ギャインッ!?』』』


 助走を付けていたということもあったのだろうが、その俺の身体を張った突撃は、それだけで衝撃波や暴風を生み出しそのあまりの衝撃から、狼達をぐしゃぐしゃに切り裂き、吹き飛ばしていく。


 しかし普通はこの速さで突撃してもここまでの被害を起こすことは不可能である。俺の全力疾走によって生み出されたソニックブームすらを操っているからこそ、できる芸当であった。


「ーーシッ!」


 そのまま俺は近くにいたオークを一体、世界樹の木刀を横薙ぎに振るうことで真横に吹き飛ばしていく。


 俺のその力任せで強引な一撃でオークは何度も地面をバウンドしながら砂煙を立てて絶命した。


(くそ!不味いな……手応えとしては悪くないけど、あの数を相手するとなると、いかんせん木刀で吹き飛ばす・消し飛ばすという攻撃では体力の消耗が激しいな。……大振りじゃなくやはり、最小限の動きで倒すのが一番いいんだろう……けど!!)


 俺はそんなことを考えながらも、魔物達との戦いを並行して進めていく。


 これがもし危険度の高い強力な魔物であるならば、ここまでする余裕はないのだが、幸い今回の『大暴走スタンピード』の魔物達は一匹一匹がそこまで強くないのだ。


 余裕……という訳では無いが、普通に戦闘をこなすことが出来ていた。


 そうして俺は、丁度こちらに目掛けて振り下ろされたオーガが持つ棍棒の一撃を……紙一枚と言った、ギリギリの距離で避ける。


 地面が大きく陥没するほどに強力な一撃。そんなものが当たれば脆い人の身体は一溜りもないだろう。


 ……がしかし、いくら力が強いからと言って地面に陥没している、巨大で重量のある棍棒を持ち上げるにはかなりの力が必要となる。


 それを分かっている俺が、その一瞬の隙を逃すはずがない。


『ガアアアアアアァァァァッ!!』


 俺はその一瞬をつき、オーガの脳みそごと目玉に木刀で突きを入れる。


 どんなに硬く、強いものでも目玉などの急所は鍛えようが無いのだ。


 結果、脳みそごと頭を貫かれたオーガはビクン、ビクンと何度か痙攣した後、力尽きたように地面に倒れ込んだ。


 すぐさま目玉から木刀を引き抜いた俺は辺りを見渡しながら先にこちらに来ているであろうレイラを探す。


(レイラは何処だ?まだ数十匹程度だから何とかなってるけど……流石に百を超えてくると、一人ではきつくなるかもしれない。……ギルドマスターの言った通り、レイラと合流してカバーし合わないと……)


 俺は地獄絵図と化しているこの広大な大地をレイラを探すため駆け抜ける。


 先程までの戦闘を見ていたのだろう。俺を脅威と本能で感じ取ったのか、レイラを探す俺を魔物達が今までにないほど積極的に攻撃してきた。


 が、しかし俺はその数多の攻撃を躱し、防ぎ、受け流し……カウンターとして一撃入れて、魔物達を殺していく。


「くそ!やっぱり最小限の動きで殺そうにも、血肉の匂いが充満してて、集中できない!!」


 この戦闘において、俺が危惧していたのはこれだ。


 体力を温存するために無駄な動くをなくして倒す……しかし、俺はどうしても血肉の匂いに顔を顰めてしまい……結果集中が途切れて、無駄に動いてしまう。


 今の魔物達との戦闘で実際それが起こってしまい、俺は半ばやけになってそう叫んだ。


 息を止めて戦闘をすればそんなことは関係なくなるのだが、婆さんとの最後の立ち会いで俺はそれが敗因になったことを覚えている。


『ガガガガガガガガァッ!!』


「っぅ……邪魔だ!!」


 疾走している俺にまたもや魔物が……今度は一つ目の青鬼、サイクロプスという魔物が攻撃してくる。


 そいつが持っているのは大斧であり、それを軽々と、俺の顔目掛けて振り回してきたのだ。


 俺はそれを世界樹の木刀一本で受け止める。


 ギィィィィィンという音が辺りに響きわたり、俺とサイクロプスの木刀と斧がそれぞれ拮抗した。


『ガアアアァァァ!?』


 サイクロプスの驚愕の鳴き声が聞こえる。


 当たり前だ。三メートル程の巨体を持つサイクロプスが本気で放った一撃を自身よりも圧倒的にひ弱な見た目をしている俺が受け止めたのだから。


「そこだっ!!」


 その瞬間、俺は高速とも呼べる早業で手首を返しサイクロプスのバランスを崩す。


 つんのめるようにしてこちらに倒れてくるサイクロプスを目にし、俺はバックステップで後ろにさがりながら、


「一式ーー『天叢雲あめのむらくも』ッ!」


 俺が放てる最速最強の一撃をその首に打ち込んだ!


『ガッ!』


 俺はサイクロプスの首と胴体を刹那の間に鋭利に切断する。


 今まで俺は世界樹の木刀で魔物達を吹き飛ばしたり、消し飛ばしたりして倒していたのだが、今回は体力の消費の問題もあって、その方針を変える。


 この木刀の刃の部分はとても……とは言えないが、普通のよりはなかなか鋭利になっていると言ってもいいだろう。


 俺は振り方を微妙に変えることで、世界樹の木刀を擬似的に、レイラから聞いた東方の国の武器……刀のように用いて、首をすっぱりと切断したのだった。


 普通の木刀でも似たようなことは出来なくはないが、おそらくは耐久性の問題で直ぐに使えなくなるだろう。


 特性『不滅』を持つ世界樹の木刀だからこそ、安心してできる芸当であった。




 サイクロプスを倒した俺はそのままさらに駆け抜けていく。


 ……が、その際に俺は絶対に死体は踏みつけないように注意していた。


 少し体力を使うが、それをしてしまうと死者への冒涜になると考えているためである。


 なので、俺は着地点に死骸がある場合は跳躍するか、避けるたりなどに気をつけながら移動していた。


「ぎゃ、ぎゃああああぁぁぁっ!!」


 ……と、その時不意にどこかで聞いたような声色で悲鳴が聞こえる。


 俺が見る範囲では、周辺ではかなりの冒険者や騎士達が魔物達と戦っていたが、俺はそのどこかで聞いたことのある声を聞き分けていた。


 そうしてその者達を見る。


「あれは……」


 俺が見た光景は以前リザードマンの群れの討伐の依頼を俺がギルドで受けた際に、レイラの事を侮辱した冒険者二人組が、巨大猪の魔物に追い詰められているというものだった。


 その猪に良いように追い詰められているのか、あの時と同じように涙を流し腰を抜かしながら怯え、失禁までしている。


「ひぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃっ……!!」


 それを見た俺は彼らから、周りの冒険者たちに意識を切り替える。


「おらぁっ!!さっさと死ねっ!!」


「やあ!!そこだっ!!」


「……くそ!おい、回復させるから早く後ろに下げろぉ!!」


「おい!!大丈夫か!?」


「魔物の分際で、しぶといんだよっ!!」


「クソッタレが!キリがねぇぞ!」


 様々なパーティが多くの魔物達とそのようにして戦っていた。


 名前は覚えていないが、彼らが猪に殺されそうになっていると言うのに、他の冒険者や騎士は彼らを助けに行く気配はない。


 ……いや、助けに行く余裕が無い、というのが正しい。


 冒険者や騎士達だってそれぞれ自分達のことで手一杯なのだ。


 ……と、そんなことを考えている間にも猪は彼らを殺そうと、ジリジリと距離を詰めている。


 このまま行けば、彼らの命はあと数十秒も無いだろう。


 正直、俺やレイラは彼らのことがあまり好きではない……というか、レイラの方は嫌悪していると言ってもいいだろう。


 当然だ。仲間を、レイラを侮辱されたのだから。怒り狂うほどに。


(けどまあ、仕方ないか……)


 ……だが、そんな考えとは裏腹に、俺は彼らを助けるためにすぐに走り出した。


 ……お世辞にも良い人間とは言えない彼らだが、そんな彼らにも家族や友人など大切な人がおり、その人たちのためにも命は無駄にしてはいけないのだ。


「それに、俺の目の前で死なれたら、目覚めが悪いってこともある……」


 彼らを助ける理由を自分自身に訴えるようにして、俺は呟く。


 そうして、俺は数十メートルもの距離を一瞬で踏破し、木刀の間合いまで距離を詰め、そのまま巨大猪を吹き飛ばす!!


『ブルルルルルルルゥゥッ!?』


 絶対的な力を持った自分が吹き飛ばされるなど信じられない、というふうに驚愕の鳴き声を上げながら猪は空気を切り裂きながら吹き飛ばされていく。


 ……が、今まで通りとはいかなかった。


 なんと猪は吹き飛ばされながらも空中で体勢を整え、その見てわかるほどに筋肉が詰まった太い四本の足を大地に突き刺し、数メートル後ずさりながらその場にとどまったのだ。


(大して攻撃が通っていない……)


 それに加えて、猪が持つ高い防御力。恐らくは内部衝撃に強いのだろう。


 俺の助走をつけた吹き飛ばしは、全くという訳では無いが、大して効いてないように思えた。


『ブルルルルルルルゥゥ……』


 攻撃をされて怒り狂っているのか、怒気を含んだそんな威嚇声を上げこちらを睨みつけてきた。


 俺はそんなイノシシを一瞥して、後ろで唖然としている二人に話しかける。


「……大丈夫ですか」


 重症と言えるほどの怪我はしていないのは見てわかったが、俺はそう聞いてみた。


「……なぁ?はっ?ど、どうなってんだ?」


「あ、あんたは……」


 彼らは先程まであまりの恐怖を味わっていたせいか、状況把握ができておらず、混乱している様子だった。


 まあ、それも仕方ないだろう。恐怖……というか、俺が助けなかったら彼らはあのまま死んでしまっていたのだから。


 更には彼らは、恐らくは嫌われているであろう自分たちを、何故張本人である俺が助けるのかが理解できない、というのも混乱している要因の一つだ。


「……下がっていてください。このままそこにい続けられると、戦いの余波で巻き込まれる可能性があります。……あなた達だって、その状態であれと戦いたくはないでしょう」


 俺がそう静かな様子で警告すると、彼らは自分自身の命について理解したのか、抜かした腰で慌てたようにこの場所から離れようとした。


 しかし、まともに立ち上がることが出来ない。


 それを見た俺は「はぁ……」とため息を吐きながら、仕方なく俺が彼らから距離を取るために、前方へとゆっくり歩き始めた。


「どうやら、今すぐには動けそうに無いので、俺があなた達から離れることとします」


 俺のその言葉に彼らは


「あ、ああ。すまねぇ……」


「……悪ぃな」


 とだけ言って、座り込みながら俺のことをじっと見つめてくる。


 その視線を俺は受け流して、そしてそのままここから離れようと考えていたその瞬間、彼らが俺に質問をしてきた。


「お前……あの時のやつだろ。お前たちを侮辱した俺たちをなんで助けたんだ……?そのまま見捨てれば、良かったのによ。……ああ、もしかして……無様な姿をみて、笑いものにするためか……?」


 男の片割れが疑問の眼差しを向けてそう聞いてきた。


 別にここで無視をしても良かったのだが、俺はそんなことを考えている彼らに向かって、否定の意思を伝えた。


「別にそんなことをするために俺はあなた達をこうして助けているわけでは無いです。……勘違いはやめてください」


「……なら、なんで」


 俺は彼らの方には振り向かずにそのまま話す。


「俺は正直、あなた達のことはあまり好きではありません。あの時、あなた達がパーティメンバーのレイラを侮辱してくれたことは忘れられませんし。でも今は、俺達は帝都を守るという志を持った……いわば同士です。なら、助けるのは当たり前だという風に俺は思ったので助けた。ただ、それだけです」


 俺はギルドマスターの執務室で、ゼイズさんに言われたことを思い出し、なぞりながら喋る。


 彼らが黙り込む中、俺はそれだけを言って、ゆっくりと猪との距離を詰めた。


『ブルルルルルゥゥ』


 巨大猪は自身の四本の足に、血管が浮き出るほどに力を込めて突進の前準備に入る。


 その捕食者の目はもはや、俺を殺すことしか考えていなかった。


「待たせて悪かったな……お前には悪いけど、あの二人を殺させる訳には行かないし、俺はお前を討伐しなくちゃならない。……恨むなら、俺を恨んでくれよっ!!」


 そして、それを確認した俺はそう言いながら歩き……最後の言葉と同時に一気に加速した!!


『ブモォォォォッ!!!』


 そのコンマ数秒後、巨大猪も唸り声を上げながら、一直線にその巨体で俺に向かって突進を繰り出してくる。


 その巨体から繰り出されるそれは、恐らくは簡単には防ぎ切る事は出来ないだろう一撃……それほどの速度と力を持っていた。


 そしてまさに一瞬の出来事……俺と巨大猪の影がそれぞれ交差する。


 そうして互いに位置を入れ替えること数秒……少し時差があったが、今の一瞬でこの勝負の勝者が決定した。


『ブ……ブモォ……ッ』


 その瞬間、巨大猪の首元から大量の血液が噴水のように大量に勢いよく吹き出す。


 よろよろ、と言うふうにふらつきながら数歩歩いた猪だったが、すぐに全身から力が抜け、地面にドシンッ!と倒れ込む。


 既に猪の瞳からは光が失われ、虚ろな目をしている。……死んだのだ。


 あの一瞬の攻防の中、最終的に勝利をもぎとったのは俺の鋭利な一撃だった。


 衝撃に強い耐性を持っているとわかった俺は、先程サイクロプスを倒した時と同じように、世界樹の木刀を刀に見立てて猪を切り裂いたのである。


 さすがの猪の毛皮でも耐刃性能までは持っていないらしく、俺は迫り来る猪の体当たりを左に半歩ズレることで躱し、突進の勢いを利用して首元に木刀を一閃したのであった。


「っ……!」


 が、しかし突進を躱した……とは言ったが、実は俺は無傷ではかった。


 突進自体は躱したことには躱したのだが、突進の際に引き起こされた衝撃波までは防ぐことが出来ていなかったのだ。


 幸い余波ということもあって、そこまで威力は大きくはないが、身体に多くの切り傷が着いたのは事実である。


 俺は思わぬダメージ受けて、つい声を漏らしてしまった。


(大丈夫だ。衝撃波とあって、ダメージは重くない。……問題なく、戦える)


 俺はそんなことを考えながら、数秒かを休憩し「ふぅ……」と回復の呼吸をすることである程度の体力を取り戻す。


 そうしてさらに向かおうとすると、そこで後ろで俺のことを見ている冒険者二人組のことを思い出した。


 チラリ、と横目で彼らのことを見る。


 足腰をかなり震わせていたが、ある程度は回復したのか、先程までとは違い立てるようにはなっていた。


 この辺りは流石はランクC冒険者と褒めるべきだろう。


(もう少しすれば、歩けるまでには回復しそうだな……。この辺りの魔物も随分と狩られてきているし……多分、大丈夫か)


 俺が周囲を眺めてみると、ここに来た時よりも随分と魔物の数が減っているという事がわかった。


 よって、俺はその判断を下す。


 そのまま移動しようと俺は考えたのだが、この場から離れる前に思い出したように最後に一言忠告する。


「歩けるまで回復したら、すぐにこの場から離れて帝都にでも戻ってください。今の貴方達の精神肉体共にその状態では普段は勝てるものも勝てません。……せっかく俺が助けたんですから、その命を決して無駄にしないようにお願いします。……それでは」


 一応、お節介かもしれないが俺はそう忠告する。


 後ろで「……ああ」という頷きが、微かに聞こえた。


(よし。……なら、レイラと合流しないと)


 俺はそれを確認すると、レイラと合流するため、またもや走り出した。




 ◇ ◇ ◇




 レイラを探すためにこの場から去っていったカノン。


 そして、カノンが去っていった方向をただ呆然と見続ける冒険者二人組。


 彼らは、今はまだろくに動けない身体ということで方を貸しあってたっている状態だった。


 そんな満身創痍な彼らは考える。


 先程自分たちのことを助けてくれた少年のことを。


 数時間前、ギルドから『大暴走スタンピード』が発生したという報告があった。


 このままでは帝都が侵略されてしまう、ということでもちろん彼らは戦いに参加した。


 ……が、しかし自分たちはランクC冒険者ではあるが、実力はそこまでないという事を理解している。


 初めの方は何とかなっていたのだが、体力も落ちてきていた頃……遂にその恐怖の権化とも言える魔物が出現する。


 体調数メートルはあり、巨大な牙を持つ猪……危険度Cの中でも上位の実力を持つ、デストロイボアだ。


 彼らはそのプレッシャーから恐怖で身体がすくんでしまい、あっという間に追い詰められてしまう。


 情けなく悲鳴をあげて、みっともない醜態を晒して。


 そして、彼らは考える。……これはあの時と同じ状況だ、と。


 一週間と少し前、彼らがレイラとカノンのことを鼻で笑い、絡んだ件である。


 あの時の事だけを見れば、とても彼らのことを善人と言う事は出来ないだろう。……が、元々彼らはそこまで気象は荒くない、というかどちらかと言えば善人と言ってもいいほどには人間ができていた。


 だが、しかし丁度自分たちの実力不足に悩んでいた時にレイラとカノンが現れた。


 羨ましい、妬ましいなどの感情が遂……表に出てしまったのだ。


 ……が、しかしあの時は相手が人間だったから殺されなかったが、今回は魔物が相手……ということで確実に殺されるだろう、と考える。


 そうしてデストロイボアがこちらに得意の突撃をしてくる……彼らが死を覚悟したその瞬間、デストロイボアが勢いよく吹き飛ばされた!!


「な?は?……どうなってんだ?」


 状況把握が出来ず、彼らの片割れが思わずそう呟く。


 そして、そこには一人の少年が木刀を振り終わった体勢で存在していた。


 ……そう、そこに立っていた命の恩人は自分たちのことを嫌っているはずのカノンであった。


 そこからの戦いは圧倒的……とも言えるが、呆気ないということも出来るものだった。


 そう……たった、たった一撃で少年はあのデストロイボアを倒したのだ。


 もはや、自分たちでは目視すら不可能な速度で振るわれた木刀……そんな人外の力を持つものに絡んでしまった過去の自分たちを後悔するほどに。


 そうしてカノンはすぐに去ってしまったが、戦闘の前に放たれた言葉を頭の中で思い出す。


『今は、俺達は帝都を守るという志を持った……いわば、同士です』ということを。


 何故嫌悪している自分たちを助けたのか……という問いを質問した際にカノンが言った言葉である。


 それを言われた際には意味がわからなかったが、ようやく回るようになってきた頭で言う。


「俺……ギルドの奴らがあの人のことを兄貴って呼んでるのを見て、頭おかしいんじゃねぇか?……とか思ってたけど、今なら理解出来る気がする」


「……ああ、そうだな。全く持って俺も同じだ」


「あんなに強くて、器もでかくて……頼りがいもある。しかも俺たちにとっては命の恩人……。憧れるなってのが無理な話だ」


 そして呟く。


「「……兄貴、か」」


 このような経緯を経て、今まさにこの場所で新たなカノンファンが二人……誕生したのだった。

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