第57話 【侯爵家と炎帝の学院入学試験 17 】
「レイバンさんの……いや、
「む……」
レイバンさんから隠しきれないほど、反応が帰ってきた。
……ビンゴだな。
これまで激しい戦いを繰り広げていたが、急に俺が距離をとって自身の霊装能力についてを当ててきたのだから、まあ動揺するのも当たり前だが。
「レイバンさんの腕力や速さの急激な大幅な上昇。最初は腕力の大幅強化だけだと思っていたんですけど……どうやらそれも違うらしい。俺は訳が分からず悩んでいましたが、ようやく分かりました。……
俺の説明を黙って聞いているレイバンさん。
俺は特に口出しさされることもなかったので、そのまま話を続けた。
「レイバンさんは霊装能力で斧自体の重量を自在に操作していたんです。巨斧を振るう際には限界まで重量を無くす事で軽くさせる。逆に、撃ち合う際はその一瞬を狙って重くさせる、と言ったふうに。だから、傍から見れば身体能力が大幅に上がっているように見えてんです」
武器が軽くなれば、その分振るうのも早くなるし……武器と武器が衝突する際の一瞬だけ重量を重くさせれば、負担を出来るだけ少なくしたまま莫大な破壊力を生み出すことが出来る、と言う事だ。
「だけどそんなものは普通に撃ち合っていたら気づかないでしょう。……だけど、その能力はあくまでレイバンさんが意識的に使用しているのであって、見えないところからの不意打ちには弱い。だから、俺の『虚返』に対しては、重量を変化させなかった。……いや、そんな暇がなかったというべきですか」
『虚返』が敵の油断や不意をついて攻撃する秘剣だからこそ、俺もその能力に気づくことが出来たのだ。
移動の際は重量を軽くしており、撃ち合う際には重くする……不意打ちの攻撃だと、そんなオンオフの切り替えを行うことが出来ない。
だから、
「どうでしょうか、これはあくまで俺の予想なのですが……かなり的を得てると思いません?」
俺のその言葉に対して、レイバンさんは特に反応を返さずに黙り続けたが……しばらくして、ようやく口を開いた。
「ふふふ、ははははははっ!!まさかこう簡単に見破られるとは。カノン殿の言った通りだ。
レイバンさんは愉快げにそう問いかけてくるが、しかし実際は全くもってそのおりである。
上手く組み合わせれば、レイバンさんにとっては0.69キロの斧だが、相手側としては264キロでブンブンとぶつけてくるのだから、実際に体験した身としては恐ろしいと言わざるを得ない。
「さてしかし……具体的に攻略法はあるのか?ここまでやっても、まあ素早さは貴殿が圧倒的に上……しかし腕力に関してはこちらが。こうなると体力の問題となってくるのだが……さて、どうなのだろうか」
レイバンさんは俺に向かってそんなことを話すが、実際のところは勝つ自信があるのだろう。だから能力を詳細まで話した。
確かに基本の体力……タフネスに関しては俺の方が上だろうが、しかし俺はとんでもない速さで振るわれる264キロの斧を防御すれば物理的に、回避しても精神的に体力を削られて行っているのだから。
集中力が途切れるのも時間の問題かもしれない。
(……さて、どうするか)
しかし、レイバンさんもかなり苦しいだろう。
重量をポンポン変えれば、その分手首に負担がかかるし……それにああ言ったが、実際のところ俺の方が総合身体能力的には圧倒的に上なのだから、ゴリ押し展開になれば簡単には勝利できない。
そして、俺がそんなことを考えていると……
「……さて、無駄話はここまでにしておこうか。こうして話している間に回復してもらっては困るのでな」
確かに能力は割れた……が、だからどうしたと言わんばかりに、次の瞬間レイバンさんはこちらへと突っ込んで来た。
レイバンさんはその巨体で俺の懐に入ると、すぐさま重量を変化させて、全てを砕こうと一撃を放ってくる。
「──ふっ!」
もちろん俺は、瞬時に世界樹の木刀で迎撃する。
……が、しかしまともに撃ち合うのは宜しくないので、はね上げすくい上げや受け流しなど小手先の技術を用いていくが。
ガガガガガガガガガガガガガギィン!!!
瞬間的に連続してそんな金属音が周囲に響き渡り、俺達は互いに斬りあっていく。
俺の場合は力を速さで補い、レイバンさんの場合は速さを力で補う、と言ったふうに。
レイバンさんの巨斧の横振りの一撃を斜め下から力を分散させて迎撃、俺の逆袈裟をレイバンさんは柄を用いて潰しにかかってきたりする。
「ぐ、っぅ……!!」
だが、それも数分もしないうちに終わりを告げる。
俺の体力がジリジリと削られて、だんだんと押し込まれるように不利な体勢へと移行していったのだ。
本来なら成長した俺の身体能力もあるので、ここまでされるはずはいのだが、しかしこれは相性が悪いと言わざるを得ない。
真正面から迎撃が出来ないので、その分大振りになったり、無駄な動きが増えてしまうのだ。
「ふっ……はっ!!そろそろ限界か、カノン殿!?」
だがまあ、もちろんレイバンさんもかなり厳しい状態となっていた。
手首はもう青く打撲みたいに腫れてきているし、体力も残り少くなっているのだから。
(そろそろか……)
俺は蜻蛉返りで中を跳びながら、考える。
(確かにこのまま行けば不味いかもしれないが……だけど、それはこのまま行けば、だ。……レイバンさんは少し勘違いをしている。確かに俺は高潔な精神を持ちたいとは思ってるけど……俺はそもそも騎士でも何でもない、自由気ままな冒険者なんだ!)
俺が地面に着地した瞬間……目と鼻の先にレイバンさんが現れ、トドメと言わんばかりに全力で巨斧を振り回してきた。
(このタイミング、カノン殿は防御も回避も出来ないはず!!)
レイバンさんはそんなことを思っているが、まぁ確かにそれは正しい……だが何度も言うとおり、それは甘い。
いざ命中する、となったその瞬間……
「──ふっ!!」
俺はその瞬間、防御するでも回避するでもなく……世界樹の木刀を大地に思いっきり叩きつけて……ボゴン!!という爆発音と元に大量の砂塵を舞い上がらせた。
「──なぬっ!?」
レイバンさんは思わぬ展開に、無意識のうちに攻撃の手を止め、自分自身を反射的に庇ってしまった。
そして、その一瞬に俺は既に動き出していた。
「秘剣一式・
本来なら太刀にかかるはずの抵抗のベクトルを全て外向きに変えて、乱方向に衝撃波と暴風として放つその一撃。
これを食らったところで、レイバンさんは痛くも痒くもないだろうが、しかし俺の目的はダメージを与えることではない。
その衝撃波と暴風の上に舞い上がった砂塵を乗せることなのだから。
「ぐっ、これは……」
まさに津波のように大量の砂塵がレイバンさんを飲み込もうと襲い掛かる。
しかし、ひと粒ひと粒が一ミリもない上に、一点に固定されておらず自由気ままに動く砂の粒を砕くという事は流石のレイバンさんにも出来るはずはなく……そのまま舞い上がる砂塵の中に、取り込まれてしまった。
「ぐっ……確かに砂塵が妨害して、上手く当たりを見渡せないが、しかし迂闊だぞカノン殿(行動音や気配を辿れば良いだけだからな!)」
レイバンさんはそんなことを思いながら、じっと俺の発する音や気配を探し出そうとする。
まあ、間違ってはいないだろう。
俺がこうして当たりを砂塵で満たしたのは視界を封じさせて、このような状況にするためなのだから。
……だが、ここでもレイバンさんは俺の罠に嵌っていたのだ。
『ドッ!!』
彼から見て右斜め前方の方角のその辺りから、砂塵の舞う音ではない、何かが突き刺さる音がレイバンさんの耳に届いた。
「そこかカノン殿!!」
レイバンさんは霊装能力を最大限に活用して、その一点にを狙い……凄まじい腕力で、
これまでと比べてもなお衝撃的なその一撃は、俺の四肢を砕き身体を砕き、一撃で戦闘不能に追い込むと思われた。
……が、しかしそれは当たればの話であり……そして、その地点には俺は居なかった。
「何!?」
そう……そこにあったのは俺ではなくて、世界樹の木刀だけであった。使用者の俺がおらず……世界樹の木刀は地面に突き刺さっている。
(っ!そうか、あの音はカノン殿の木刀が大地に突き刺さる音か!?ぬぅ……やられたな、まさか私の思考を逆手にとるとは)
そしてレイバンさんが今、巨斧で叩いたのは世界樹の木刀の柄であった。
彼のその一撃は確かに協力で……並の霊装神器ぐらいなららくらく砕きそうな程だが、しかし世界樹の木刀には特性『不滅』があり、絶対に壊れない。
結果、大地に突き刺さっている世界樹の木刀を奥深くまで押し込むだけに終わってしまい……大地が陥没する砕かれるなどと言う事はなかった。
「──やっと……隙を見せましたね」
そして、レイバンさんが驚愕から隙を見せたその瞬間……俺は、宙に浮く体力の砂塵を切り裂きながら突き進み、そのまま彼の背後まで移動した。
「──ばっ!?カノン殿!?」
いきなり背後に現れた俺に驚くのは……無理もないだろう。
レイバンさんはそのまま後ろを振り向くために、足腰を捻ろうとするが……
「レイラと同じで、レイバンさんの霊装能力はあくまでも霊装神器にしか働いていない!!なら、霊装神器を用いない行動には能力が影響されず、素の身体能力が全面に表れる!!」
そう、レイバンの場合は巨斧を使用する際には能力の影響を受けるが、しかし下半身を使って、回避したりする場合には霊装能力の影響を受けにくいという事である。
まあ、霊装神器の重量を変化させるというものなので、少しは影響を受けるのだろうが、しかしそれも微々たるものだ。
そして、今回の後ろを振り向くという動作もそれに該当する。
そうなれば互いの素の身体能力で、特に速さで勝負が決まるということであり……そして俺の方がレイバンさんよりも優勢であるのだ。
「う、お゛お゛おおあああぁぁぁっ!!!」
身体を捻りに捻り……限界まで力と威力を溜め込んだ俺は、圧縮したバネを解放するかのようにら一気に右拳をレイバンさん目掛けて突き出した。
あまりの威力にボウン!!と、よく分からない効果音まで発生する始末。
その頃になってよう泣くレイバンさんは身体ごとこちらへも振り向いたが……既に時遅し。
閃光の如き俺の拳は一瞬でレイバンさんの鳩尾前まで到達し……ドン!!とその場で停止した。
強引に引き止めたことによって、その力の余波か辺りに衝撃波が巻き散らせれて、砂塵に干渉する。
その結果、俺達の辺りを阻害していた体力の砂塵が一瞬で、そして一気にどこかへと吹き飛ばされていくようにして霧散した。
俺達を太陽の光が照り付ける中……砂塵が晴れて、当たりを見渡すことが……そして視界が広げられた。
今の俺達の体勢は……レイバンさんがこちらを向いて固まっているのに対して、俺の方は右拳を彼の鳩尾の前に突き出しているという物だ。
誰がどう見ても勝敗は明らかだった。
というか、実際には観客の騎士たち数名は「嘘だろ?」「……なぁ、これって」「騎士団長が……負けた……」などと驚愕の様子を見せているし、それに驚愕とは無縁そうなイーグリア侯爵ですら、驚きを隠せていなかった。
……まあ、レイラは何故か、満足そうに照れたような笑みを浮かべていたが。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は、息を荒くしながら……しかし絶対に拳の位置をずらしたりはしない。
そんな俺を見ていたレイバンさんは少しの間状況が呑み込めなかったのか少し黙っていたが……しかし、しばらくして微笑を浮かべて口を開いた。
「見事だカノン殿。何事にも囚われずに、自由気ままに戦うその姿勢は見ていてとても気持ちの良いものだった」
「はぁはぁ……あ、ありがとうございます……」
もしも、俺がこの右手を鳩尾の手前で食い止めていなかったら、恐らくはレイバンさんはあまりの衝撃に心臓が停止して……死んでいただろう。
それを理解しているのかしていないか……とりあえず、俺のその拳を一目見たレイバンさんは、審判であるレイラが宣言する前に、自らこう告げた。
「私の負けという事だな。……降参しよう」
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