第44話 【侯爵家と炎帝の学院入学試験 4 】

《前書き》


作者です。

前回の更新から大幅に時間が空いてしまい申し訳ないです。

……いや、これマジのマジで心の底から思ってます。


ストックが無くなったので、ずっと書きためしていました。とりあえず、しばらくは毎日更新します(読んでくれる人がいるかは、分かりませんけど……)。


こんな作者ですけど、一応面白くしようと頑張ってます。ぜひ、読んでいってくださいね。


(震える小声)あ、あと面白かったら評価の方をお願いしたいなぁ……なんて言ったり?いやまぁ、それは裏を返せば面白くなかったら、評価しなくて良いってことですけど……。


カノン「……はぁ、そんな媚び売るような真似して評価されるわけないだろ?」


……ソウデスネ。


ゲフンゲフン。

……茶番すいません。とりあえず、色々お願いします。

__________________________________________________


「……ギルドマスター、カノンさんとレイラさんの両名をお連れしました」


 カレラさんは、一目見たら恐らくは忘れないであろうギルドマスターの執務室の巨大な扉をそう話しながらノックした。


 コンコンという軽やかな音が響く中、扉の向こう側から「……入っていいよ」というギルドマスターの声が呟かれた。


 ガイゼルとラーゼンについて先程少し予想外の出来事があったが、その後俺達はカレラさんの所へと向かった。

 カレラさんは俺達を見て、無事であった事にとても喜んでくれたのだが……しかし彼女には彼女の仕事が、そして俺達には俺達の用事があるので、特に長く無駄話をする余裕などはなく……こうして、ギルドマスターの執務室へと移動していた。


 ……まあ、無事って言っても本気で一回死んだんだけどさ。


「ん……」


 そうしてレイラが扉を開けた。


 扉ぐらいなら開けられるだろうが、俺は今怪我人という事で大事をとっての選択である。


「よく来たね」


 そうして俺達が執務室の中に入ると、立派な椅子に腰掛けているギルドマスターが、微笑を浮かべてそう歓迎してきた。

 ……しかし表情としては笑みを浮かべているが、その雰囲気からは疲れ果てているという事が分かる。


 ……どうしたの、というよりは、大丈夫だろうか?


「いえ、『大暴走スタンピード』についての依頼を受けた以上、報告するのは当然の義務です」


「ははは、まあそうなんだけどさ。……でもほら、怪我人の君にギルドまで出向いてもらっただろう?さすがにそれについては申し訳ないと思っていてね」


「……まあこう言ってはなんですが、そう思っているなら、勘弁して欲しかったですね」


「君の気持ちは十分にわかるけどさ……すまないけど、ギルドとしてはそうはいかないんだよ」


 俺とギルドマスターがそんなやり取りをすると、彼は視線の先を変えて、俺からカレラさんへと移した。


「カレラ、もういいよ。ここまで案内ご苦労さま。今はとても忙しいだろ?君は受付の仕事に戻ると良い」


 ギルドマスターは諭すように、優しい声色でそう告げた。


 カレラさんはその言葉を聞いて同意するところがあったのだろう、少し複雑な表情をしながらも「……分かりました」と話した。

 ……と、しかし執務室から退出する際に俺に一言告げてくる。


「カノンさん、本当に無事でよかったです……」


 俺はその一言にハッとする。何気ない、在り来りな短い言葉であったが、その中にカレラさんの確固たる意思が感じられたのだ。


 恐らくは彼女は俺の予想以上に俺の事を心配してくれたのだろう。


 ……まあそこまでする意味はよく分からないけど、とにかく今まで心配してきた分、とても大きな安堵を感じているというのはよく分かった。


 ──本当に良い人だ。


「ははは……まあ安心して下さい。こう見えても、実力には自信がありますからね。依頼を受けてそのまま帰らぬ人になった……なんてカレラさんを悲しませることはしませんよ」


 俺は謝罪するでもなく、感謝するでもなく、そう話した。


 これは俺自身の偽りなき、正直な気持ちなのだが……カレラさんは俺のその言葉を聞いて少しぽかんとし……しかし、数秒もしないうちに我に返ったのか、見てわかるほどに顔を赤らめて、俯きながら震える声で話した。


「そう、ですよね……カノンさんは私の前から居なくなったりしませんよね」


 しかしカレラさんはどこか嬉しそうに、続けて話した。


「はい……その言葉を聞けて安心しました」


「……っ!」


 はにかむような笑顔を向けられて、ドクンドクンと俺は少し動揺してしまう。

 元々の顔立ちが整っているうえに、どこか艶を増したその笑顔はとても心にくるものがあった。


「では、失礼しますね」


 カルラさんはそう言い残して、執務室から退出したのであった。


(なんと言うか……受付嬢って凄いんだな。……あんな営業スマイルができるなんて)


 言葉はともかく、あの笑顔は本心から……と言うよりは、受付嬢ならではの取り繕ったそれだろう。

 というか、それしか考えられないし。


 少し余韻を残しながら俺は深呼吸をして、振り返りギルドマスターとレイラの方を改めて見た。


「……ん?どうしたんだ?」


 しかし、何故かレイラがジト目でこちらを見ている事に気づき、俺は少し訝しみながらそう聞いてみた。


「……何でもないよ。ただカノンはカノンなんだなって思っただけだから」


 どこか不機嫌な様子を見せてレイラはそんな事を話す。


 なぜレイラがそんな様子なのかがよく分からなかったので、俺は「……え?」というすっとぼけた様な返事を返すしかない。


 たまにあるのだ。

 レイラは定期的に俺にこのような態度を見せてくる。


 そして理由を教えてくれないので、そもそも対策のしようがないのだ。


「……君はなんと言うか……見ていてとても面白いね」


 すると、ギルドマスターからそんな横槍が入る。

 レイラから視線を外し、彼を見てみると手を顎にあてながらニヤニヤとこちらを見据えていた。


 まるで何か面白いものを見たかのような、そんな視線に俺は少し面倒臭さを覚える。


「なんですかいきなり。少しウザったいんですけど……」


 俺が顔をあからさまに顰めさせているのを見たギルドマスターは「……ははは、まあいいか。……とりあえず話をしよう。そこに座ってくれないかい?」と来客用のソファを示しながら告げる。


 ……ようやく本題に入るようだ。


 少し有耶無耶となってしまったが俺は「まあ、いいか」と考えたので、こくんと頷いてレイラと共にソファーに腰かけた。


「とりあえず……君達にはお疲れ様、というべきなんだろうね」


 俺達の準備を確認するとギルドマスターはこちらをじっとみながら、そう呟いた。


 そこには労いの様子があることが見て取れる。


「……まあ、色々予想外の事がありましたけど結果的に程度が無事でよかったです」


「ん……本当に、大変だったけど」


 俺とレイラは『大暴走スタンピード』を思い出しながら続けざまにそう話した。

 連戦に続く連戦で、少なくとも俺は恐らくは今までの人生の中で最も濃密な戦闘を行なっただろう。


 かなりの戦闘経験が詰めたのだろうが、もう一度やりたいかどうかと聞かれれば……しかし真っ先に遠慮したい。


「本当にお疲れ様。君達のおかげで帝都は守られたんだ。誇って良いよ。……特にカノン君、君は英雄と呼ばれてもおかしくない程の働きを示したんだ」


 ギルドマスターのその言葉に俺は歓喜に打ち震える。


「……っ!!……ありがとうございます」


 英雄……という言葉に俺は特に反応した。

 数年前は無能と蔑まれていた俺が、ギルドマスターという帝国屈指の重鎮にそのような事を言われたのだから。


 嬉しくないわけがなかった。


「……さて、じゃあ今から報告書の真偽に齟齬がないかどうかを確認させてもらおうと思うんだけど。……そこまで時間はかからないと思うし……良いかい?」


「はい、俺は大丈夫です」


「……ん、私も大丈夫だよ。特にこの後予定がある訳じゃないしね」


 この執務室に来ているなら、ある程度は予想をしていた事である。

 なので、俺とレイラは迷うことなくそのように即答した。


「これは……主にカノン君だね」


 そうして矛先が俺に向く。


「……黄道十二星座ゾディアックの『天秤座ライブラ』……つまり、あの『大暴走スタンピード』でテオドール・ライブラと戦闘を行なったというのは本当かい?」


「っ……あ、はい……」


 俺はその単語と名前を聞いた瞬間、背中や顔に大粒の冷や汗が流れ出し、かなり動揺してしまった。


 今までで一番の強さを誇っていた敵で、ついには全力で挑んでも、善戦らしいことは出来たが倒しきることは不可能だった。


 あまりに強大すぎる敵……俺は彼を脳裏に思い浮かべて少し硬直してしまったが、何とか意識を働かせて、少し遅れてそう呟いた。


「……なるほど。それは、かなり厄介だね。まさかこの事件の黒幕が黒の反逆軍ブラック・リベリオンだったなんて」


 真剣な様子で何かを考えながら、そうしてうなり始めるギルドマスター。


 しかし俺は小声で呟く。


「……黒の反逆軍ブラック・リベリオン?」


 初めて聞く、聞き覚えのないその単語に疑問の念を抱いた。

 なんだその物騒な名前は、と思っていた俺だが、事情を察したのか隣で座っていたレイラが小声で耳打ちをしてきた。


黒の反逆軍ブラック・リベリオンは世間を騒がせてる大きなテロリスト集団……ううん、犯罪者ギルド。多分この世界で一番規模は大きいんじゃないかな?冒険者ギルドにはS級犯罪者ギルドとして指名手配されてる。目的は不明だけど、殺人、強盗、ハイジャック……何でもしてるね」


 それを聞いて……なるほど、と俺は納得する。


「うん、そしてその中でも最高幹部を黄道十二星座ゾディアックと言ってね、それぞれが各々の星座を司っているんだよ。合計で十二人。『天秤座ライブラ』……例えば君が戦ったテオドールは天秤座を担当しているんだね」


 俺達の話を聞いていたのだろう、ギルドマスターはより詳細にそんなことを説明してくる。


 そして更に、俺はその言葉を聞いて大きく目を見開かせて驚愕の表情を浮かべた。


「……は?ちょ、ちょっと待ってください。今、十二人って言いました?」


「え?うん、そうだね」


「という事は、テオドールと同じぐらいの強さの人達があと十一人はいるってことですか!?」


「うん、そうなるよ」


 俺はギルドマスターのその言葉を聞いて、「……まじか」と、頭が真っ白になり、体の全身から全ての力を抜いてしまった。


 あまりの衝撃的な内容に、上手く思考が働かなかったのだ。


 テオドール一人でも頭を悩ませるのに、それがあと十一人いるときた。

 確かにウェスタさんなんかも俺よりも圧倒的に高い実力を持っていたが、それでも他にもまだまだいるなんてのは考えもつかなかった。


 ……そして更にそんな状況の中、俺に追い打ちがかけられる。


「それに、『天秤座ライブラ』といっても、その実力は『黄道十二星座ゾディアック』の中でも中堅程度だと思うよ?あくまで噂だけど、『天秤座ライブラ』よりも強い幹部は多く居るらしいし」


「……は、ははは……それは、なんとも……」


 もはや自分でも上手く笑えているか分からない。


 どうやら俺の考えはだいぶ甘かったらしい。

 テオドールと同格……などと考えていたが、実際はテオドール以上の強者が何人もいるのだとか。


 別にそのテロリスト達と戦う訳では無いが、俺はその事実に、どのような反応を取れば良いのかすら分からなかった。


「……ただまあ、予想はしていたことだけどね」


 ギルドマスターは何気なくそんなことを呟いた。


「……どう言うことですか?」


 俺は気を取り直して、ギルドマスターのその言葉に対して疑問の念を抱きながら、質問した。

 予想していた、という言葉の意味が俺はよく理解できなかったのだ。


「実はねカノンくん達が防壁の向こう側で『大暴走スタンピード』の対応をしている際に、帝都の中で見回りの冒険者達によって、不振な人物が幾人も発見されているんだ」


「……え?」


 不振な人物……それはあの『大暴走スタンピード』によって、帝都が混乱している隙を狙って行われた、強盗か何かだろうか?


 俺がそんなすっとぼけた様な声出すと……ギルドマスターは、どこか複雑な笑みを浮かべながら話した。


「いや、違うよ。ただの犯罪者ならまだ良かったんだけどねぇ……どうやら、その者達は皇帝陛下の暗殺を目論んだ、何処かの特殊部隊……いや、暗部であるらしいんだ」


「なっ!?」


「情報を引き出す前に手を打たれたから、その正体は具体的には分からなかったけど……恐らくは黒の反逆軍ブラック・リベリオンの一員なんだろうね」


 ギルドマスターのその言葉に対して俺は目を見開いて、驚愕の様子を示す。


 まあ、それもそうだろう。

 皇帝陛下の暗殺を目論んだ暗部が程度に侵入していた、という事実を聞かされたのだから。


 更には、その黒の反逆軍ブラック・リベリオンが関わっていると言う。


 そうなると、俺はどのようにして警備をくぐりぬけてその暗部達が帝都に侵入したのかを疑問に感じたが……直ぐに考えついた。


 恐らくはウェスタさんの手助けによって転移してきたのだろう。

 そうなれば全ての辻褄が合うし、それが最も現実的であった。


「……って、手を打たれたってどういう事ですか?」


 俺はそんなことを考えていたが、直ぐにそのようにギルドマスターに問いかける。


 ギルドマスターのその言葉の言い回しには、どこか引っかかる……というか、違和感を覚えさせられるものがあったのだ。


「あぁ、この場合の手を打たれたっていうのはね、『自決』したっていう意味だよ。予め奥歯に仕込まれた毒を使って、ね」


 ギルドマスターはそんなことをサラッと話す。


「それは……」


 俺は思ってもいなかった事実に驚愕しながらも、何とか言葉を口にしようとしたが……しかし、そこから言葉が出てこない。

 つまりは冒険者達に捕まってしまったその暗部は、情報の漏洩を防ぐために、自決したという事だろう。


 テオドールによって支配されているのか、それとも自らの意思であるのか……。


「ほら、私は言っただろう?」


「……え?」


 どこか自信に満ちた微笑を浮かべながら、ギルドマスターは俺に向かってそんなら事を呟いてきた。

 一体何を言ったのか、俺はそんな事が少し気になり、思わず無意識にそう口から漏らした。


「生きていようと死んでいようと関係ないって事さ」


「……っ!!」


 俺はドキッと反応する。

 あれは確か『大暴走スタンピード』に向かう前にこの執務室で、ギルドマスターに言われたことであった。


 なるべく人を殺したくはないという事を伝えた俺に、ギルドマスターが告げた言葉だ。


 ギルドマスターは分かっていたのだ。

 もちろん黒の反逆軍ブラック・リベリオンだという事は具体的には分からなかっただろうが、この手の組織の構成員は情報漏洩を防ぐために、自決する可能性が高いという事を。


 なので、あのような事を俺に伝えてきた。


 まぁ、今回の事件の黒幕だったテオドールが強すぎたおかげで生け捕りにすることは……というか、そもそも倒すことが出来なかったが、もし俺がテオドールを捕えることが出来たのなら、彼もまた自決をしたのだろうか?


 ゼイズさん達も、恐らくはそれまでの経験からそのことを分かっていた。


「くそ……」


 それは悔しさから来たものか、それとも苛立ちから呟いたものか……。


 歯を食いしばりながら、俺は一人げにそんな事を呟いてしまった。

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