第43話 【侯爵家と炎帝の学院入学試験 3 】
―――翌日。
一日が経過してかなり様態がかなり回復してきた俺はレイラと共にギルドに向かっていた。
しかし、普通の人間ならどんなに回復力に優れていても、ここまで早く回復を果たすことはできないだろう。
『活性』という桁外れの特性を持つ、世界樹の木刀を使用する俺だからこそである。
謎の多い世界樹の木刀だが、実は意識があったと言っても俺の相棒であることには変わりない。
……まあ、神様の一柱という事にはさすがに驚愕したが。
「……いててて」
しかしさすがの『活性』といえども、たった一日で完治させることは出来なかったらしい。
歩けるぐらいには回復したが、まだまだ体の所々がズキズキと痛むので……俺は片手で杖をつきながら歩いていた。
自己治癒力の大幅強化……これは元々の自己治癒力に左右されるので個人差はあると思うが、少なくとも俺はそのような結果であった。
「ん……カノン、ギルドが見えたよ」
俺の隣で歩いていたレイラが、そう声をかけてくる。
いつもよりも圧倒的に歩くペースは遅かったが……病院から出て、約数十分程で目的地である冒険者ギルドに到着した。
「……それにしても、一応俺は怪我人なんだけどなぁ……。はぁ……俺結構頑張ったんだからさ、欲を言えば向こうから出向いて欲しかったよ」
俺は今朝ギルドの使いの職員からギルド本部に来るように、という連絡を受けた。
目的は特に伝えられてはいないが、恐らくは……というか確実に
故にこうして俺はギルドに出向いていたのだが……先程も言った通り俺は怪我人であるのだ。
怪我が治っていない以上は出来れば歩きたくはなかったので、そんな事を考えてしまう。
「ん……とりあえず、中に入ろうか」
レイラは俺のそのつぶやきを聞いたのか聞いていないのか……そんな事を話してくる。
「……まあ、そうだな」
しかしいくら内心で愚痴を言っても、それはただ虚しいだけである。
俺はその言葉を聞いてそう考えて……「……よし!!」と、気持ちを取り直してギルドに入る事にした。
◇ ◇ ◇
「うわっ……すごい人だなぁ……」
俺がギルドに入って第一に呟いた言葉かそれだ。
いつもこの時間帯はかなりの冒険者が存在しているのだが、それとも比べ物にならないほどに、現在ギルド内には冒険者達が存在していた。
ギュウギュウと密集している……という訳では無いが余裕を持って歩くのは少し困難だな、と思うぐらいには冒険者が居た。
「なんで……って、それはそうか……」
俺はその理由を一瞬で模索していたが……すぐに思いついた。
報酬を受け取りに来たり素材の買取であったり……溜まっている依頼を受けに来たという、恐らくはそのような様々な理由だという事を。
……まあ、いくらなんでも多すぎる気がしないでもなかったが。
「ん……確か朝来た人はカルラにでも声掛けすれば良いって言ってたよね?」
「ん?ああ、確か……」
人混みの中、俺達はそんな事を話す。
ガヤガヤと賑やかな様子のこの中では、俺達がギルドに入ってきたという事には誰も気づいてはいないようであった。
まあ、俺は悪い意味で何かと有名らしいので……出来れば悪目立ちはしたくないという事で、別に良かったのだが……。
―――しかし、そう話して俺とレイラが受付で多忙そうに仕事をしているカルラさんの所へと足を運ぼうとした時、横から声をかけられた。
「「おはようございます!!兄貴!!」」
どこかで聞いたことのあるようなそんな声色が二重に重なって、俺達の耳に響いた。
「……え?」
俺はそんなすっとぼけたような……呆けた声を漏らしてしまう。
その様な呼ばれ方をされるのは初めででは無いので、そこまで驚くことでは無い。
しかしいつも通り軽く受け流そうと、その者達の顔を見た瞬間、俺はその者達の顔立ちに驚いてしまったのだ。
―――そこに居たのはいつもの顔ぶれではなくて、俺が
確かCランク冒険者で名前が……確かダンベルさんとゼラチンさんとか言った様な……。
「ガイゼルと、ラーゼンっすよ!!なんすかダンベルとゼラチンって!?」
しかし俺の顔色を見た彼らは苦笑をしながら、そう言ってきた。
……ああ、確かにそんな名前だった様な。
(……というか、ピンポイントで名前を当ててくるって凄いな!?まさか心でも読んでるのか……?)
俺はそれに驚愕を隠せない。
名前を間違えているというのならばある程度は顔を見れば分かるのかもしれないが、どんなふうに間違えているのかまで当ててきたのだ。
ただ単に俺のポーカーフェイスが未熟すぎるのか……それとも……。
俺がそんなことを考えてしまったのも無理無いだろう。
「……というか兄貴って、どう言うことですか?貴方達は俺達の事が、嫌いだと言うふうに俺は思ってたんですけど」
二人のその瞳にどこか尊敬や好意の感情が浮かんでいるのを見て、俺は戸惑いながらもそう質問をした。
俺の隣で立っているレイラはなんかは、彼らを見た瞬間、あからさまに顔を顰めさせている。
……まあこう言うのはなんだが、その嫌がる表情も美しかったが。
「先日助けてもらった時に、俺達は兄貴の器の大きさに惚れましたっ!!!これまでの事は謝罪します、だからこれからは兄貴と呼ぶのを許して貰えないっすか!?」
そんな事を突発的に話すものだから、俺は「……えぇ?」と困惑をしてしまう。
それがどうしてこんな事態に繋がったのかが、俺は理解できなかった。
「ん……カノン。これはどう言う事?」
俺が困惑していると、レイラが横からそう耳打ちしてくる。
俺はすっかり忘れていたという事もあって、
……それに、もし話していたら明らかに不機嫌となるという事も予想がつくしな。
「ああ、実はさ……」
しかし今となってはもう関係は無い。俺はそうしてレイラに経緯を説明する。
俺の話を聞くうちにレイラは案の定、顔をだんだん見て分かるほどに顰めさせて言ったが……一応話は最後まで聞いてくれた。
すると、彼女は重そうに口を開く。
「はぁ……やっぱりカノンはカノンなんだね。……正直、私はこんな奴ら助けなくて良いと思うんだけど」
「……まあ、それはさすがに……」
確かに俺も彼らの事はあまり好きではないが、さすがにそれは言い過ぎではないだろうか。
無駄にして良い命などはこの世に存在しないのに。
……と、俺がそんな事を考えながらレイラにそう言葉を送っていると……どこか真剣な雰囲気を纏ったガイゼルとラーゼンがレイラの前に歩み寄った。
それを見たレイラは冷ややかに視線を彼らに向けたのだが……
「先日はすまなかった。全ての落ち度は俺達にある。……もちろんあの発言は撤回させてもらう」
「図々しいと思われるかもしれないが、どうか許して欲しい」
彼らはそんな視線を向けられながらも丁寧に、しっかりと礼節をわきまえながらそう謝罪をしたのであった。
それには俺も……そして、さすがのレイラも驚愕する。
以前のそれからは考えられない程の態度であったからだ。
……見て分かるほどにプライドの高そうな彼らが、少女一人に頭を下げるというのはどれほどの決意なのだろうか。
「え?あ、うん……?」
レイラはどのような反応をすれば良いのかが分かっていないのだろう。
少し戸惑いながら、彼女はそんな言葉を紡ぐしかなかった。
予想外な出来事が起きた時に、このようなタジタジな反応になってしまうのはレイラらしいと言えばレイラらしいが。
まあ、別にレイラは彼らの事を許したがためにそう呟いた訳ではなかったのだが……それは傍から見れば違う。
「そ、そうか!ありがとう、いや……ありがとうございます、姉御!!」
「こんな俺達を許してくれるなんて……やっぱら寛大だぜ」
彼らはレイラのその言葉を聞いて、少し勘違いをして、その様に嬉しそうに話した。
……さらに状況が悪化した。
俺の事を兄貴と呼ぶだけではなく、レイラのことを姉御とか言う訳の分からない呼び方で呼び出したのだから。
レイラは不愉快……というよりは、不機嫌そうにあからさまにさらに顔を顰めさせた。
……しかし、その事に彼らは気付かない。
「よし!行くぞガイゼル!!今から依頼を受けまくって、兄貴と姉御に良いところを見せるんだ!!」
「そうだなラーゼン!!……じゃあ自分達はこれで失礼します!!何か困ったことがあったらいつでも呼んでください、力になります!!」
彼らはそう言って俺達に軽くお辞儀をした後、すぐに受け付けのカウンターのほうへとせっせと歩いていってしまった。
……あまりの展開に呆然とするしかない。
ほとんど一方的な会話に意識がついていけていなかったのだ。
「よく分からないけど……な、なんか凄い変わりようだったな……」
「う、うん……」
レイラと俺は互いに心の底から思った、そんな事を話し合う。
前も言った通り、俺は彼らがレイラにした仕打ちを恐らくは一生忘れないだろう。
……しかし、先程の彼らの様子からは、全く悪意などの悪感情が感じられなかったのもまた事実だった。
恐らくはレイラは良い顔はしないだろうが……しかし俺は今の彼らとなら仲良くすることが出来るかもしれない、という事を不意に思ってしまった。
(まあ、あの呼び方はやめて欲しいけどな)
「……ん、なんだ?」
と、その瞬間……俺が意識を傾けると、やけに冒険者達がこちらに視線を向けながら、ザワザワとしているのに気づいた。
そこには好意的……と言うよりも、興味深いという感情とどこか恐怖の感情の、その二つが主に存在していることが読み取れる。
「すげぇ……あのラーゼンとガイゼルもついにカノンの子分になってるぜ……」
「あのプライドの高い二人まで籠絡するなんて……このまま、ギルドを乗っ取たりするのか?」
「いや、いくらなんでもそれは無いだろ。……無い、よな?」
「いやでも実際、悔しいけど俺達じゃあいつに勝つことは出来んだろ。……あの戦闘見たか?化け物って言葉でしか形容できないぜ?」
どうやらあの二人が騒いだお陰で、俺とレイラの存在を冒険者達は認知したようであった。
まあ……お陰でと言ったが、全く嬉しくは無いのだが。
そうしてそんな事をヒソヒソと話しているのが、俺の耳には聞こえた。
……ギルドを乗っ取るとか、もはや酷い言われようである。
そんな事をするはずが無いのに。
「……はあ」
だが最早規模が大きすぎる。
ここで訂正したところで、それが及ぼす影響は微々たるものでしかないだろう。
俺は無駄だと言うことを何となく悟り……そうため息を吐きながらレイラと共にカルラさんの所へと、足を運んだのであった。
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