第23話 【大暴走と黄道十二星座 3 】
「よく来たね。歓迎するよ」
俺がギルドマスターの執務室に入って一番に告げられたのがその言葉だった。
俺はそう言ってきた相手を見る。
執務室自体はとても大きく、その中でも一目見て立派だと分かる椅子に座っている男。
その男は長い金髪を持っており、その緑の瞳はとても美しい……とても端正な顔立ちをしていた。
端正な顔立ちと言ったが、それは具体的にいえば一種の柔和的な顔立ちである。
更には男の持つ金髪。これだけ見ればレイラと同じように見えるかもしれないが、その男の物はレイラとは違うベクトルの美しさを持っていた。
が……しかし、その男の持つ最も特徴的なところは端正な顔立ちでも、まるで全てを魅了するかのような声でもなく、その長い耳である。
その部分だけ見れば明らかに人間では無いが、あいにく俺はこれを知っている。
ユーリの婆さんと同じで、この男は『
俺が『
そもそも『
ということで、俺はこの短期間で二人の『
「ああ、……はい。えと、ギルドマスター?でよろしいんですよね」
「うん」
「ランクD冒険者として登録させてもらっているカノン・シュトラバインです。……それで今日は何用でしょうか?」
「やっぱり気になるようだね。今からきちんとそれを説明するから……立ち話もなんだし、とりあえずそこに座って」
ギルドマスターはその顔をニコニコさせながらそう言ってきたので、俺は「……わかりました」とだけ言って来客用に、と思われるソファに座ろうとした。
が、しかし俺はその瞬間一人の女の子がソファの上にちょこんと座っているのを確認する。
……一人の女の子というか、その子はよく見知った顔であった。
なんならパーティメンバーまである。
「レ、レイラ!?」
俺が驚きからそう叫ぶと、レイラはこちらを向いて話す。
「ん……もぐもぐ。どうしたの?」
というかなんでレイラがこのギルドマスターの執務室にいるんだ?
それにギルドマスターから貰ったのか、大量にお菓子まで食べているし……。
相変わらず緊張感の欠けらも無いな。
俺はそんなことを考えたが、レイラのそれは何度も経験しているので「はぁ……」とため息をついた後、とりあえずレイラの隣に腰を下ろした。
「ははは、とてもレイラの相手をするのは大変そうだねぇ。うん、カノンくんはとても苦労しているようだ」
そして、そんな俺の反応を見たギルドマスターは軽そうな笑みを浮かべながらそう言ってくる。
……この人、本当にわかって言っているのだろうか。
「はぁ……どうしてレイラが居たりするのかはわかりませんが、とりあえず説明をお願いしたいのですが」
ギルドマスターという重鎮は最も固い性格をしていると思っていたのだが、実際会ってみてこんな軽そうな性格の持ち主だということがわかるとため息しか出てこなかった。
先程まで緊張していた自分が馬鹿みたいだ。
俺は呆れなどの感情が心の中に渦巻いたがそれを制御して説明を促す。
「君はため息ばかりつくねぇ。いつか幸運が逃げてしまうのでは無いのかい?……まぁ、それはいいか。真面目な話をしよう。今日の呼び出しの用件だったね」
ギルドマスターはようやく本題に入る。
「今日君をこうして呼び出したのはギルドマスターとして、冒険者の君に『
またそれか……。とりあえず依頼とか、分からないことだらけなので一つずつ順に解決していくとしよう。
「無知蒙昧ということで……申し訳ないのですが、質問をしても宜しいですか?」
「うん」
「先程受付でカレラさんからも聞いたのですが、その……先程の『
最初は一番の疑問を口にしてみる。
俺の無知さを示すようでとても恥ずかしいが、どうやら重要な単語みたいなので、知っておく必要がある。
俺はそう考えていたが、ギルドマスターはニコニコと、しかしどこか真剣な様子で説明をしてくれた。
「『
「なっ!?……て、帝都にですか?」
「うん。ギルドに冒険者が居ないことを不思議に思っただろう?」
「あ、はい。ギルド職員やどこかのお偉い様か……とにかく冒険者が居ないというのはとても考えました」
「そりゃそうだよ。数時間前にギルド内にいた冒険者全てに帝都壁の外側で魔物を全て討伐するようにってていう要請を出したんだからね。ギルド内にいなかった者に関しても、その者の住み家に連絡を入れたからほとんどの冒険者が壁の外にいるはずだね」
ギルドマスターは話し続ける。
「もうそろそろ戦いが始まる頃じゃないかな……まあ、勝算は十分にあるさ。ここは帝都だからね。竜騎士や騎士なんかも多く参加しているし」
なるほど。それでギルドに冒険者が一人もいなかったというわけだ。
冒険者ギルドに冒険者が一人もいない……というの外から見て少し異質な光景だったので気になっていたのだが、これで解消した。
(だけど……なぜ俺のところには連絡が来なかったのかが気になるな。それに、街中の冒険者だって……)
ということで二つ目の質問である。
「まあ、ギルドに冒険者がいない理由はわかりました。……それで二つ目の質問なのですが、俺のところに連絡が来なかった理由と……後、街中に武装してうろついていた冒険者の方々は……」
「ああ。君のところに連絡が怠った理由か……ああ、君は自分の家ではなく宿に泊まっているね?」
「え?……はい」
「多分、それが理由だね。簡単に言うと、ギルドが君の情報を管理できていなかったんだ。自分の家を持っているならそうはならないんだけど、そうではなく宿に泊まっていると、情報が上手く管理できていない場合があるということだね。すまない……ギルドも万能じゃないからね、こればっかりは申し訳ない……としか言えないよ」
よく分からないが、ざっくりいえばギルドは俺の住んでいる宿がどこか分からなかったということだろうか。
まあ、それで怒る訳でもないし、組織のことはよく分からないので、とやかく言うつもりもない。
と、俺がそう考えているとギルドマスターが口を開く。
「ただギルドもそれは理解しているから、緊急事態の場合は警報を鳴らす義務があるんだよ。それで一般市民の方々もそれぞれの家宅に避難したりするんだけど……」
「け、警報ですか?……それらしきものは特に聞こえた覚えは無いのですが」
「え?確かになったはずなんだけど……」
俺のその言葉を聞いてギルドマスターが訝しみ始めた時……
「多分カノンが寝てる時になったんだと思うよ。もぐもぐ……カノンは一度寝たら、自発的にじゃないとちょっとやそっとの事じゃ絶対に起きないから。……殺気を当てるぐらいしないと……もぐもぐ、それも濃密なやつ」
今まで黙っていたレイラがクッキーを頬張りながらそう話してきた。
なるほど、そういうことか。確かに俺は一度寝ると全然起きないという短所があるという事は理解している。
その警報は確かになったが、俺はそれに気づかなかったということか……。
俺がそう考えていると、ギルドマスターはその考えは失念していた。と言わんばかりの様子で呟く、
「いやはや……。警報自体、特殊な製法で作られていて、かなり深く眠っている者でも起こすことが出来るはずなんだけどなぁ」
その声はかなり小声だったが俺の耳はその言葉を聞き取ることに成功した。
……というか、さっき俺は悪くないみたいに考えてたけど、やっぱり五割……つまり半分ぐらいは明らかに俺に非があるよな。
ギルドマスターもそれはわかっているのだろう。口には出さないが明らかに少し不満の表情をしていた。
俺達(レイラを除いて)は少し気まずくなったが……俺は少しわざとらしく「あー……」と言って話す。
「俺に連絡がなかったことはわかりました……それで冒険者の方は?」
俺はそう聞く。ギルドマスターは相変わらず呆れ顔だったが、説明してくれた。
「……はぁ、君ってやつは……それは簡単さ。魔物が侵入してきた場合や不審者をがいないかどうかを警備するためだよ。まあ……帝都城にもまだ多くの騎士が在中してるけど、一人一人の練度を見れば冒険者の方が高いからね……一応保険さ」
帝都内でも、これに乗って何かが起きる可能性があるという事ということか。
まああくまで保険ということで、分かってはいたがそこまで数を用意してはいないらしい。
「なるほど、よくわかりました。……で、結局俺はなんのために呼び出されたのでしょうか?それとレイラがここにいる理由もお願いします」
これまでの情報を頭の中でまとめた俺は、結局のところなぜ俺が呼ばれたかなどの疑問をぶつけた。
事情を説明するだけなら、わざわざギルドの最高権力者であるギルドマスター直々でなくてもいいのだ。
それこそ、受付にいるカレラさんでも良い。
こうして呼び出されたのは事情説明以外に何か必ず理由があるはず……と俺は踏んでいたのだ。
そして、実際その予想は見事に的中していた。
「ふぅ……なかなか頭が切れ、勘も鋭い……か。うん、そうだよ。カノンくんの予想通りだ」
そう呟くとギルドマスターは椅子の背もたれに自身の身体を預ける。
そうして言った。
「今回の『
と。
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