第22話 【大暴走と黄道十二星座 2 】

「これはなんだ……。何かあったのか?」


 俺は帝都の大通りを歩きながらそんなことを呟く。


 あの帝都誕生祭から二日が経過した今日。


 俺は冒険者としてパーティメンバーのレイラと今日は、討伐依頼を受ける予定であるので、ギルドに向かっている最中だった。


 いつもはレイラが俺の泊まっている宿に来るので、一緒にギルドまでは赴くのだが、今日はギルドで集合することとなっているので、こうして一人でギルドに向かっているわけだ。


 ちなみに二日が経っているというのは、昨日を休みにしたためである。俺達は帝都誕生祭を深夜まで楽しんでしまったということで、翌日は休みにしようと言う話になったのだ。


 ……まあ、そのような経緯があったので今日こうしてギルドに向かって歩いていたのだが、既に宿から歩き始めてから数分……俺は明らかに帝都内の様子がおかしいということに気づきそう言わずにはいられなかった。


 天候などは特におかしくない。いつも通り……とは言わないがよくある曇りの天気だ。


 しかし、たった一つ……いつもとは明らかに違和感というか不気味さを感じる点がひとつ。


 こうしていつも通り大通りを歩いているのだが、全く人がいないのだ。


 いや、何人か何故だか武装をした冒険者がうろついているのを道中見たので一人もいないという訳では無いが、それ以外の一般市民は一人もいない。


 いつもはこの場所は様々な露店や店、それを買いに来る人々や仕事場に出勤する人など多様な人が存在しており、騒がしいと思わせるほどに賑わっているのだが、人が全く居ないせいで現実とは思えないほどに、無音で静かだった。


 そういえば、俺がとっている宿にも今日はやけに人がいなかったな……と考える。


(これは……怖い、な)


 俺がそう思うのも仕方ないだろう。


 いつもとは違う環境がこんなにも怖く違和感があるとは思わなかったのだから。




 ◇ ◇ ◇




 そうして歩くこと十分ほど……俺は冒険者ギルドに到着した。


 俺の頭の中ではもはや先程の、住民が一人もいないことについての不気味さしか考えていなかった。


 そして、案の定俺はまたここでも違和感を覚える。


 いつもはこの時間帯だと、ギルドから依頼のため、多く出入りしたり、ギルドの前の大広間では誰かと誰が待ち合わせをしていたり……というに多くの冒険者達が存在しているのだが、やはり今日はやけに少ない。


 やけに少ないと言ったのはたまにギルド職員が出入りするのを見るのでそう表現したのである。


(良かった……人が消えたとかそんな馬鹿げた話では無いようだな……)


 俺はそれを見て大きく安堵をした……がしかし、先程と同じで相変わらず外は人の気配がほとんど皆無と言ってもいい。


(本当にどうなっているんだ?ギルドも帝都の住民も……)


 俺はそう考えながら、ギィィという鉄の錆びたような音を立てるギルドの扉を開ける。


 そうして中に入ると、そこにはいつもとは違う衝撃的な光景が存在していた。


「おい!!冒険者たちにもう収集はかけたのか!?」


「はい!!ギルドにいたランクAからGの全ての冒険者に収集要請を既に出ております!!」


「もう向かっているのか!?」


「はい。既に配置についており、戦闘準備は整っています!!」


「そうか!!……『頂きの数字ナンバーズ』はどうだ!?」


「ランクS冒険者はただいま危険度Sの魔物の討伐の為、両名とも帝都から遠出をしています!!一応呼び戻しの連絡は入れましたが、おそらくは間に合わないでしょう」


「チッ!クソが!数千もの魔物を相手するのに『頂きの数字ナンバーズ』が居ないなんて……っ!ランクA冒険者はどのくらいいる!?」


「四名です!!」


「そうか……。よし!!奴らはいくつもの群れに別れて四方から俺たちのことを殺りに来るつもりだ。北・東・南・西に一人ずつ行かせるように指示しろ!!何としても帝都を死守するんだ!!」


「わかりました!!」


 俺がギルドに入って一番に見たものはギルドの職員たちがそんなことを言いあっている光景だった。


 その人達だけではない。他を見渡していると、全てのギルド職員たちが慌ただしく真剣な様子で、様々な作業を行っている。


 色々な職員の会話が飛び交い、かなり騒がしい。


 俺がギルドに登録してまだ日は浅いが、こんなに忙しく……焦りながら仕事を行っているのを見ればこれがなにか異常事態だということぐらい分かる。


 あまりの忙しさに俺がギルドに入ってきたことを誰一人気づいていないような……それほど忙しそうであった。


「……な、なんだ?」


 しかし、そう呟くと同時に俺は思いつく。


(まさか帝都の人達の様子がどこかおかしかったのはこの騒動が関係しているのか?……というかギルドのこんなにするって……一体何が起きてるんだろう?)


 ……と、俺がそう考えながらカウンターを見てみると、そこには馴染みの受付嬢が同じく忙しそうに仕事をしているのが見えた。


「あれはカレラさんか。……事情を聞いてみるとするか」


 そうして俺はカレラさんのいるカウンターへと歩いていく。


 今気づいたが、よく見ればギルド内には俺以外の冒険者が皆無と言ってい位ほどに居ない。


 ギルド内にいる人の数は少なくない訳では無いが、その多くがギルド職員で、他はどこかのお偉い様だろうか、正装している男たちがいるだけだ。


 そして、先程のギルド職員の会話を思い出す。


(そういえば『冒険者を収集』とか言ってたな……。よく分からないけど、帝都に何かが攻めてきたから冒険者を必要としている……とかか?)


 しかしギルドに冒険者がいないということは、そのほとんどが呼びかけられたということである。


(もしそうなら、それって……どんなやばい魔物なんだ?)


 そこで俺は、「あっ……」と気づく。


(ここにいないってことは……まさかレイラもかっ!?……なら、ゆっくりしてる暇はないな、どこまで役に立てるか分かんないけど、俺も行かないと)


 そう考えながらカレラさんの近くへと来た俺はカレラさんに話しかける。


「カレラさん」


「え?……カ、カノンさん!?」


 俺を見たカレラさんは驚く。


 俺はこれにどこか既視感を抱いたが、そんなことを話す暇はない……と話す。


「はい、カノンです。……それでこれはどういう状況なんでしょうか?なにかただ事じゃないことが起きたってのは分かりますが……」


「『大暴走スタンピード』が起きたんです!!」


「す、スタンピード?」


 俺はその聞き覚えのない単語にそう返す。


 いや、正確には王都の冒険者育成学校でそれ自体は習ったような気がするが、どのようなものだったかまでは覚えていないというのが正しい。


「ああ、『大暴走スタンピード』っていうのはですねぇ……って、そんなことを説明している場合じゃありません。今すぐギルドマスターの所へと言って貰えませんか?カノンさんに出頭要請が出ています」


 カレラさんはそれを説明しようとしたが、途中で投げ出して俺にそう言ってきた。


(出来れば説明して欲しかったけど……というかギルドマスター?このギルドで最も偉い人がなんで俺なんかに……)


 この帝都支部のギルドのマスターであれば、その立場もあって、皇帝陛下にも謁見が叶うほどの重鎮である。


 そんな人物から呼び出しなど、緊張で少し体が固くなったり、何故?という感情が渦巻くのは仕方なかった。


「ギルドマスターの執務は二階にあります。本来なら職員がその部屋まで同行する義務があるのですが、今は非常時ということでお一人で言ってもらっても大丈夫です。」


 状況がよく呑み込めていない俺にカレラさんはそう言ってくる。


 だがまあ、とりあえず行ってみるか、と俺は考えた。


 なんの用かは分からないが、カレラさんから真剣な様子が先程から伝わってくるからだ。


 それにカレラさんがこうなので、ギルドマスターから状況を説明してもらえばいいか、などと思っていたりする。


「分かりました。それで、どこを行けば……」


「ああ、そこにある階段で2階に上がってもらって、そのまま通路を真っ直ぐに進めば、ギルドマスターの執務室がありますので……」


 俺がその執務室までの行き方を尋ねると、カレラさんは階段を指さしながらそう言ってきた。


「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」


「はい。ギルドマスターはとても温厚な方なので、最低限の礼儀やマナーさえ護っていれば大丈夫ですよ」


 そう言ってカレラさんはすぐに仕事に戻っていってしまった。


 そして俺はカレラさんが先程指さした階段まで移動し、一段一段と上がっていく。


 階段はそこまで長いものではなかったのですぐに二階へと到着した。


 そうして見ると、カレラさんの言った通り通路が続いており奥にはなかなか大きい扉があるのがわかった。


 そして、俺はその通路を歩く。所々に会議室やなんやらと思われる部屋があるのがわかったが、俺はそれを無視し歩いていった。


 数十秒もしないうちに到着した俺は「ふぅ……」と少し深呼吸をしながらその扉を『コン、コン』と二回ノックする。


 そうすると向こう側から直ぐに、


「どうぞ入ってください」


 という、まさに優男と言う感じの声色の声が聞こえてきた。


 おそらくはこれはギルドマスターのものだろうと俺は考える。


(よし……)


 そうして俺は扉を開けて、執務室の中に一歩を踏み出したのだった。

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