第31話 【大暴走と黄道十二星座 11 】
俺はそう考える。
と言うか、普通に考えてそれしか有り得ない。
もしあの男が何も関係ない人間だとしたならば、大爆発を受けて生きているはずがないし、このように冷静で居られるはずがないからだ。
(あの男が……)
もちろん、いきなり現れたその男に冒険者や騎士たちは驚きを隠しきれない。
「なんだあの男は?」
「ってか、いきなり現れて……なんか偉そうじゃね?」
冒険者達は楽観的にそんなことを話し合っているが、俺は先程から余裕が無かった。
確かに一見、少しガタイが良いだけの男に見える。
が、よく見れば分かる。あの男を視界に入れてから、今までにないほどに俺の生存本能が警鐘を鳴らしていた。
あの男はとても危険だと。
(……つまり、アイツはレイラよりも強いということか)
レイラと対峙した時よりも危険度的にいえば強い。
俺の隣にいるレイラもそれを分かっているのか、先程から固唾を飲んでいる。
一応レイラに勝利した俺だが……まともに戦えばどうなるか、全く予想がつかなかった。
無意識のうちに腰に刺さっている世界樹の木刀を握りしめる力が強くなる。
「……一言で言えば怖い、な」
俺は男の腰に刺さっている剣を見てそう呟く。
普通の剣ならば、それを見たところで怖いという感情は……というか、別に特に何かを思うことは無いだろう。
しかし、実際には男そのものよりも、その腰の武器から殺気にも似ている濃密な気配が漂っていたのだ。
「霊装神器か……」
考えつくものはそれしかない。
所有者が持つあらゆる力が結晶化した霊装神器。
精霊の力が宿っているとされているそれはならば、ここまでの威圧感を放つことが出来るのだろう。
が、しかしそれはつまり男の力がそれに比例しているということであり……先程レイラに化け物と言われた俺だが、本当の化け物はあの男の方だということを考えてしまった。
「ん?なんだ……?」
俺が緊張しながらそんなことを内心考えていると、冒険者や騎士達が多く集まっている中から見てわかるほどに立派な鎧を纏っている男が、背後に数名の騎士を連れながら男の方へと歩み寄っていった。
なかなか整った顔立ちをしており、とても清潔感がある雰囲気をまとっている……恐らくは三十代前半の年頃の騎士であった。
足運びからなかなかの実力であるということが分かる。彼の背後に付き従う騎士達もだ。
恐らくは主と従者だろうか、と予想する。
しかしあの男と比べてしまうと、どうしても何段も劣っているので、俺は少し不安の気持ちとなったのだが……とりあえずは特に邪魔もせずに、俺はただ静かに見守ることとした。
「おい、あれって……」
「ああ……」
その騎士たちを見た冒険者はどこかざわざわと落ち着かない雰囲気となるが、そんなことは気にしないと言わんばかりに相手側の男は話す。
「ふむ。お前は誰だ?」
顎に手を当てながらそう尋ねる。
「「「なっ!?」」」
その敬意もへったくれも無い言葉使いに、付き従う騎士達が怒りの表情を露わにして一歩前に踏み出そうとした。
「いい」
が、その様子を横目で見た主の男は自身の手で静かで静止の合図を出した。
そうしてフッと笑みを浮かべながら話し始める。
「どうやら思ったよりも私の名は知られていないようだ。では自己紹介とさせてもらおう。……私の名はラーベンス・クローリー。一応、帝都特務騎士団の騎士団長を努めさせてもらっている」
彼……ラーベンス騎士団長は男の瞳を見据えながらそう言いきった。
「……帝都特務騎士団?」
しかし俺はと言うと、その聞き覚えのないその騎士団名に、そう疑問を浮かべながら反応してしまう。
が、周囲の冒険者や騎士は「やっぱり!」「あの人が……」などと驚愕や感嘆など、主にそのような反応を示していることから、ただの騎士団ではないということは分かる。
またもや己の無知蒙昧さに呆れている俺だったが、そんな様子を見たレイラが俺にそっと耳打ちをしてくれた。
「帝都特務騎士団っていうのは帝都を守っている騎士団の中でもかなりすごい騎士団。皇帝陛下から直接命名された。……それであの人はその騎士団長だから、結構憧れている人は多くいる」
「……なるほど」
その後のレイラの話だと、どうやら帝都特務騎士団に入るには騎士学校を上位成績で卒業しなければならないとか。
なので有能なエリートが多く、皇帝陛下から帝都を守るという大役を任される程に大きい騎士団らしい。
その中でも騎士団長は飛び抜けて優秀なものが選ばれる。
今回彼が真っ先に出ていったのも、その高いリーダーシップを発揮したのだろう……と、レイラは言っていた。
「ああ、聞いたことがあるな。確か帝都を守る騎士団とか何かだとか……」
「ああ。大まかにいえばその通りだ」
しかし、その男はその騎士団の名を聞いても萎縮しない。……と言うか、だからどうした?と言わんばかりの様子で質問する。
「で、何の用だ?」
「……。君のことを教えて貰えないか?……見て分かるように今帝都は危機にさらされていてな、私たちが魔物達と戦っている最中にここでいきなり大爆発が起こった」
騎士団長は話し続ける。
「そして、その中から君は出てきたんだ。……私たちには情報が足りない。という事で君が少しでも何か知っていることがあれば教えて欲しい。」
「ふむ」
「まず一つ、君はなぜ生きている?見てわかるが、ここ周辺の生物は全て大爆発によって死んでいる」
騎士団長が男に質問を開始し始めた。
と言うか、恐らくは騎士団長もこの男が無関係者ではないということが分かっているのだろう。
だから、初めにその質問をした。少しでも情報を集めるために。
彼はこの質問に男が答えるとは思っていない。だから少しずつ外堀から埋めていくという考えなのだろう、とその様子から予想する。
……が、しかしその予想を裏切って男はすんなり答える。
「転移だ。私の知り合いに転移能力を持つ霊装保持者がいる。そいつの力で今まさにここまで送って貰った」
騎士団長は一瞬、少しだが驚愕の表情を浮かべた。
しかし、すぐさま取り繕う。ここら辺は流石と言うべき技術なのだろう。
「そ、そうか。君はあの大爆発の後に来たという事だな。……なら二つ目だ。君の目的は?この地に何をしに来た?」
騎士団長はすかさず二つ目を聞く。
目的……なんのために来たのかを聞くのは確かに重要事項だ。
今、『
あまりにも不自然だ。帝都に用事があるのならこんな場所に転移をしなくてもいいはずなのに。
そして、その中でも丁度今というタイミングがあまりにも不自然である。
帝都で『
男がどこから来たのか知らないが、転移した地点が焼け野原で更には魔物が多く彷徨いているのに慌てた様子などはなく至って冷静だった。
その反応の仕方もおかしい。
「ふむ。私の目的か……」
またもやすんなりと教えてくれるのではないか、と思っていたのだが、今度はその男は考え込むようにしてそれだけ言うと、黙る。
しかし、数十秒もしないうちに口を開く。
ーーそうして男は、とんでもないことを口にした。
「私……いや、私達の目的は帝都を壊滅させることだ。」
男はそう言った瞬間、その顔に不敵な……いや不気味な笑みを浮かべる。
俺はそれを見た瞬間、ゾワッと背筋が凍る。
ーー本能で分かる。あれはやばい、本気で人を殺す眼をしてる。
あの男の前にいるのは、男のその発言を聞いて、驚きをからか無防備に立ち尽くしている騎士団長。
いくら騎士団長でもあんな無防備な姿をされせば、高性能な鎧をつけているただの一般人と防御力には大差ない。
(……まずい)
ーー助けろ。助けろ。助けろ。動いて、助けろ。ーーージャナイトアノキシダンチョウ、ソノママシヌゾ。
「ああああああぁぁあぁッ!!」
俺は思考を加速させながらすぐさま『活性』を使用し、彼らに向かって超高速で飛び出した!!
離れている距離およそ五十メートル、俺その距離を刹那の一瞬で……更には一足で踏破する。
持てる脚力を全て総動員してのスタートダッシュだったので、大地がピシピシピシピシッ!と砕かれる音が聞こえるが俺は気にしない。
もはや丁寧に避けさせている時間はない。俺は心の中で「すいません!!」と思いながら騎士団長に閃光のように体当たりをかましていく。
その衝撃で騎士団長の身体が吹き飛ばされる。
ちょうどそのコンマ数秒後、男が放ったとてつもない速さを持つ突きが先程まで騎士団長が居た位置を穿ちぬいた。
恐らくは……と言うか、確実に俺が行動しなければ騎士団長は死んでいただろう。
数十メートルを吹き飛ばされた、騎士団長は地面を転がりながら気絶する。
気絶はしたが……あの状況の中、何とか殺させないようには意識を心掛けた俺を褒めて欲しいくらいにはその俺の判断は英断だった。
「っぅ……!!」
俺はその動きのまま、その場で急旋回。木刀を正眼の構えへと構えながら男の方へと振り向いた。
感覚を研ぎ澄まし、戦闘準備に突入する。
俺がその男を見ると、「ほぅ……」と言いながら、面白そうに男も俺の事を見つめていた。
(なんて人だ!?いきなり騎士団長を殺そうとするなんて!?)
恐らくはレイラでも救出は間に合わなかっただろう。
身体能力の高さしか取り柄のない俺だからこと助けることが出来た。
「え?は?一体何が……」
「なんだあの坊主は!?あいつもいきなりあそこに現れたぞ!?」
「……あいつどこかで……ああ!!問題児冒険者のカノンじゃないか!?」
「あんな小僧があの!?……なんだなんだ!?本当に何が起きてるんだ!?」
冒険者や騎士たちは彼らの眼から見て突如現れた俺の話題が上がる。
今の速度は残像が重なるとかそんなものでは無い。
もはや歴戦のベテラン冒険者達にも、まるで転移したかの様に見える速度での移動だった。
彼らがそれに驚くのも無理ないだろう。
しかし、筋肉の疲労度から考えるとあれほどの移動は今日はもう行うことは出来ないと俺判断し、内心舌打ちしながら話す。
「……一体どう言うことですか……本気で騎士団長を殺そうとするなんて」
俺はそう言い横目で気絶して倒れている騎士団長を見た。
その周囲には先程まで付き添っていた騎士達数名が処置に当たっているので大丈夫か、俺は考える。
そうして、またもや男の方を見ると、彼はタイミング良く口を開く。
「どういうことか……と言われても、私はただその騎士団長を殺そうとしただけだ。……言ったろう?私達の目的は帝都を壊滅すること。そのためにはそいつは今殺しておいた方が手っ取り早い」
「私達ってことは、あなたには仲間がいると」
「ああ、その通りだ」
「……なぜ、帝都を壊滅させていのか、理由を聞いても?」
観察眼を鋭く光らせながら、俺は彼にそう質問をする。
「ふむ。私個人の考えとしては教えるのも吝かじゃないと思っているのだがな……組織としては違う。悪いがそれは教えることは出来ない」
どうやら、理由については教えることが出来ないようだ。
今までが今までだけに、少し気持ちが左肩下がりになるがすぐに持ち直す。
「そうですか。……ならこれはどうでしょう。……あなたが今回の『
なにか確信的な証拠がある訳では無いが、俺は少し鎌をかけながら、あたかも自信満々な様子で彼にそう話しかける。
俺のその言葉に男はまたもや「ほう……」と言って驚愕と面白そうな感情が混ざった笑みを浮かべた。
「知っているのか?ふっ……ああ、その通りだよ。私の霊装神器の能力は支配。……私はそれで多くの魔物達を操っている」
その男は自身の腰にある霊装神器を抜きながら、そう答えたのだった。
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