第33話 【大暴走と黄道十二星座 13 】
俺はテオドール目掛けて走り出す。
テオドールが強いということは重々承知しているが、実際にはどれほどのものかというのは斬り合って見ないと真には理解することが出来ない。
という事で、まずはそれを知るための一撃を放つ事とした。
動きに緩急をつけたり、工夫したりはせずに俺は一直線に走り抜ける。
(まずは小手調べだ!!)
そうして十メートルの距離をほとんど一瞬で零にした俺は、テオドールに向かって逆袈裟を放つ。
完璧なタイミング。遠心力を使って速さが増大されたこの一撃。
当たればあまりの威力に何十メートルにも吹き飛ばされるだろう……、
……しかし、当たらない。
なんとテオドールは俺よりも行動がワンテンポ遅れているにも関わらず、その圧倒的な身体能力で特に苦労した様子もなく体を後方に少し引き……俺のその一振りを交わしたのだ。
虚しく空を切る世界樹の木刀。
……しかし、俺は気落ちしない。
流石にその驚くべき身体能力には舌を巻いたが、俺は攻撃を無効化されること自体は予想していたのだ。
「はあああああぁぁぁぁっ!!!」
俺はそのまま一回転。
更に遠心力で速さと威力を増した、一撃がテオドールに襲いかかる。
(不意をついての再度攻撃。……これならどうだ!?)
俺は別にこの一撃で彼にダメージを与えられるなどとは考えていない。
動揺を引き起こさせ、この戦いの流れ……主導権を掴めれば御の字と考えていた。
……しかしその瞬間、目を疑うようなありえない自体が起こる。
「ふむ。動揺を誘いたい様だが、まだまだ甘いな」
彼はそう言いながら、俺の木刀を霊装神器で防ぐ。
ギィィィィィィィンという金属音が周囲に響き渡る。
俺はそのまま吹き飛ばそうと力を込めたのだが、……その瞬間、彼はなんとその衝撃全てを筋肉を通して大地に受け流したのだ。
「なぁっ!?」
俺はその技術に驚きと感嘆を隠しきれない。
衝撃全てを筋肉を通して受け流す……これをするためには、身体のあらゆる自己制御をしながら、通り道となる筋肉を意識的に動かさなければならない。
少しでも制御を間違えれば、身体の内部でその衝撃が暴発して、内部爆発が起こるのだ。
そんなハイリスクな技は戦場で行うものはなかなかいないのだが……彼は実際、それを行って俺の攻撃を無力化した。
大地に衝撃が移ったという事で、蜘蛛の巣上に地面がひび割れる。
僅かな衝撃も体内に残さずに、全てを受け流す……その技術に一瞬でも驚愕から動揺したのがいけなかった。
「ーー胴ががら空きだぞ」
その言葉の後、俺の腹にとてつもない衝撃と痛みが走る。
ーー蹴られたのだ。
俺はすぐに我に返り防御体勢を取ったのだが、威力を軽減してなお今まで味わったことないような衝撃が襲い、俺は真後ろにピンポン玉のように吹き飛ばされる。
「ぐううううううっ!!?」
何度も地面をバウンドしながら飛ばされていく。
そうして十数メートル程吹き飛ばされて……ようやく止まる。
(ぐぅ……これは、不味いな)
俺は、そう思わずにはいられない。
一応受身などはとっていたが、それでも俺には隠しきれないほどのダメージが残っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
悲鳴をあげる身体に鞭打ちし、俺は顔を顰めながら立ち上がる。
何処か切れたのだろう……せりあがってくる血を吐き出した。
(つ、強すぎる。……思ってた以上の何倍も強いぞ。不味い……これは、本気で勝てないな)
俺はそのまま跳躍して、テオドールの前へと戻り出る。
そのまま彼を睨みつけるようにして観察してみたが、汗どころか息を乱している様子すらなく、余裕の表情が伺えた。
それに対し俺は今の攻防だけで精神的にも肉体的にもかなりのダメージを受けたと言ってもいい。
まさに一瞬の攻防……しかし、どちらが優勢かなどは、一目瞭然だった。
「ふむ。歳の頃は15、6と見た。……その歳で既にこれほどまでの力を身につけているとは……末恐ろしいな」
テオドールはそう賞賛するように話すが、今の攻防を経験した俺から言わせてもらうと全くと言っていいほどに嫌味にしか聞こえなかった。
逆立ちしても、勝てるビジョンが見つからない。
「何を。……嫌味にしか聞こえませんよ」
「まあ、それはそうだろう。私のはお前のとは年季が違う。……ただ、まあ今の私はなかなか本気だったぞ?私がその頃にはそこまでの強さを持っていなかった。十分に誇っていい」
そう言うテオドールの瞳に浮かぶのは紛れのない賞賛の色。
俺はそう話すことによって時間を稼ぐ。
数十秒もしないうちに『活性』により活性化している俺の治癒能力が働き始める。
もちろん完全に治すことなどは出来ないが、痛みを軽減したり、ダメージを少なくしたりということは出来るのだ。
そして俺はこのまま体力と怪我が回復するまで時間を稼ごう、と考えていた。
……が、しかしその俺の考えは甘いと言わざるを得ない。
ーーー次の瞬間、俺の真横にテオドールがいたのだから。
「ばっ!?」
「だからこそカノン、お前は私達の驚異となる前にここで殺す」
俺がそう反射的に反応するのと、テオドールが霊装神器を振りながら、そう言ったのはほとんど同時だった。
「ぐぅ……!!」
袈裟斬りに放たれたそれを俺は反射的に身体を大きくねじることで回避する。
……が、テオドールはそれを読んでいたのか、俺が避けた先目掛けて、またもやとてつもない速さと威力を持つ蹴りが放たれる。
先程と同じで、空気ごと吹き飛ばすほどの威力を持つそれ。
「……ちぃ!!」
……が、しかし俺も馬鹿ではない。一度見たそれをもう一度食らうという事は起きなかった。
「くっ ……そこだ!!」
何とか躱せなくもなさそうだったが、それではその後も今回と同じようにテオドール主導で攻撃され続けることとなる、と考えた俺はその蹴りを回避ではなく防御することにとした。
しかし、生半可な今の俺の力では帰って状況が悪化する。
ならどうするか。……簡単だ。
俺は世界樹の木刀の剣先を地面に斜めながら後方に突き刺す。
そして、そのままテオドールの蹴りの方へと突き出された持ち手の柄先と蹴りを衝突させた!!
「何!?」
その我流かつトリッキーな俺の防御方法にテオドールは初めて驚愕の表情を表す。
そのあまりの衝撃に世界樹の木刀が大地により深く突き刺され地面が陥没したが、防御に無事成功する。
というか、この方法を破るためには大地を……言葉の通り真っ二つに割る程の力が必要である。
そして、それは人間には不可能な……恐らくそんなことが出来るのは神の御業のみであろう。
「止まりました、ねっ!!!」
テオドールの動きが一瞬止まる。
俺はその一瞬を突き、世界樹の木刀を大地から引き抜き、痺れる腕で木刀を振った。
「っ!?」
しかし、彼はすぐさま我に返ると、恐らくは本気の速度……先程よりも速く霊装神器を腕の動きだけで動かし盾とする。
エネルギーや力の塊であり、とてつもない硬度を誇る霊装神器はそう簡単に砕けることは無いのだ。
……が、しかし身体にダメージは無くてもその衝撃までを無効化することは出来ない。
「ぬおっ!?」
今度は真逆。先程は俺がボール……いや、小石のように吹き飛ばされたが、今度はテオドールが衝撃から後ろに吹き飛ばされていった。
これは世界樹の木刀が切り裂く事よりも、叩いたり吹き飛ばすことを、その性質上得意としている武器であるからだ。
が、流石にその後の展開は俺とは異なるものだった。
テオドールは吹き飛ばされながらも、空中でとんでもない速度で身体を捻じる。
それによって威力を殺し、後ずさりながらも大地に着地した。
そうして顔をすぐに上げる……が、彼はまたもや驚くこととなる。
テオドールの眼界は捕える……俺に殆どゼロ距離で肉薄されているということに。
「なっ!?」
俺テオドールが吹き飛ばされた瞬間、既に彼を追うように走り出していたのだ。
そうしてから彼が顔を上げると同時に真正面に肉薄した。
「いくら貴方でも、この距離では何をしようと俺の木刀が届く方が早いっ!!」
殆どゼロ距離。
俺よりも高い身体能力を持っているテオドールではあるが、この距離感だと今から回避行動をとっても俺の世界樹の木刀の方が一瞬早く到着する。
そうして世界樹の木刀を俺は横薙ぎに振るう。
「これで終わりです!!」
真正面から戦えば、身体能力の差もあり、絶対に倒せない相手。
ならばこのようにして、不意打ちで倒すしか無い。
これが、恐らくは俺が唯一作れる絶好のチャンス。
この機会を作るために俺はかなりの無茶をした。これを逃せば、後は無い。
(頼む。頼む。頼む。これで終わりにしてくれ!!)
敵はテオドールだけでは無いのだ。
俺達がこうして戦っている少し離れた地点で冒険者や騎士たちと戦っている魔物達。
彼らにも加勢をしに行かなくてはならない。
そうして、俺が振るう世界樹の木刀がテオドールの首を捉えた。
いける!と考える俺だったが……しかしその瞬間、俺の背筋がゾッっと凍る。
それこそーー第六感。
ーーーテオドールの様子がどこかおかしいと俺の本能が訴えかける。
俺その瞬間……思考が加速しモノクロの世界となる中、俺の眼はそれをしっかりと捉えた。
追い詰められているはずのテオドールが不敵に笑い、呟く。
『……支配の権能を持つ我が汝を思うがままに。今すぐにその動きを止めよ』
彼がそうつぶやくと同時に、俺の動きが目に見えて鈍くなった。
「「なっ!?」」
俺はその事実に驚愕してしまったが、しかし何故かテオドールも鈍くなった俺の太刀筋を見て驚愕した。
俺はそれに疑問に感じたが、とにかく今はこの鈍くなった太刀筋でもテオドールを倒さなければ、と諦めずに木刀を振り続けたのだが……
「ちっ!」
テオドールはそう舌打ちをしながら、閃光もかくやと呼べるほどの速度で後ろへと身を引き俺の一振りを回避した。
そのままバックステップで俺との距離を取る。
しかし、流石のテオドールも無傷とはいかなかった。
彼が超高速で避ける際に俺の世界樹の木刀の刃先が彼の頬を捉えていたのだ。
かすり傷だったがつぅ……と少量の血が流れる。
しかし、テオドールはそんな事をまるで気にした様子を見せずに、何故か俺の事を驚愕の表情で見てきた。
互いに驚愕の表情。両者ともに絶句し、しばらくの間無言となる。
(なんだ今のは?……テオドールが何かを呟くと同時に、全身の至る所に重りをつけたかのようにように動きが重くなった……)
俺はそう思いながら、その得体の知れない力を警戒する。
俺達の静寂……。冒険者達と魔物達の戦いで発生した戦闘音や咆哮が聞こえた。
……が、俺達はそんなことは気にせずにしばらくの間互いが互いを見つめ合う。
(くそ……いくらなんでも、強すぎるだろう)
俺はそんなことを考えたりしながら。
そうしていること数分だろうか、あるいは十分ほどか……正確な時間は分からなかったが、今まで俺の事を見つめていた、テオドールが遂に口を開いた。
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