第25話 【大暴走と黄道十二星座 5 】
「……えーと、ギルドマスターたちの説明はだいたいわかりました」
レイラがここにいる理由をギルドマスターから説明された俺は、今までの話を頭の中で重要なところだけを抜き取り、噛み砕いたものを説明する。
「とりあえず分かりやすく要約すれば……今、帝都は何者かによって引き起こされた『
「ああ」
俺がゼイズさんにそう確かめると、彼は頷きながらそう即答した。
ちなみに俺がギルドマスターではなくて、ゼイズさんにそう聞いた理由は『
「それでギルドマスターが俺に期待しているのはレイラと共に帝都に進行している魔物を一体でも多く討伐すること。……それとその何者かを処分すること……それが俺の解釈なのですが、それで宜しいですか?」
「まあ、大まかにいえばその通りだね」
俺はそう締めくくった。
俺は考えるという行為がどちらかといえば得意では無いので、的を得ているか少し不安だったが、ギルドマスターからのその言葉を聞き安心する。
(ふぅ、どうやら合っているようで安心した……まあ、この帝都が魔物達に脅かされているということだし、もちろん俺に出来る限りではあるが協力はさせてもらうつもりだ)
それを確認した俺はその考えのとおりに、最後に一つ質問をした。
「ギルドマスターは先程、その首謀者を
「うん?どういうことだい?」
「……その犯人と遭遇して戦闘となった場合に、どう立ち回れば良いのかという話です」
「……ああ、君はそういうことを言いたいのか。……君の好きにすればいい。というか実を言うと、ギルドとしても国としてもその者の生死はどちらでもいいんだ」
「え?」
俺は思わず呆けたようについ、そう返してしまった。
実は俺はギルドマスターになるべくその襲撃者を殺したくはない、ということを伝えようとしていた。
これはその襲撃者が可哀想とかそのような感情によるものでは無く、ただ俺が人殺しを忌避しているだけである。
しかし、その者は帝都を襲撃した大罪人だ。
なので、殺すのが普通であるし、俺もギルドがそう言うなら覚悟はしていたので、従うつもりであった。
……が、ギルドマスターの答えは予想とは異なり、生死は問わない、と言うものだったのだ。
俺はその答えに困惑してしまう。
「……あ、もしかして尋問してから処刑するとかですか……?」
情報を引き出した後は、大罪人として処刑する……ということならば、どちらにせよ死ぬ事となる。
俺はそう思いつき聞いてみたのだが、ギルドマスターは微笑を絶やさずに答えた。
「ん?ああ、違うよ。カノン君がその者を殺したくないのなら……まぁ、君にできるならだけど生け捕りでも構わない。だって私たちが手を下さなくても、百パーセントに近い確率でそんなこと関係なくなるからね」
「……?」
俺はギルドマスターのその言葉にまたもや困惑してしまう。
俺は情報を聞き出した後に処刑するので、生死は問われていない……と思いついたのだが、どうやら違うようだ。
「おいおい、それはどういうことだ?」
俺たちのそんなやり取りを聞いていたのだろう。そんなゼイズさんの声が後ろから聞こえた。
どうやら、ゼイズさん達にも今のギルドマスターの言葉はよく理解できていなかったらしい。
「……君たちなら分かるんじゃないかい?仕事上、そういうのは何度も経験したことがありそうだけど、」
「あん?それはどう言う……いや、……そう言うことか……」
ゼイズさんは初めはギルドマスターのその言葉に訝しんだが、その言葉の意味を理解したのか、納得したという様子でそう言った。
そして、どうやらギルドマスターのその言葉でゼイズさんだけではなく、他の面々もその意味を理解したということを雰囲気で理解する。
……が、しかし俺はそんな事を聞いても全く意味が理解できない。
そして、俺はギルドマスターの瞳を見る。
しかし表情として笑ってはいるが、その瞳からは何かを読み取ることが出来なかった。
(一体どういうことだ……?)
俺は心の中でそう思い、ギルドマスターに問いかけようとしたその瞬間……ドォォォォン!!!という衝撃波が響き渡る音がギルドに……というか帝都全体に広がった。
「「「「っ!?」」」」
大都市である帝都を全て揺らすほどの衝撃、それによって俺はガクンッ!と、身体が揺さぶられてしまう。
いや、その程度で収まったのは、ひとえに鍛え上げた体幹のおかげだろう。
現に、身体能力に自信が無いマーレンさんは床に尻もちを着いていた。
更にはこの執務室にあった様々な小物等がそれによって辺りに散らばる。
一瞬大きな地震が起きたと錯覚するほどの揺れ……それほどだった。
(けど、これは地震なんかじゃなくて……おそらくは、)
幸いそれは一瞬の出来事だったので、特に誰かが怪我をしたなどということは無い。
俺は後ろにいた『魔聖の力』の全員を見てそれを確認し、安堵する。
そのままソファに座っていたレイラを見たが、そちらも特に怪我などはないようだった。
しかし、先程までのお菓子を食べていた時とは様子が違う。
レイラもこの衝撃がなんだったのかを理解したのだろう。意識は切りかえられ、いつでも出撃ができるようになっていた。
そうして、俺は執務室の窓から帝都壁に視線を向けていたギルドマスターに話しかける。
「ギルドマスター、これは……」
「ああ、そうだね。ついに始まったようだ」
ギルドマスターはそう言いながら、今度は忌々しそうに外を見た。
「こうなってしまった以上、もうここで話している時間も惜しい。話は中途半端になるが、君たちにはすぐに現場へと急行してもらう」
「ああ、分かったぜ」
「ええ、そうね」
「りょーかい」
「分かりました」
ギルドマスターのその言葉に『魔聖の力』の皆はそう返答して、向かう準備をし始める。
「帝都の防壁は円形型に作られているは知っていると思う。現在、魔物達は東西南北の四方向からこちらに進行してきているという報告を受けている。そしてランクDパーティ『魔聖の力』の君たちにはもっとも魔物の多い西へと行ってもらうつもりだ。……いいね?」
「おう。任せておけギルドマスター」
どうやら『魔聖の力』の皆は西側へと行き、そこで魔物たちの相手をするようだ。
そして、ギルドマスターの口ぶりからして俺達とは別方向だということが分かる。
つまりここで別行動というわけだ。
彼らが居ればどれだけ頼り強い事か……とそんなことを俺は思っていると、ゼイズさんがこちらに歩み寄ってきて、言う。
「俺たちぁ、ここで別れることとなるが別に悲観的になることじゃねぇ。戦ってる場所は違うが、帝都を守るっつう志で魔物達と戦ってるのは同じだ」
そうしてゼイズさんは俺の背中をバンッ!と叩きながら、漢らしい笑みを浮かべ更に言った。
「まぁ、何が言いてぇんだっていうと、実際に会ったのはさっきだけどよぉ……俺達はもうダチだってことだ。少なくとも俺はそう思ってる。そして、ダチは信じるものだ。お前は俺達を信じ、俺達はお前を信じる」
そうしてゼイズさんは頬をポリポリとかきながら、あさっての方向を向いた。
「だからまあ死ぬんじゃねえぞ。……それだけだ」
そう言ったゼイズさんは、俺に背を向けながら執務室の扉の方へと歩いていった。
(この人は……)
俺は内心そう思っていたが、実際はとても感動している。
彼らからそう言って貰えてことに、俺は大きな嬉しさを覚えていたのだ。
冒険者育成学校では、皆から嫌われていたおかげで友達と呼べる存在は作ることが出来なかったのだ。俺がそんなことを思ってしまうのは仕方がないことだろう。
(やっぱりこの人たちとは上手くやっていけそうだな……)
そして、俺はそう思いながら、歩いていた彼らに話しかける。
「はい。……大変な戦いになるとは思いますが、みなさんも頑張ってください」
俺のその言葉に彼らは微笑を浮かべた。
そして、ゼイズさんが言う。
「おうよ」
そうして彼らはそのままの動きで部屋の扉を開けて、防壁の外に向かったのだった。
◇ ◇ ◇
「彼らとは上手くやっていけそうかい?」
ぜイズさん達四人がこの部屋から出ていった後、ギルドマスターは腕を組みながらそう問いかけてきた。
俺はギルドマスターのその瞳をしっかりと見つめながら、「もちろんです」と答える。
先のやり取り……ギルドマスターもそれを見ていたので、その答え自体は分かっていたのだろう。
彼はその言葉に対して「そうか……なら良かったよ」とだけ呟いた。
「ギルドに登録してレイラとパーティを組んだ後、すぐに冒険者二人に絡まれたことがありまして……あの人達と出会って冒険者も玉石混交だというのを実感しました」
「ん……あの冒険者達は本当にゴミ。まさに人間の失敗作って感じ」
「まあまあ、そう言うなよレイラ。……ただまあ、俺もあの時は彼らに対して、怒りの感情しか持ってなかったけど……」
「そういえば、そんな報告もあったねぇ……やはり普段優しい者は怒ると怖いというのは本当の事だったようだ」
「ギルドマスター知ってるの?」
「ああ、やっぱり期待の新人だからね。どうしても注目してしまうのさ。……一応言っておくけど私はその時、カノン君を怒らせるのは不味い……とだけ思ったよ」
「ははは……どうもすいません」
どうやら、レイラだけではなくギルドマスターからもそんなことを思われてしまっていたようだ。
そんな事を俺達は話していたのだが、ギルドマスターは「さて……」と言いながら意識を切り替える。
というか、今の状況からしてこのような話をしている余裕はなかった。
「『魔聖の力』には西の方へと向かってもらったが、君とレイラの二人には真逆の方角……東側へと向かってもらう」
「東側……ですか?それにはなにか理由が?」
「うん。恐らくはそこに襲撃犯……というか黒幕が現れると私は踏んでいるからだよ」
「な、なぜわかるのですか?」
少なくともおらがこの部屋に来てから数十分程が経過しているが、ギルドマスターがなにか連絡のようなものを受け取った様子はなかった。
帝都に魔物達が到着したのが少し前だったので、情報が不十分の中、恐らくは今回の事件の黒幕であろうその人物が東側に現れるという事を何故ギルドマスターは考えていたのかが分からず、そう聞いてみた。
このギルドマスターにはマーレンさんと同じで知的……という印象を俺は持っていたのだが、しかし彼が返した答えにそんなことは全く当てはまらなかった。
「勘だよ」
「か、勘ですか?」
意味がわからず俺はそう聞き返す。
勘……つまり直感の事だ。それが間違っていれば、俺達はその黒幕と邂逅できないということになってしまう。
もちろんその場合は責任はギルドマスターにあると言ってもいいだろう。
俺は納得が出来なかったが、ギルドマスターの次の言葉を聞いてその考えを捨てることになる。
「そうだよ、勘だ。……君は今、勘なんて不確かなものだというふうに思っているね?……それは大間違いだ。確かに勘というものに理屈や根拠はない……が、それは一般人の話だよ」
ギルドマスターは真剣な様子で続ける。
「上へ成り上がるために必要なもの……力?頭?権力?……確かにどれも必要なものだけど、実は本当に必要なのはその者が持つ勘と運なんだよ」
「勘と運ですか……」
「うん。どれだけ強く、頭が良く、権力を持っていようとも、その二つを持っていなければ直ぐに死ぬ。上へ成り上がることの出来るのはそれを兼ね備えたものなのだよ。……冒険者で言えばシックスセンスがわかりやすい例えだよね。だんだんと高ランクになるにつれて多くの冒険者がそれを持っている」
確かにそう言われてら納得できるものが多くあった。
例えばランクS冒険者。彼らはその地位に上り詰めるために何度も修羅場や死線をくぐり抜けてきているはずである。
何度も死の一歩手前ということを体験したことがあるに違いない。
しかし、そこで生き延びるか死ぬか、それを決めるのがギルドマスター曰く運と勘だとか。
ということで彼らは、本能的に第六感やシックスセンスというものが常に働いているらしい。
自身が生き延びるために。
ギルドマスターにしても同じである。
彼も圧倒的な頭の良さに加え、前提として運と勘の良さを持っていたからこそ、ギルドマスターという役職に着任することが出来ている。
それを本人から説明されると、実体験ということもあって俺は納得せざるを得なかった。
「なるほど……すいません。確かにギルドマスターの言う通りでしたね。分かりました、とりあえずじゃあ、俺達は東の方に向かってみたいと思います。……いい、よな?」
俺はレイラにそう確かめる。
「うん。いいよ」
そして、レイラはそう肯定した。
「うんうん。理解の早い子は助かるね」
俺達のそのやり取りを見ていたギルドマスターは大袈裟に首を振りながらそんなことを話す。
しかし、そろそろ出た方が良いのではないか?
帝都の防壁の外側まで移動する時間も考えると、これ以上の時間は無駄にできない。
「……あの、ではそろそろ俺達も向かっても大丈夫ですか?」
「重要な事は全て伝えたつもりだから……もう言ってくれて構わないよ。……というか、ギルド……いやギルドマスターとしてはなるべく早く行って欲しいっていうのが本音かな」
ギルドマスターにそう訪ねると、彼はあっけらかんとそのように返答してきたので、俺はレイラに「行こうか」とだけ言いこの部屋から出ていこうとする。
そして、俺が扉のノブに手をかけた瞬間、ギルドマスターが最後に話しかけてきた。
「カノン君……」
「え?はい」
「先程の話だけどね、その考え方は大事だけど、客観的に見て君は甘いとしか形容できないよ。冒険者としてはあまり良くない。……でも、ある意味優しさと呼べるそれを大事にすることを私はおすすめするよ。今のこの世界にはそれを持つものは少ないからね。……それは将来的に必ず君の役に立つだろう」
「?……え、あの……」
「ふっ……分からないようであるなら、別に年長者の助言として頭の片隅にでも覚えておいてくれれば構わないよ。いつかわかる時が来るであろうからね。……話は終わりだよ。さあ、早く行って」
「は、はあ……?」
俺は彼が言ったことをよく理解できなかったが、そう言われたので深く考えずにこの執務室から出ていくこととした。
(どういうことなのだろうか。……まあ、いいか。今はそんのことを考えている場合じゃない。ギルドマスターもいつか分かるみたいなことを言っていたし)
俺はそう考えながら、扉を開けて「失礼しました」とだけ言って、レイラと共にこの部屋から出て行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます