第7話 【冒険者ギルド登録と空撃の魔女 4 】
遂に目的地である帝都リンドヴルムに到着した俺。
しかし、帝都内に直ぐに入ることは出来なかった。
帝都は高さ10メートルもある巨大な防壁に囲まれており、入場口はひとつしか存在しない。
帝都内にはそこから入るしかないので、かなりの列を並ぶ必要がある。
それだけでなく、検問の人間が荷物のチェックを行っているので、さらに時間がかかるのだ。
正直、少しめんどくさいと思ってしまった俺。
だか、帝都で活動をしようとしている以上ここで問題を起こす訳には行かない、と列の最後尾に並ぶこととした。
……ちなみに、ディーネさん達の商隊もこの帝都リンドヴルムを目指していたという事だったので、俺と共に並んでいる。
「……それにしても、昨日は大変でしたねぇ」
ディーネさんが俺に向かってそう話しかけてきた。
「ははは……お恥ずかしい限りです」
俺はそう返すしかない。
実際、昨日はとても大変だった。
一昨日にゴブリンとの戦闘があったがその時にべっとりと服に血肉が付着してしまっていたのだ。
それに気づかないまま一日過ごしてしまった俺。
既に血肉は乾燥して服に染み付いており、気づいた頃には完全に取ることは不可能となってしまっていた。
昨日、半日ほど頑張ってみたが、やはり取れなかった。
ディーネさん達はそのことに気づいていたようだが、俺が勝手に綺麗にするだろう、と余計な口を挟まないようにしようと気をつけていたんだとか。
出来れば教えて欲しかった。
ということで今着ているのは、馬車の中にあった予備のものである。
真っ黒のコートだ。
十五歳となり身長が170センチある俺だが、ピッタリのサイズであった。
ディーネさんたちが言うには安物であるらしいが、俺的には動きやすい上になかなか着心地は良い。
庶民にはこれくらいで充分なのである。
そうして待ち時間に雑談をし始める俺とディーネさん。
……そうすること約1時間、遂に俺たちの番がやってきた。
門に向かって歩き始める。
「身分を証明するものを何か持っているか?」
検問の兵士の一人が俺に聞いてきた。
身分を証明できるもの……例えば冒険者だったらギルドカードを見せるのだが、俺はそんなものは特に持ち合わせていなかったので、否定の意思を伝える。
「そうか……なら規定により、銀貨一枚を支払ってもらおう」
兵士がそう話してきた。
身分を証明できるものを持ち合わせていない者は、銀貨一枚を税金として収めなければならないらしい。
そういうことなら……と、俺は渋々、兵士に銀貨を渡す。
銀貨を受け取ると、その兵士は俺を見ながら何かを書き始める。
俺は貧乏なので、銀貨の出費はかなり痛手だった。
この世界の硬貨は下から銅貨、銀貨、金貨、虹金貨、星金貨というものになっている。
銅貨十枚で銀貨一枚と、銀貨十枚で金貨一枚と同等価値、というふうにワンランク下の硬貨十枚と同価値になるという仕組みだ。
これは世界共通の認識であり、もちろん俺も知っている。
そしてふと、ディーネさん達の方を見る。
ディーネさん達商隊は帝都に持ち込む商品の危険度のチェックをされている。
ディーネさん達は商人として、身分を証明できるものを持っていたので銀貨は払っていなかった。
羨ましいと感じたが、俺もこれから冒険者になるつもりなので次回からは払う必要が無くなる、と自分に言い聞かせる。
「よし、なら入っていいぞ」
兵士のそんな声が聞こえる。
どうやら俺たちが帝都にはいるための手続きは全て終わったようだ。
やっとか……と思いながら、ディーネさん達と共に俺は帝都の中へと入っていくのであった。
◇ ◇ ◇
そして現在、俺たちは帝都内にある大通りを歩いていた。
帝都の外にもかなりの人が存在していたのだが、中はそれが比べ物にならないほどの人で賑わっていた。
道の端には多くの露店や店が存在しており、そこで様々な人が買い物などを楽しんでいる。
(こ、これはすごい人だな……帝都と王都、レベル的には同じぐらいだけど、活気や人口の多さでは比べ物にならないほど差があるぞ)
今の時間帯は昼時ということもあるのだろうがそれでも驚かずにはいられなかった。
「……ものすごい人ですね」
「ええ。聞いた限りでは皇帝陛下が色々と関係しているらしいですよ」
俺が言うとディーネさんはそう答えてくれる。
俺のような庶民には無理だろうけど、その皇帝陛下には一回会ってみたいと思ってしまった。
そのまま大通りを歩いていく。
当たりを見ながらしばらく歩いていると、ディーネさんが何処か申し訳なさそうに話しかけてきた。
「非常に残念ですが、私たちはそろそろ……」
俺はディーネさんのその言葉から何を言いたいのかを察する。
「ああ、はい……そうですね」
俺は今から冒険者ギルドに行くが、ディーネさん達はそうではない。
元々、商品を売るために帝都に来ていたのだし、更にはゴブリンに殺された者たちの対応も色々としなければならない。
時間は有限なのだから、早めに行動しないと行けないのも理解出来た。
「では、私たちはこれで……改めて、私たちを助けていただき本当にありがとうございました……またいつか、出会える日を楽しみにしています」
「こちらこそ、ありがとうございます。商売、頑張ってくださいね」
俺は本心から思ったことを言う。
色々と良くしてもらって本当に感謝しかない。
その後はディーネさん以外の5人の行商人の人達と別れの挨拶をする。
やっぱり皆、いい人であった。
(また、会えるといいな……)
そうして俺とディーネさん達は別れる。
せめてもの感謝として俺は、その場でディーネさん達商隊が見えなくなるまで見送り続けた。
「これは立派な建物だな……」
ディーネさん達と別れて歩くことしばらく、俺はついに目的地である冒険者ギルドへと着いた。
途中で道に迷ったが、大通りにいた親切な人に聞き、何とか到着することが出来たのであった。
俺が冒険者ギルドを見てまず思ったことは大きいということだ。
冒険者ギルドはこの世界の様々な町や都市に存在しているが、恐らくこの帝都のはその中でも一、二を争うものだろう。
……まあ、帝都という大都市である以上、ある程度は予想していたが。
「……よし!!」
そうして俺は冒険者ギルドの中へと入っていく。
「意外とスッキリしているな……」
俺が中に入り、まず思ったことがそれである。
冒険者ギルドの中は大まかに言うと依頼書が張り出されているボード、そして飲み食いすることの出来る酒場、受付がいるカウンター、その三つだった。
しかし、そのどれも驚くほど規模が大きい。
そして、俺がその様子にキョロキョロと見渡していると気づく。
多くの人から見られているということに。
俺はその視線を受け、少し緊張してしまう。
(多分……俺の見た目が原因なんだろうな。俺の見た目は背が低くて、貧相だし……やっぱり頼りないよなぁ……)
冒険者として登録ができるのは十歳からであるが、基本的にそんなに若くから登録している者はかなり少ない。
多くの冒険者は登録するのは二十歳をすぎた辺りからだ。
だから、若くして登録しに来る俺が珍しいのだろう。
少々緊張しながら俺は歩き出す。
その時、視線のほとんどが俺の姿を見た侮りや嘲笑の視線であるということに俺は気づく。
舐められないように、と俺はとりあえず表面上は堂々としてみることにした。
「冒険者ギルド帝都リンドヴルム支部へようこそ。本日は如何なさいましたか?」
俺がカウンターへ行くと、受付嬢がニコニコした笑顔でそう聞いてきた。
「冒険者登録をしに来ました」
俺はそう答える。
「登録ですか、では少々お待ちください」
そうして受付嬢は引き出しからいくつかの書類とペンを取り出す。
俺から見てもなかなか素早い動きだった。
「では、お名前を教えて頂けますでしょうか」
「カノン・シュトラバインです」
「年齢はお幾つですか?」
「十五です」
そう言って淡々と受付嬢の質問に答えていく。
俺は質問に答えながら、目の前にいる受付嬢を観察する。
腰まで伸びた青髪を持つ、なかなか整った顔立ちを持つ受付嬢だった。
しかし、男の冒険者が多い以上、受付にも美形を求めるのは当たり前か……と俺は納得する。
質問が一通り終わると、その受付嬢は何かを描き始める。
そうして待つこと数分、受付嬢が手に持っていたペンを置いて俺に話しかけきた。
「カノン・シュトラバインさんですね……基本情報についての質問が終わりましたので、ではこれより冒険者ギルドについての説明をさせて頂きます」
受付嬢は俺の前にある椅子に座るよう促してくる。
俺は感謝の意を示しながら、その椅子に腰掛けた。
そしてその後、俺は受付嬢から冒険者ギルドについての説明を受け始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます