第39話 【大暴走と黄道十二星座 19 】
俺とレイラはまるで鏡合わせのようにして、全く同時にレッドドラゴンへと横薙ぎを放つ。
二方向からの攻撃にはいくらレッドドラゴンといえでも警戒する必要がある。
無視出来ないのだ。
『ガアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
レッドドラゴンは一瞬の間にその双翼をはためかせ、飛び上がる。
よって、俺達の攻撃は空気を斬るだけに留まり、回避されてしまった。
俺はともかく、レイラの霊装神器である『
(くそ!!やっぱり俺もレイラもいつもよりも動きが鈍いしキレがない。……このまま行けば、俺達が負ける。速攻で片付けないと!!)
俺は今の攻防でそれを理解してしまい、そんなことを内心思ってしまう。
表情から察するに、恐らくはレイラもそれは同感なのだろう。
「っぅ……!!」
レッドドラゴンが大地へと降り立つ。
そして、そのままの動きで俺の事を噛み砕こうと顔を突き出してきた。
『ガアアアアアアアアアアッッ!!!』
俺は視界がモノクロ化するほどの集中力を保ちながら、瞬時にその動きを捉える。
噛み砕こうとする瞬間……世界樹の木刀をレッドドラゴンのその頬目掛けて叩き込んだ!!
ギャリィィィンという有り得ないような音が鳴り響く。
そのまま力任せに吹き飛ばそうとした俺だが……
「なっ!?」
力を入れても吹き飛ばせない。
レッドドラゴンは強引に衝撃を受止め、その場に留まったのだ。
「不味、い!!」
『ガアアアアアアアアアアッッ!!!』
俺は直ぐに危機感を覚える。
第六感が発動。俺の中で警鐘をリンリンと鳴らす。
──このままじゃ、死ぬぞ……と。
……しかし、俺は一人で戦っているわけじゃない。
頼もしいパーティメンバーが居るのだ。
「ん……カノンから離れて」
俺がレッドドラゴンに噛み砕かれるその瞬間……俺の横からいきなりレイラが現れて、そう言いながら霊装神器を首元めがけて振るった。
空間切断の一撃、当たれば絶対に命を刈り取るその攻撃だが……レッドドラゴンは警戒。
『ガアアアアアアアアアアアアッッ!!?』
すぐさま顔を引き、後方へと大きく跳躍し、レイラから距離をとった。
レッドドラゴンも分かっているのだろう。
本能的に感じとっているのだ。
レイラのその一撃は不味いという事を。
だから避けた。だから防御しない。
「助かったよ、レイラ」
「ん……大丈夫。助け合いが大事」
俺は冷や汗をかきながら、そうレイラにお礼を言った。
「それにしても化け物だな。あの一撃で吹き飛ばせると思ったんだけどか……強引に踏みとどまるなんて」
「ん……さすがは危険度A」
俺はそう思わずには居られない。
比較対象としてあっているのかは分からないが、あのテオドールさえも吹き飛ばした一撃であったのに、レッドドラゴンはそれを耐え留まったのだ。
俺は少しばかりだが、ショックを受けていた。
更には、
(くそ……世界樹の木刀に内包されてる自然エネルギーも、もう残り少ないし……『昇華』も残りあと一分もない。……それまでに、ケリをつけられるのか?)
と、俺は考える。
「レイラ……悪い知らせだけども、俺がまともに戦えるのはあと一分もない……それまでに決着をつけないと」
「ん……それは不味いね」
俺が焦ったようにそう言うと、心做しかレイラもそんな様子で返してきた。
あの化け物をあと一分で倒す。
ほとんど不可能に近い……絶望的だ。
「ん……まあ、さっきも言った通りやるしかないんだけど、ね」
「……そうだな」
「あっちも私達の事殺す気満々だし……行こっか」
しかし……いや、やはりと言うべきかレイラはそれを聞いても気落ちはしない。
そんなことをしても意味が無いという事を知っているからだ。
──そうして、戦闘が再開。
俺とレイラは切刹那の間にレッドドラゴンとの距離を一足で詰めた。
『ガアアアアアアアアッッ!!!』
しかしレッドドラゴンはそれに余裕の様子で反応する。
カウンターとして、またもや俺にドラゴンクロー。
「──ふぅっ!!」
しかし俺は、それを身体を捻じることでギリギリ回避。
髪の毛がチリッと少しだけ掠ってしまったが、俺は気にせず、さらにレッドドラゴンとの距離を詰める。
そして、世界樹の木刀の間合いに入り込んだ瞬間……『活性』や『昇華』によって圧倒的に身体能力が増している今だからこそ使える秘剣を放つ。
「一式ー『天叢雲』ッッ!!!」
使いすぎに加え、片腕で繰り出したという事もあり、右腕がビクンビクンと痙攣していたが俺はそれを無視。
レッドドラゴンの胴体めがけて、最速最強の一撃を繰り出した。
『ガアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
流石のレッドドラゴンも、俺の放つその最速の一撃は無傷とは行かない。
回避行動を取ろうとはしたが、間に合わずにそのまま胴にまともに一撃を受けてしまい……そのまま吹き飛ばされて行った。
「……ちっ!!」
……が、しかしレッドドラゴンは最強種族である竜種が一匹。
背中の双翼を空中で、大きく広げることで衝撃を殺し、緩和。
そのまま大地に着地するのであった。
俺はそこまでダメージがないことにまたもや嫌気がさして、舌打ちをしてしまうが……
「……レイラ!!!」
しかし、少しの隙はできた。
というわけで、俺はすぐさまレイラを呼ぶ。
「ん……任せて」
これぞ波状攻撃。
俺が囮で、レイラが本命という感じだ。
『ガアアアアアアアアアアッッ!!?』
レッドドラゴンは驚愕する。
自身を殺せる力を持っているレイラが、間合いに入ってきたことに。
俺に気を取られすぎた事に後悔している様子のレッドドラゴン。
せめてもの抵抗にレイラに向かって、顔を突き出し自身の
……が、既に遅い。
「ん……そんな攻撃は……当たらないよ」
レイラはクルっと頭を軸にして空中で一回転。
レッドドラゴンの顎を避ける。
「ーー
そのまま霊装神器の間合いまで、一瞬で接近。
空間切断……空間ごと捻りとる。
レイラは全くの無音でレッドドラゴンの右手を付け根から切断した。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?』
ダメージからか、今までで一番の咆哮。
……最早、冒険者や騎士たちは俺とレイラの事を呆然と見ているしかない。
そのままレイラは大きく跳躍して、俺と合流。
「今だ、今なら行ける!!畳み掛けるぞ!!!」
「ん!!」
俺とレイラはそれぞれ自信の出せる最高速でレッドドラゴンへ突撃。
レッドドラゴンは今のレイラの攻撃による、痛みとダメージでかなり集中力が乱され、隙をさらけだしている。
この機を逃さずに、俺たちは攻めようとしたのだが……、
「「……っ!?」」
その瞬間……俺とレイラはそれぞれ、背筋が凍るほどの悪寒に襲われ思わず息を飲む。
またもや第六感。
この『
(分からない。……何かは分からないけど、とにかく不味い!!)
俺たちはレッドドラゴンへの突撃をすぐさま中断。
できるだけ距離をとり、防御体勢もとる。
「……不味い!!逃げてくださいっ!!」
その俺の言葉は俺たちのことを呆然と見ている、冒険者や騎士たちに放ったものだ。
しかし、彼らが意識をする頃には手遅れだった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
その瞬間、レッドドラゴンの口に炎が集結し……まるで閃光のような光を上げながら、俺たちに向かってブレスが放たれた!!
あまりの熱に全てを溶かし、全てを飲み込むその炎の集合体。
もはやその速度故に回避は不可能という事で、俺達は防御態勢を取ったのだった。
そうして地面を駆け抜ける、炎……いや、光と表現した方が良いかもしれない咆哮。
「ぐああああああぁぁっ!!!」
俺はあまりの熱さに苦しさからそう叫ぶしかない。
隣のレイラも同様だ。
そうして、視界を真っ赤に染めることしばらく……ようやくブレスが通り過ぎて消滅する。
……が、最早あまりのダメージに俺達は大地に倒れ込むしかない。
「ぐぅぅ……っ!!」
俺は朦朧とする意識の中で、なんとか辺りを見渡す。
俺たちと同様に、ブレスのあまりの威力によって倒れ込みうなされているものが多数。
残りは……恐らくは死亡。
「一撃で数百人を……嘘だろ?」
俺はその、あまりに馬鹿げた結果にそう漏らす。
レッドドラゴンが放ったブレス一撃でこの場にいるほとんどが戦闘続行は不可能……というか、直立しているものすら一人も存在しない。
レッドドラゴンの前に俺達全員、倒れふすしかなかった。
「ぐぅ……大丈夫か……レイラ、?」
俺は途切れ途切れになった口調で、隣に倒れているレイラにそう尋ねる。
「う……ん。……正直、大丈夫じゃ……ない。もう、戦えないかも」
レイラは苦しそうにそう答えた。
レイラを見ると、四肢はもちろん様々なところに火傷が存在しており、皮膚がただれている。
俺よりも圧倒的に酷い。
これでは戦闘は続行することが出来ないのも当たり前だ。
「いてぇ……痛てぇよ」
「く、クソが……俺達ここで終わっちまうのかよ」
倒れ込んでいる冒険者や騎士たちが、そんな事をそれぞれ呟くのが俺の耳に聞こえる。
どうやら、あちらの方も戦闘続行は難しそうだ。
『ガアアアアアアアアアアァァァ……』
レッドドラゴンはそう鳴きながらその両眼で俺達の事を睨んできた。
しかし、そんなレッドドラゴンもかなりのダメージが蓄積されているはず。
レイラに片腕を落とされ、俺に様々な所を叩かれ……あのブレスだって、相当のエネルギーを使うはずであるのだ。
満身創痍。隙だらけと言っても良かった。
「幸いダメージは受けたけど……俺はそこまで酷くない。……まだ、戦える」
昔からの俺の特徴であるタフネスがどうやら効いたようだった。
確かに熱いし痛いし苦しいが……少し無理をしてしまうが、何とか戦えるほどには体力は残っていた。
「今、戦えるのは俺しか……いない。……だから、俺がやらなきゃ……」
そう言って俺は全身に力を入れて体にむち打ちし、立ち上がろうとしたのだが……
「……え?なんで」
全身に全く力が入らない。
力を入れようとしても、何かに阻まれるかのようにして全く力が入らないのだ。
そして、その瞬間俺は気づく。
「しまった……!!制限時間か……」
そう、『昇華』の制限時間が来たのだ。
全ての自然エネルギーを使い果たしてしまった。
世界樹の木刀をにはもう既に自然エネルギーは内包されておらず、これ以上も取り込むことは出来ない。
『昇華』や『活性』はもう使えない。
更には『昇華』で強引に身体能力を上げた代償が発動する。
筋肉がビクビクと痙攣し始め、もはや痛すぎて何も感じなくなるほどに酷いものだった。
これが俺が先程、全身に力が入らないといった理由である。
「くそ……これじゃあ、もう戦えないぞ……」
俺はそう呟く。
この状況……まさに万事休すということわざが当てはまるものだった。
『ガアアアアアアアアアアァァァ……』
レッドドラゴンはダメージは受けているが、まだまだ戦闘は続行可能な程度である。
(……一方的な虐殺が始まる)
そして、そんな絶望的な状況の中……更に俺に追い打ちがかかった。
「……不味、い」
急に意識が薄れてきたのだ。
今まで無理をしてきた反動か、身体があまりの疲労に機能停止を求めているのか……。
眠るようにして、段々と瞼が下に落ちてゆく。
最早抵抗することは出来ない。
「……だめ、だ。気絶……する、な。まだ……あいつを……」
俺は必死になって抵抗しようとするが……無駄。
瞼が全て閉じきった。
意識が段々とどこか不思議な場所へと向かって行くような感覚……。
隣から「……カノン?」というレイラの声が、かすかに聞こえたような気がしたが、先程までとは一転。
……もうどうでもいい。
この、まるで水に沈んでいくような気持ちよさに全て身を委ねたい。
その、抗えない心地良さに、俺の頭はレッドドラゴンの事はもう考えられなかった。
ガクン、と俺の中から何かが抜ける。
……こうして、俺は意識を失った。
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