第53話 【侯爵家と炎帝の学院入学試験 13 】

「ここは……」


 そうして俺達が、イーグリア侯爵の案内の下やって来たのは、先程のまるで芸術品のように美しかった庭園とは別の、なかなか物寂しい庭であった。


 ……いや、庭と言うよりは大広間という方が正しいのかもしれないが。


 全体図の構成としては、この空間は大きな円型の形をしているという事がわかるだろう。

 そして、その円周をなぞるようにして存在している、そこそこ手入れのされている杉の木が多数。


 杉の木々がうまいバリケードとなっているのと、貴族の屋敷の敷地とは思えないほどに質素で味気ないという事が影響しているのだろう……初見の俺には、コロシアムなどのどこかの闘技場のように見えた。


 地面もそこら辺にあるただの砂利や土であるし……端的に言えば、とても殺風景であった。


(さっきの庭園を見てしまうと、どうしても違和感を隠せないな。同じ敷地に存在しているとは思えないぐらいだ。……これは言い過ぎかもしれないけど、『楽園エデン』に異物が混ざっている感じかな?)


 ただ……目を楽しませるような物が少ない、あるいは無く、つまらない空間が広がっているために物寂しい、と俺は表現したが……それはあくまで物に関してである。


「けど……これは、何人ぐらいの騎士がいるんだろうか」


 ──キンキンキンキンキキキキキンッ!!!


 そんな鋭い金属音が、至る所から発せられているのを俺の耳はとらえた。


 剣と剣、あるいは剣と盾……とりあえず、金属製の武器と武器がそれぞれぶつかり合っている時に生じる衝突音である。


 ……そう、この空間には物の代わりに人……それもたくさんの騎士が存在していたのだ。


 端から端をぐるっと見て見てみるが、やはりそこにいるのは一括された量産型の鉄製の鎧を纏いながら、戦闘を繰り広げる男臭い騎士たちしか居ない。


 そこは、突入しろと言われたら思わず躊躇ってしまうぐらいにはむさ苦しく……とても熱気に包まれていた。


「……こうして見ると、圧巻だな」


 俺が騎士だというふうに判断したのは、常人であれば見分けるのは難しいだろうが、彼らが纏っているおそらくは鉄製の鎧に、イーグリア侯爵家の家紋が掘られていたためである。


 ……まぁ、霊装神器相手には鉄製の鎧でも大して効果は無いのだが、無いよりはマシだろうという考えだろう。


「戦闘訓練でもしてるのか……?」


 少し観察をしていると、乱戦と言うよりは二人一組のペアを組んで、そこで戦闘訓練を繰り広げているということが見て取れた。


「ん……ここは騎士団なんかが良く使う訓練場だよ」


「訓練場……だから、こんなに騎士たちが集まって、戦闘訓練をしているのか」


「そう。いつでも出陣できるようにね」


「なるほどな……でも、それにしても」


 俺は適当にその光景について観察していると、とある一つの特徴について気がついた。


「一人一人がかなり強いな。……身体能力もそうだけど、技術面が特に優れている……」


 そう、騎士一人一人の練度がかなり高かったのだ。


 まぁ、俺が基準としているのが『大暴走スタンピード』に参加をしていた帝都の騎士団に所属している騎士たちであるので、正確なところはよく分からないが……しかし、彼らよりは圧倒的に強いということが分かった。


 この場にいる騎士は数にしておよそ百といったところだろうが……そんな数の騎士が、全員これほどの練度を誇っているならば、集団としてどれほどの強さを持つのだろうか、と俺は考える。


(……まぁ、不思議と負ける気はしないけどな)


 レイラとそんな会話をした俺は、今度はイーグリア侯爵に向かって話しかけた。


「……それにしても訓練場っていうぐらいなので、室内だと思ったんですけど、どうやら違ったみたいですね」


 イーグリア侯爵は思うところがあったのか、笑みを浮かべて訓練中の騎士たちを眺めた。


「それでも良かったんだけどね……でも実践の環境に、今のうちから慣れさせておいた方が良いだろう?……例えば土とかだね。地面を踏む感触がいつもと違うということで少しでも違和感を感じたら……戦闘においてそれは、致命的な隙になるからさ」


「……なるほど。確かにそうですね」


 イーグリア侯爵のその説明には、説得力があったので、俺は納得しながらそう頷いた。


 イーグリア侯爵は、基本的に部下の命は大切にする貴族である。

 そして、命というものは一つしか存在していないのだ。


 だからこうして実践環境に近づけることで、出来るだけ騎士たちの生存率を上げておきたい……という事が、よく理解できた。


「まぁ、これは騎士団長の…………っと、噂をすればなんとやらだね。ご本人の登場だよ」


 イーグリア侯爵のそんな言葉を聞いて俺は、顔を回してとある一点に視線を向けた。


 身長は俺よりもはるかに大きく、おそらくは二メートル以上あるだろう……フルプレートメイルと言ってもおかしくないほどの鎧を着こなしている、筋骨隆々の一人の男がこちらへと歩み寄ってきていた。


(……あの騎士たちもかなり強いけど、この人はそれとも比べ物にならないぐらい強いな)


 歩く際の重心移動の仕方や無駄のない動きなどから、俺はそんなことを判断する。


 そうしてその男がイーグリア侯爵の前まで到着すると……その場で跪いた。


「御館様、本日はどのようなご要件で?」


 その言葉には、敬意の感情が上乗せされていた。


 ……まぁ、彼の気持ちもわからなくはない。


 彼らはいつも通りにここで訓練を行っていたのだろうが……しかし、予定に無いはずのイーグリア侯爵の訪問、たまたま立ち寄っただけという様子ではないし……疑問に思うのも当たり前だ。


 そんな彼を見て、イーグリア侯爵はスラスラと話す。


「そんなに、固くならなくて良いから。とりあえず跪くのをやめて欲しいな。……というか、立ち上がって欲しい」


 イーグリア侯爵のその言葉に、男は「はっ!」と返礼すると、そのまま流れるような動きで立ち上がった。


 そうなれば、男の方が身長が大きいので、イーグリア侯爵は男の目を見る場合は見上げる必要性がある。

 立場的な問題もあるし、それは貴族としてあまり宜しくないのだろうが……しかし、イーグリア侯爵はそこら辺は頓着しない……というか、全く気にしていないようであった。


「急遽来てしまって済まないね。ただ、こっちのカノン君について、少し君たちに相手をしてもらいたくてさ」


 主君の話の話題に俺がでてきたことによって、その男は今度は俺に視線を向けてくる。


 とても濃密な威圧感が俺を飲み込もうとしてくるが、俺は特に反応せずその場で耐え続けた。


「ふむ、カノン殿ですか。……その容貌に強さ。レイラお嬢様のパーティメンバーである白夜叉ですかな?」


「ん……そうだよ」


 男の言葉にレイラがそう返す。

 どうやら、俺の言葉既に知っているらしいが……しかし、初対面という事もあるので俺は一歩前に踏み出て一応名乗っておいた。


「どうも初めまして、カノン・シュトラバインです」


 すると、男も名乗りを返してくる。


「私はこのイーグリア騎士団の騎士団長を務めているレバイン・ゴルゴーンという。こちらこそ是非よろしくお願いしたい、カノン殿」


 イーグリア騎士団の騎士団長であったという事に、俺は少し驚愕を抱きつつも……そうして彼は手を差し出してきたので、俺はそれに応えるがごとく握手をする。


 実際に手を握ってみると、このレイバンさんの長年の努力の証を感じることが出来た。

 また、流石に二倍とまではいかないが、俺よりも圧倒的に大きなその手は安心感も与えてくる。


「……それで御館様。私達にカノン殿の相手をして欲しいというのは?」


 レイバンさんの疑問にイーグリア侯爵は微笑んで……くるり、と俺に視線を向けて話した。


「カノン君……君が有用かどうか、今から確かめさせてもらうよ。つまりは、力を示してくれ。……君には今から我が家が誇るイーグリア騎士団の面々と戦ってもらおう」


 イーグリア侯爵は、鋭い眼光で俺に向かってそんなことを話してきたが……ある程度予想はついていたので、特段驚いたりはしない。


 俺がこの戦いに勝てないようであれば、取り引きは無効となり……勝てば、取り引きが成立するという、とてもわかりやすい方法だ。


 あいにく、『大暴走スタンピード』で疲弊した身体は時間とともに、既に回復しているし、また愛武器である世界樹の木刀も俺の腰に刺さっている。

 さらには調子も良い……ベストコンディションと言っても良かった。


(今の俺なら……いける!!)


 意志をねじ入れるかのように、俺はギュッと拳を握りしめた。


「ええ、先程も言ったと思いますけど、望むところです。挑んでくるならば、そのことごとくを打ち倒しましょう」


 俺はレイラと一緒に居るためなら……つまり炎帝学院に入学するためなら何でもするということを決めているので、そのように答えた。


 するとイーグリア侯爵は、そんな俺の返しに好感を覚えたのか、「なら、楽しみにしているよ」と、言葉の通りに心底愉しげにそう告げたのだった。


「事情は存じていませんが、分かりました。すぐに準備をさせましょう」


 横からレイバンさんが、そんなことをイーグリア侯爵に向かって喋った。


 レイバンさんはあの場にはいなかったので、どうしてこうなったかなどの理由は分かっていないようであったが……しかし、俺達の話の流れからこれからの事や自分のすべきことを理解したのか、すぐに行動に移した。


 限られた情報から全体像を読み取る……まさに、優秀なできる騎士という感じがした。


「僕達も行こうか」


 俺・レイラ・メアリスさんはイーグリア侯爵のその言葉に従って、彼と共にレイバンさんの後を追うようにして歩き始める。


「お前達、一時鍛錬を中止するぞ!!」


 そうして未だに戦闘訓練をしていた騎士たちの所まで歩いていったレイバンさんは、思わず耳を塞いでしまうほどの声量で、そう叫ぶ。


 騎士たちはレイバンのその声とともに、霊装神器を振るう手を止めるが……「なんだなんだ?」「鍛錬中止ってどう言うことだ?」「っていうか、あれ御館様じゃない?」などと皆驚愕や戸惑いの様子をあらわにした。


 そんな彼・彼女らと今から戦わなければならないという事実に俺はどうしても苦笑してしまう。


 まぁ、手を抜くつもりはさらさらないが。


「とりあえず……第一前衛部隊の者は前に出ろ!!」


 その後のレイバンさんの指示に従って、ぞろぞろと彼の辺りに騎士が集合する……そして、点呼が終了するとレイバンさんは、騎士たちにそう声を掛ける。


 未だに状況をよく理解できていなかった彼等だが、とりあえずという事で、騎士団長であるレイバンさんの言葉に従い……第一前衛部隊と思われる騎士たちが十数名、前方に進み出た。


 数としては十二人……男性が十名、女性が二名という男女比率で、その誰もが鎧越しにも分かるほどに鍛え上げられていた。


「えっと騎士団長、御館様やお嬢様は分かるんですけど……この坊主は誰なんです?」


 不思議に思ったのだろう、ガタイの良い男騎士がレイバンさんにそう問いかける。


「うむ……聞いて驚くな、この方は先の『大暴走スタンピード』の一番の貢献者である、白夜叉カノン殿だ」


「……えっ!?こんな子供がですか!?」


「馬鹿者、見た目で侮るでは無い。レイラお嬢様の強さはお前達も身に染みてよく知っているはずだろう」


 その言葉はこの場にいる騎士全員を驚愕をさせたようで、ザワザワとひそひそ声が幾重にも重なり合う。


 好奇な視線、訝しむ視線や俺を侮る視線……多くの種類の視線を一点に受け止める俺だが、元々目立つのはそこまで好きではないので、胃がキリキリと痛んだ。


(出来れば今すぐ逃げ出したいけど……これも目的のため。……我慢我慢、と)


 あと、またもや見た目で侮られたという事に少し落ち込んでいると、イーグリア侯爵が口を開いた。


「鍛錬中悪いね。お疲れ様と言いたいんだけど……ここで僕から君達にお願いがあるんだ」


 イーグリア侯爵のその高貴な雰囲気に当てられて、緊張の様子が見て取れる騎士たちであった。


 ……というか、お願いなんて言ってるけどさ、立場的に逆らえるはずもないし、実質命令だよな。


「ふふふ、何……カノン君とちょーーっとばかり戦ってくれれば良いんだ。簡単だろう?」


 イーグリア侯爵はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべながらそんなことを告げたが……当の騎士たちは全員一致で「どこがだよ!?」と言いたげな様子であった。


 まぁ、雇い主であるイーグリア侯爵には絶対にそんなことを言えないので、悲観的な様子になる者が殆どであったが。


(……というか、そこまで嫌がらなくても良いでしょ!?)


「馬鹿者が!異名持ちの冒険者と戦えるのだぞ!?こんな体験を悲観的にとらえてどうする!!」


 そんな時まるで俺の傷ついた心を癒すように、レイバンさんからフォローの言葉が入った。


「うーん……じゃあ、もしカノン君に勝てたら、全員の今月の給金を十倍にしてあげるよ」


「「「「……!!!」」」」


 ……正直なところ、こう言うのもなんだがとても現金な人達だな、と反射的に思ってしまった。


 イーグリア侯爵のその言葉を聞いた瞬間、先程までの空気が一転し、誰も彼もが狂喜乱舞といった様子になったのだから。


 どうやら一体一では勝ち目はないが、一対多なら勝ち目はあると考えているようであるらしい。


 その楽観的な考えはどうなんだ……と思わなくもない俺であったが、しかしそこは俺が指摘するところではないだろう……それよりも、とりあえずは挨拶でもしようも一歩前へと進み出た。


「えーっと、どうも初めましてカノン・シュトラバインと言います。一応こんなナリですけど冒険者として活動させてもらってます。……まぁ、唐突な展開に俺自身すごく驚いていますが、とりあえずはいい経験になるだろうと割り切ってます。どうぞ宜しく」


 俺はぺこりとお辞儀をすると……そんな行動が意外だったのか、皆少し困惑した。


「……おう。こちらこそ異名持ちの冒険者の力、見せてもうとしようじゃねぇか」


 そう言ってきたのは、先程俺の事を騎士団長に尋ねたおじさん……いや、男騎士である。


 その言葉には俺を見た目で侮っているのか楽観的な様子や、どこか皮肉っぽいニュアンスも含まれているように感じた。


「……よし、では早速始めるとしよう!!第一前衛部隊の者以外は戦闘に巻き込まれないように下がれ!!」


 レイバンさんのその声とともに、俺と第一前衛部隊の騎士たち以外の面々は、戦闘の邪魔にならないように歩きだして距離を取る。


 元々この敷地が広いという事もあって、彼らは俺たちを中心として円をえがくかのように、まるで囲むようにして観戦することとしたようであった。


 つい先程までは悲観的だったその視線も、俺たちの先頭に興味を示したのか、それとも自分たちが戦わなくて良いことへの安心感からか……いつの間にか好奇な視線へと変わっていた。


「……では、審判は私が務めさせてもらおう」


 レイバンさんなら、その性格から片方に肩入れするということは無いので、安心である。


「行くぞ……お前ら、いつものフォーメーションだ」


 すると、対峙している彼らからそんな呟きが聞こえてくる。


 基本的に、イーグリア騎士団所属の彼らは真面目なものばかりであるのだ……仮にも異名持ちの冒険者と戦闘が始まるという事で──まぁ、まだ楽観視しているところはあるが──既に戦闘態勢は整えられていた。


(……さて)


 俺の視界に心配そうにこちらを見つめるレイラと、その隣でニヤニヤと愉しげに見つめてくるイーグリア侯爵が映った。


 何度も言うようだが、俺の目的のためにはまずはこの戦いに勝利する必要性があるし……それに先程から楽観視している、と言っているがしかし実際のところ彼らの実力は確かなのだ。


 なので、俺はいくら勝てる自信があるからと言っても、消して慢心せず真摯に本気で挑むために……世界樹の木刀を腰から引き抜いて、体を拗じるようにして木刀を構えた。


「全く……どうしてこんな事になったのやら」


 またもや思わず苦笑してしまうが、頭を切りかえてこれから始まる目の前の戦闘に集中することとした。


「よし、ではこれから我がイーグリア騎士団と冒険者カノン殿との模擬戦を始める。……双方共準備は良いな?」


 その確認に、俺たちは同時に頷く。


 緊張感が漂っているかの空間……観客も俺たちも互いに無言を貫き通していた。


 数秒、数十秒、数分……感覚的には分からないが、暫くしてついに……


「──では、始めっ!!!」


 レイバンさんのそんな掛け声と振り下ろされる腕と共に、戦いの火蓋が切られた。


(とりあえず、まずはどう立ち回るかだ。確かに勝てる自信はあるけど、でも瞬殺するって事は、彼らの実力からして無理そうだしな……)


 俺はとりあえず牽制のために、殺気とともに威圧を放つ。

 案の定、ピリピリとした空気からか彼らは誰も動けないようであった。


 もちろん、俺が突撃してきたら上手い連携をとって即座に対応してくるのだろうが……しかし、今はどちらが先にどう出るかの読み合いの時間であるので、様子を見ることとしているのだ。


(まぁ、やっぱり真正面から……無難な王道で行くか。多数相手だとゴリ押しは良くないんだろうけど、一番やりやすいしな)


 いつまでも睨み合っていても進まないのは事実なので……俺はとりあえず、不意討ちで前衛まで突撃してから、騎士たちの密集間の隙間を縫うようにしての移動法で撹乱させつつ攻撃する、という在り来りな作戦で行こうと考えた。


「イーグリア侯爵を魅せるためにも、この模擬戦は勝たなければいけない……」


 コンコンと地面を何回か蹴った後……そのまま持てる脚力の全てを総動員して、俺は一直線に彼らとの距離を詰めようとした。


 唐突に俺の突進の予備動作を発見した彼らは、少し戸惑いながらも霊装神器で対応しようとする。


「行き、ますよっ!!!」


 その呟きと共に俺は全力全開で、轟雷のような音とともに、地面を蹴った次の瞬間……




 ──刹那、俺は既に世界樹の木刀の届く間合いまで距離を詰めていた。




「………………は?」


 最も驚いたのは、目の前の騎士たちでは無くて……本人である、俺。


 確かに今、俺は彼らとの距離を全力で詰めようとしたのだが、しかし気づいたら……いや、俺の意識が追いつかない程の速度で間合いが詰まっていたのだ。


 俺の最高速は音速程度だったはずなのに……感覚的にだがその二倍は出ていたのではないか?と思う。


 あまりの速度に、至近距離まで接近された騎士たちも反応どころか、そもそも意識が追いついておらず気づいてすらいない様であった。


(今、何が起こった?俺の肉体スペックじゃ、絶対に出せないほどの出力だぞ!?テオドール相手でも勝るとも劣らないほどに……)


 思考が加速し視界がモノクロ化する中、俺はそんなことを考えていたが、しかし今はそれよりも……


(いや、とにかく不味い!!このままじゃ、あまりの速度と威力に殺しかねない!!)


 何とか、腕の筋肉を引き戻そうとするが……しかしまともに制御は効かなかった。

 何とか踏ん張りを効かせたことで、威力は落とすことは出来たのだが……しかし、それは微々たるものだったのだ。


 仕方ないので、そのまま当てどころに注意しながら、模擬戦を終わらせる為に秘剣を放つ。


「六式・二連……六花りっか ッ!!」


 瞬間的に、花の文様を描きながら六連撃が一息で放たれた……しかも二連。


 ズガガガガ──ッッ!!と幾重の斬撃が重なり、騎士たちに襲いかかった。


 この頃になっても未だに反応できない彼らは、あまりの衝撃に脳が揺さぶられ、悲鳴を上げることすら出来ないまま砂塵をまき散らして、上空、真横に吹っ飛ばされた。

 霊装神器である洋風の剣も舞い上がりながら使用者の意識喪失によって光の粒子として消えていく。


 もちろん真横に吹き飛ばされた騎士たちは、まるで弾丸のように俺たちを囲む観客である仲間目掛けて突っ込んで行った。


「「「「…………え?」」」」


 あまりに一瞬すぎたせいで、どうやら彼らの動体視力では追いきれなかったようで……観客の騎士たちはいつの間にか模擬戦を制した俺に向かって呆然と視線を向けてきてきた。


 どうやら遠目……とはいかないが、ある程度距離があっても今の動きは見えなかったらしい。


 おそらくは今の動きを追えたのは、反応からしてレイバン騎士団長とレイラだけだろう。

 ……まぁ、彼と彼女もとんでもない程の驚愕の表情を浮かべているが。


 だが、今の神がかったありえない速さに驚愕しているのは俺も同じだ……いや、俺が最もだろう。

 自分の実力は最も自分が知っている筈なのだから。


(今の動きは……。俺の身体は一体どうなっているんだ……?)


 何となく愛武器である世界樹の木刀を見ながら……俺はどうしてもそう思わずにはいられなかった。

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