第80話

 へリウスに抱えられた俺は、裏口から飛び出た。裏口には、領主の関係者らしき人はいなかったらしい。誰に引き止められるでもなく、街の中へと紛れこむ。

 これからどうするんだろうと思ったら、なぜか街の出入り口のある門の方へと走っていく。わざわざ港町に来たというのに、港の方ではなく、まったくの反対方向だ。


「船に乗るんじゃないの?」

「乗らないよ」

「え、でも」

「前に言っただろう? 友人に連絡をとってたって」

「うん」

「ハルと離れていた間に、ようやく連絡がついたのさ」


 門を飛び出し、そのまま走る。


「へリウス様」


 いつの間にか、アーロンが遅れることなくついてきていた。


「ああ、お前、名は」

「はっ、アーロン・ジラートと申します」

「ああ、ヘケルス叔父上のところのか」

「息子にございます」


 なんかアーロンが嬉しそうなんだけど。そんなにへリウスって、凄いのか?

 そんな2人は余裕で喋ってるけど、凄いスピードだかんね? 緑がビュービュー飛んでくんだから。それに遅れずにエアーもついてきてる。

 街道をしばらく行ったところ、少し森が凹んでできた空地で、2人は立ち止まった。


「カイドンの領主が、ハルを狙っているようでして」

「悪いな。まったく、あのギルドマスターも余計なことをしてくれるっ」


 へリウスは俺を下ろすと、小さなメモを手にとる。何が書いてあるのか、疑問に思いながら見ていると、いきなり青い小さな鳥が現れた。


「伝達の魔法陣ですか」

「ああ」

「羨ましい」


 不思議に思ってアーロンへと目を向ける。


「俺たち獣人は、魔力があんまりないんだ。ただし、王家の血筋はまた別でね」

「よし、行け」


 へリウスがぽいっと青い鳥を放すと、プワッと青い光の粒とともに消えてしまった。


「すげぇ……」

「そうは言っても、俺ができるのは、これぐらいしかないがな」

「いえいえ、いざという時の通信手段があるというのは、大きいですよ」

「でもなぁ、送る相手は知り合いでないとダメというデメリットがあってな」


 などと、随分と親し気に話している2人。思わず、彼らの姿を見比べてしまう。

 並んで見ると、へリウスの方が頭一つ分くらい大きいか。へリウスが黒で、アーロンは白。少しだけへリウスの方が年をくってる感じだろうか。


「……おい、ハル、お前、変なこと考えてねーか」

「……いや?」


 こいつ、エスパーか。

 俺はニヤニヤしながら否定したけれど、へリウスに抱き上げられ、ウリウリっと頭を撫でられた。


「へリウス様、ちなみに、どなたにご連絡を?」

「ん? ああ、あちらの大陸で世話になったヤツでなぁ」

「ヤツってことは男ってこと?」

「ああ、違う違う、立派な女性だ」

「……そこで、男って言ったら、精霊王様にみじん切りにしてもらったのになぁ」

「うわっ!?」


 突然、不機嫌そうな女の人の声が聞こえた。

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