第86話

 どうも、俺の両親の話っていうのは、ちょっとした悲恋ってことで有名な話になっていたらしい。


「いや、まさか、あのエノクーラの王子様とシャイアールの姫様の子供が、ハルとか、普通、誰も思わないから」


 特にアーロンは、あちらの大陸に住んでいるだけあって、子供のころから聞かされていたらしい。ただ物語としては、王子様は病で倒れ、その後を追うように姫様は亡くなったっていう、なんとも綺麗なお話だ。

 実際は、両親ともにエルフの王族によって暗殺されたらしいけど。


「……そういやぁ、ハル、あっちのギルドに貼りだされていた手配書、お前と同じ名前のエルフのがあったな」


 ヘリウスが真剣な顔で聞いてきた。


「まさか」

「……未だに、シャイアール王家は、アカシア王女に連なる者を探しているってこと?」


 ミーシャさんは渋い顔になる。


「大体、どうやって、ハルの存在がバレたんだ?」

「……どうやってかはわからないけど、エルフっていう種族には、何かしらあるんでしょ」

「知り合いのエルフとかから、何か聞いたことないか? アーロン?」

「あー、うーん、ヘリウス様もご存知だと思いますけど、冒険者になるようなエルフっていうのは、そもそも、王家の一族とはまた違う一族です」


 他の一族が王家に入ることはあっても、他の一族に降嫁や婿入りすることはないらしく、必ず、王家の一族の家の中に取り込まれるのだとか。

 となると、俺ってば、唯一、王家の外に出て生まれたエルフってことになるのか。


『今代のエルフの王は、アカシアの実兄だ』


 なんと。俺の伯父さん!?

 その伯父さんが、うちの両親を殺すように命じたのか!


『恐らく、ハル、お前は生きている限り、アレに狙われ続けるかもしれん』

「……なんで、そんな」

『アレはシャイアール王家の中の澱んだ血の集大成みたいなものだからな』

「ねぇ、だったら、私が浄化したら、なんとかなるのかしら」


 ミーシャさんが問いかけるけれど、精霊王様は難しい顔で頭を振った。


『数千年と脈々と連なった者たちの妄執だ。ミーシャが生きている間に浄化出来るとは思えん。そもそも、ストーカーエルフも、アレと連なってるんだぞ? ミーシャには無理だろう?』

「げっ、そうだった!」


 ……ミーシャさんも、なんか色々あったようだ。


『今は大陸が違う。とりあえず、奴らにハルの痕跡は辿れまいよ』


 その言葉に、ホッとする。


「で、どうする」


 再びへリウスが俺に聞いてきた。


「どうするって?」

「母親の親族がヤバいってのはわかった。だったら、父親の方は?」


 父親……ゲラルド・エノクーラ、エノクーラ王国の王子の一族ということか。


「俺の父親って……人族だったってことでしょ? その家族って当然、もういないだろうし、いても、300年って、もう何代目ってところじゃないの?」


 すでに遠すぎて、ほぼ他人なんじゃって思う。


「いや、えーと、エノクーラの王家は、エルフ程ではないけれど、人族としては長寿の一族で有名だよ?」


 アーロンさんの言葉に、固まる俺。


「そうなの!? イザーク、知ってた?」

「……知らなかった」

「あっちでは常識だけど……たしか、平均して150年くらいじゃないかな。あ、今の王太后様が、200歳近いって聞いたことがあるかも。まぁ、そうだとしても、ハルの両親を知っている世代はいないだろうけど……」


 うん、まぁ、そうだよね。

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