第87話

 母親の一族に命を狙われるとか、どういうハードモード。

 その上、父親の方の一族にしても、今更、新たな火種になりそうな子供(それもハーフエルフ)の俺を受け入れるとは思えない。

 だいたい、俺の父親っていうのも、母親の一族に殺されてるんだぞ?

 そもそも、一度も会ったことのない相手に、親族と言われても、って俺でも思う。


「ハル」

「うん?」


 へリウスが真剣な顔。


「うちの子になるか」

「うん?」

「そうか、よし!」

「いや、違うっ! 返事したつもりはないっ!」

「なんでだよ!」


 普通にいきなりすぎての反応だよ!


「へリウス、あんた、メイリンに話してあるの?」

「ギルド経由であっちから連絡をいれてもらってる」

「で、返事はもらってるんだろうね? 勝手に決めてないわよね?」

「ああ! 大丈夫だ!」


 自信満々のへリウスに、呆れているミーシャさん。


「あんたん所は、あっちと繋がりがあるんじゃなかった?」


 ちらりとアーロンさんへと目を向ける。


「確かにアーロンの一族が、あちらには根付いているが」

「姉の嫁ぎ先の商家は、一応、あっちでもかなり大きな商家でして」

「……本当に大丈夫なの?」


 喧々諤々と大人たちが俺の行く先で揉めている。


 正直、今更、どこかの家に入るっていうのが、ピンとこない。

 確かに、ボブさんたちや、へリウス、アーロンに助けてもらった。こんな子供の身体で、日本とは違う、過酷な異世界でここまで生きてこれたのも、彼らがいたからだ。


 見かけは5才児だけど、中身は18才。

 むしろ、独立して何かしたいと思うくらいだ。見かけが5才児でなければ。

 この短いような、長いような間、へリウスやアーロンを見てきた俺にとっては、この世界でのロールモデルは彼らになるわけで。


「あのさ」


 俺の声に、皆の視線が向く。


「俺、冒険者になりたい」

「うん?」

「まぁ、身体は子供だし、ちょっと、時々、子供っぽいかもしれないけどさ」

「……」

「ちゃんと、自分の身くらい、自分で守れるようになりたい」


 たぶん、これから先、面倒なことに巻き込まれるのは確実だと思う。

 何せ、得体の知れない俺という存在を、未だに母親の一族が探すくらいだ。しつこそうなのは、俺だって想像できる。


「だから、へリウスのとこで、世話になってもいい?」

「ああ、いいとも! きっちり、鍛えてやるぞ」


 ニカッと笑うへリウスに、俺もニヤリと笑い返す。


「……あんた、ハルに魔法のことは教えられるの?」

「あ」

「あ」

「あ、じゃないわよ」


 エルフの魔法、獣人のへリウスは教えられなかったっけ。

 呆れた顔のミーシャさん。俺の方をジッと見てから、ぽそりと「鑑定」と呟く。


「……うわ、しっかり、名前付いてるし」

『ああ。これは鑑定持ちに見つかったら一発でマズいヤツだな』

「え、え、え?」

「よく今まで無事だったよね……って、そういう精霊王様だって、何気に加護、与えてんじゃないのっ!?」

「え、え、え!?」

『ハハハ、他の連中も、コイツに会ったら与えずにはいられまいよ』


 ど、どういうこと!? 

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