第88話

 ミーシャさんは、いきなりメモと鉛筆らしき物を取り出して(どこから!?)、何やらスラスラと書き出している。


「はい。これ」


 差し出されたメモに書かれていたのは、懐かしい日本語。

 へリウスが覗き込んできたけれど、首を傾げているから、読めていないんだろう。


『ハル・シャイアール・エノクーラ/ 5歳

 種族/エルフ

 性別/男性

 体力:20

 魔力:∞

 魔法

 ・精霊魔法

 加護

 ・風の精霊王の加護』


 これって、所謂、ゲームでいうステータス!?

 思わず、メモとミーシャさんを何度も見比べてしまう。

 そんな俺にミーシャさんは、にっこりと笑って、メモを見ろと言わんばかりに、目で促してくる。

 俺は素直に、メモに目を通す。

 最初に目がいくのは、名前。

 両親の実家……それぞれの王家の名前が2つ繋がってる。なんでだ。

 確かに、これ、鑑定出来る奴に見られてたら、大分ヤバいヤツ! それだけで冷や汗ものだ。

 やっぱり、この身体は5歳なのか。小さいもんなぁ(遠い目)。

 種族はエルフとなっている。てっきりハーフエルフって出るんだと思っていた。母親の血が強かったのか?

 体力ないけど、5歳児ってこんなもん?

 ……って、なんか魔力の値、おかしくないか?! 一度もまともに使ったことはないけれど、そんなに魔力ってあるの?

 それに、精霊魔法って、精霊を使って魔法ができるってこと?

 頭の中は、はてなマークでいっぱいだ。


「他の誰かに鑑定される前に、名前、変えた方がいいと思うよ」

「……ですね。ただ、ハルって名前で名乗るだけじゃ、この名前って変わらないってことですもんね」


 ミーシャさんの言葉に、顔を顰める。

 今まで、ずっと、それで通してきたけど、鑑定で出てくるのは、物騒な名前。


『この名前は、この世に生まれた時に、お前の両親がつけたもの。この世界に刻まれた名前だ。これを変えるには、新たに絆を結び、この世界に名前を刻む必要がある』

「大丈夫だ! だから、うちの養子になればいい!」

「……はぁ。こんなんだけど、へリウスの所だったら、奥さんがしっかりしてるから、大丈夫かな」

「失礼な! 俺だって、これでもちゃんと父親してるぞ!」

「はいはい。執務はメイリンに任せっきりで、子供たちと剣を振り回してるって、愚痴ってたわよ」

「ぐっ!」


 ……へリウスは、奥さんの尻に敷かれているらしい。


 ミーシャさん曰く、この鑑定結果は、成長とともに変わっていくらしい。

 新しい魔法を覚えたり、スキルという項目や、職業なんていうのも出てくるのだとか。

 当然、体力や魔力の値は、成長にともない増加していくのだとか。魔力はこれ以上、増えないだろうけれど、使い方がわからないんじゃ、宝の持ち腐れだ。

 誰かに、この魔力の使い方を教えてもらわないといけないけれど、普通の人とエルフでは使い方が違うんだろうか?


「まぁ、その辺は、へリウスとメイリンで考えて。困ったら相談してくれてもいいし」

「エルフの魔法は俺は教えられなくても、知り合いのエルフにでも頼んでみるさ」

「……あっちの紐付きじゃないか、ちゃんと確認してよね」

「わかってる」


 そして、俺は、へリウスの家族……彼の息子になることに。

 へリウスが俺の父親? というと、少しばかり奇妙な感じだ。

 ご機嫌な笑みを浮かべて、俺を見下ろすへリウスを見て、なんか、ちょっとだけ、こそばゆく感じた。

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