第29話

 狼の獣人のヘリウスは、いい奴だった。


「ほれ、ハル、どうだ町ん中は」

「うん、凄いな。ホビットの村とは全然違う」


 俺はヘリウスに肩車してもらいながら、町の中を進んでいる。ヘリウスが周りよりも頭一つデカいから、みんな、俺の視線の位置よりも下の方にいる。そしてフードをかぶっているおかげで、誰も俺の耳には気付かない。

 そういえば、肩車なんて、ガキの頃にやってもらったきりだ。思い出したところで、それが楽しかった、とかいう感傷的な気分にもならないのは、俺がひねくれているせいだろうか。


「まぁな。ここは人属が多いからな」


 ヘリウスの言葉で、周囲を見渡す。

 町の様子は、古いヨーロッパ風な街並みといえばいいんだろうか。石造りの建物が多くて、町を歩いている者の多くは人属で、エルフの国だというのに、肝心のエルフの姿は見かけない。時々、獣人の姿を見かける。獣人、といっても、本当にいろんなタイプのがいて、見てて飽きない。

 俺の印象では、あちらの世界の印象があるせいか、あまり大きな町には感じない。それでも、大きな通りには露店みたいなのもあって、ちょっとした賑わいをみせている。


「ヘリウス、そこを右に曲がってけれ」

「おう、こっちだな」


 ヘリウスの後ろをついていたボブさんたち。さすがに足の長さが違うせいか、二人とも小走りだ。俺だけ肩車してもらってて、申し訳ない気分になる。それでも、降りたいとは言わない。何せ、目の前にある、ケモミミが面白いんだ。黒い狼の耳なんて、間近で見たことないし。ピコピコ動いてるんだぜ?


「こら、ハル。耳触るんじゃねぇ」

「あ、ごめんっ、つい」

「ったく、獣人の耳は、家族や恋人にしか触らせねぇもんなんだ。覚えとけ」

「おおおお! そういえば尻尾も……駄目なんだっけ?」

「ああ」

「ヘリウスさんの尻尾、フサフサしてて触り心地良さそうなのになぁ……」


 肩車されてる状態で下に目を向ける。もう、ゆらゆら揺れてる尻尾に、ちょっかいだしたくて仕方がないんだけど!


「フフン、俺のは番が毎日ブラッシングしてくれてたからな」

「番?」

「おお。俺の唯一だ」

「それって、奥さんってこと?」

「おうよ!」


 自慢げに言ってるヘリウスさんに、俺もびっくりだ。既婚者だったとは思わなかった。


「ほれ、楽しそうな話は後にしろや。あそこが息子の家だぁ」


 ボブさんが楽しそうに話しかけてきて、俺たちはボブさんが言った家に目を向ける。なんか、俺よりもちんまいのが家の前で追いかけっこしているようだ。

 その様子に、ボブさんもメアリーさんも、笑みが自然とこぼれてる。


「トニー! アンナ!」

「……!? じーちゃん!」


 ボブさんの声に、ちんまいのが驚いたかと思ったら、嬉しそうにトテトテと走ってきた。

 

「ほれ、あぶねぇから走るなぁ」


 慌てて駆け寄っていくボブさん夫婦の姿に、俺もヘリウスさんも、一緒になって笑ってしまった。


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