第71話

 翌日には、再びアーロンに抱えられて旅の空、である。

 下手な乗合馬車なんかよりも早いのだから、当然か。若干、抱えられてるので、安定感はないんだけど。


「お、よし、街が見えてきたな」


 相変わらず余裕のアーロンに、俺のほうも慣れてきた。

 大きな街のせいもあって、中に入るのに並ぶ必要があるらしい。馬車の脇に、歩きの旅人たちが並ぶ。俺たちもその後ろに並んで待つ。さすがに、ここでは下ろしてもらう。


「なんか、ずいぶん時間かかってるな」

「どうもいつも以上に検問に時間かけてるようだぞ」

 

 アーロンの独り言に、先に前に並んでいたおじさんが答えてくれた。


「犯罪者でも探してるんですかね」

「かもなぁ」


 もしかして、例のエルフのことだろうか。

 冒険者ギルドだけではなく、国とか街単位でも捜索が始まったってことなのだろう。

 その後も30分近く待たされて、ようやく門までやってきた。

 今回もアーロンのギルドカードで入れるかと思ったのだけれど、若い衛兵に俺の方が止められた。


「そちらのお子さんは」

「知り合いから預かってるんだが」

「お知り合いですか……一応、そのフード、とってもらえるかな」


 最初はアーロンのAランクのギルドカードに目を輝かせてた衛兵だったけれど、俺の方に向けた目には、なんだか嫌な感じしかしない。

 俺はフードをぎゅっと手で押さえ込んで、アーロンの背後に隠れる。


「嫌がっているから、止めてやってくれないか」


 アーロンがなんでもないような感じで、注意するが、衛兵の方は「規則ですので」とか言いだした。


「は? 規則? こんな子供相手に?」

「ええ。今、どこの街でも、子供であっても顔の確認をさせてるんです」

「何のために」

「今、冒険者ギルドで探している子供がいるんですよ」


 その言葉にドキッとする。


「まさか、それを調べるために、こんな列になってるのか? それは冒険者ギルドの仕事だろう?」

「でも、見つけたなら誰でもが報奨金を貰えますからね」


 あっさりと言う若い衛兵に、アーロンも渋い顔になる。反対側の列の対応をしている中年の衛兵も同じなんだろう。じろじろと俺の方を見ている。


 ――最悪だ。


 アーロンの後ろに隠れていた俺を、また別の衛兵が脇から出てきて捕まえようとする。


「い、嫌だっ」


 掴まってたまるかっ!

 俺はフードを掴んだまま、クルクルとアーロンの足元を逃げ回る。


「おい、落ち着け。すぐに済むんだから」


 そう声をかけてくるのは追いかけまわしている衛兵だったが、なかなか俺を捕まえられない。そんな様子をアーロンはニヤニヤ笑いながら見ている。


「ア、アーロンさん、ちょっと、あなたの連れている子供なんですから、言ううこと聞かせてくださいっ」

「いやぁ、あいつは俺の言うこともまともにきかないからなぁ」


 何言ってるんだ、コイツ。

 ムカッとしながらも、あちこち逃げまくる。しかし、さすがに、俺だって疲れるわけで。


「くそっ、捕まえたぞっ! おらっ、フードを取れっ!」


 思い切りフードを取られてしまった。


「あ」

「おっ」


 衛兵たちは、がっかりした顔。アーロンは、ちょっと驚いている。周囲の他の旅人たちは、いい加減にしろって感じな顔になっている。


「す、すまんな」


 そして、そっとフードを戻してくれた。

 ……何が起こっている?

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