第10章

第70話

 アーロンに抱えられながら移動して3日目。ずっと野営を繰り返してた俺たちは、久しぶりに小さな村の宿に泊った。港町カイドンまで、あと少しだというアーロンに、この国の地図を見せてもらった。

 その地図で見ると、今泊っている村からカイドンまでは、間に大きな町が1つ、小さな村が1つあるようだ。ただ、この地図にのるような規模の村なので、もっと小さい集落のようなものもあるかもしれない、とはアーロンの話。

 俺は大人しく、宿の部屋でお留守番中。ベッドで寝転がりながら、エアーとおしゃべりタイムだ。

 アーロンに抱えられての移動では、当然、エアーと会話なんてするわけにもいかず、野営にしても、獣人の聴力を考えて、内緒話も難しい。エアーはそれでも、俺のそばから離れずついてきてくれる。


「エアーは凄いな。アーロンのスピードについてこれるなんて」

『ふふん、風の精霊をなめるなよ』

「なめてなんかいないよ! ただただ凄いなってな」


 そんな他愛無い話をしているところに、他の精霊の光の玉も集まってくる。それでもエアーほどの力のあるような子はいないようで、ただひたすらに、ふよふよしているだけだ。


「それにしても、へリウスとちゃんと合流できるかなぁ」


 つい、ぽつりとこぼしてしまう。


『大丈夫だろ』

「何、無責任に言ってるかな」

『ん、んんっ、いや、あのアーロンが尊敬してる相手だろ?』


 そうなのだ。へリウスを元王族というだけではなく、冒険者としても尊敬しているというアーロン。年齢的にもへリウスの方が年上、ということもあるんだろうけれど、どうもある国で起きた魔物のスタンピードに関わり、大活躍したことがあるんだとか。

 スタンピード自体、どんなものなのか、俺にはわからないんだけど、かなりヤバいことらしい。それが起きないように、冒険者たちがこまめに魔物を狩ったりしてるらしい。


「そうだな。きっと大丈夫だ」


 そう言って自分を納得させているところに、部屋のドアが開いた。アーロンだ。

 エアーは無言になって、スーッと俺の頭の上に乗る。


「やっと、へリウス様と連絡が取れたぞっ!」

「本当!?」

「ああ。今どこにいるかまではわからないが、カイドンで合流することは約束できた」

「よかったぁ……」


 勢いよく身体を起こしたのに、再びベッドに倒れこむ。


「そういやぁ、お前と同じように追われてるエルフの手配書があったな」


 アーロンがベッドに腰かけながら、バッグを床に下ろす。


「あー、それって、王家の手配書ってやつ?」

「そうそう。あれもお前と同じ名前で『ハル』っていうんだよな」

「そうだった、そうだった」


 犯罪者と同じとかって、マジやめて、って思う。


「まだ捕まんないんだね」

「ああ。今じゃ、報奨金が白金貨3枚まで上がってたぞ」

「……何したんだろうね、その人」

「ああ。あのエルフの王家がそこまで金出すとか、よっぽどだろうな」

「早く捕まるといいね……それより、俺、腹減ったよ」


 のんきに俺はそう言うと、ベッドから飛び降りた。

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