エルフ王の妄執
冒険者ギルドに手配書を出して、そろそろ4か月を過ぎようとしているが、一向にアカシアの子供の情報が上がってこないことに、デメトリオ国王は苛立ちを募らせていた。
「まだ、なのか」
ギロリと近くに控えていた宰相、ロブルス・ゴドフィンを睨みつけるが、当の宰相の方は、涼しい顔で「はい」とだけ答える。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
デメトリオ国王は手近にあった書類の束に、怒りをぶつけるように殴りつける。おかげで、執務室の中は書類だらけになってしまう。
「陛下、書類に当たらないでください」
冷ややかな宰相の声にも、デメトリオ国王は臆することなく、再び睨みつける。
「なぜ、見つからん! 名前も性別も、それに容姿も載せたであろう?!」
ハルの名前と性別は、かつて逃亡直前までアカシアの侍女をしていた女を見つけ出し、拷問し、身内を人質にして吐かせた。容姿はアカシアをそのまま男性にしたものだった。なぜなら、人族とエルフの混血は、必然的にエルフに容姿が偏ることになることが多かったからだ。
実際のところ、ハルは両親それぞれの容姿を受け継いでいるせい(クルクルとしたくせ毛に青みがかった黒目は父、白銀の髪に尖った耳は母)で手配書とはまったく似てはいない。
しかし、デメトリオ国王の頭の中には、アカシアの姿しか考えられなかった。
「……手配書絡みでの報告は上がってきていませんが、それとは別にエルフの尋ね人の情報がございます」
「そんなのは、普通にあることではないのか」
「そうですね……ただそれがエルフの子供、となっているのです」
「なんだと……ここ100年ほどは、子供が生まれたなどという話は聞かないが」
「はい、それも本当に幼子のようで、見かけは人間の5、6才児だとか」
「それこそ、保護すべきではないかっ!」
「ただし……その子供の名前が『ハル』というらしいのです」
「っ!?」
デメトリオ国王は、その名前を聞いただけで身体が固まる。
「……なんだと」
「冒険者ギルドからの情報では、髪色は白銀でくせ毛。目の色は暗い色とだけしかされていません」
「それが、アレである可能性は」
「年齢的には、無理があるかと。むしろ、そのお子様の可能性の方が」
「なんということだ……人族の血の混じった者が増えているというのかっ!」
怒りで青白かった顔が、赤くなっていく。
「探せっ、探し出して……消せっ」
「貴重なエルフの子供ですが」
「例え、貴重であろうがっ、可能性があるのなら消すのだっ」
肩で息をしながら、怒鳴り散らすデメトリオ国王を、宰相は冷ややかな目で見つめる。
「……畏まりました」
宰相は感情を押し殺した声で返事をし、軽く会釈だけすると荒れた執務室から出ていった。
「……アレはアカシア様に憑りつかれているようなものだな」
ドアの前で宰相の軽蔑しきった声でそう言うと、そのまま振り返りもせずにその場を立ち去ったのだった。
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