第7話
妹への溺愛に反して、俺に対する両親の扱いは、まるで腫物にでも触るようなものだ。いや、むしろ触れたくもない、そういう風にしか見えない。
だから、できるだけ両親とは接触しないようにしている。
それが、俺自身が苦しまないで済む方法なのだから。
俺は小さい頃から、よく『見える』子供だった。『見える』というのは、そう、巷でよく言う霊感的なものなのだろう。
はっきり、幽霊が見えるとかではなくて、黒っぽいモヤモヤしたモノを見ては両親に、あれは何? だの、なんかいる、だのを言い続けた。しかし、二人とも、俺の訴えることをまったく信じてくれなかった。
気のせいだ、錯覚だ、と言うだけで相手にもしてくれず、慰めるようなこともなかった。
結果、五歳になる頃には、両親は言葉にはしないものの、俺のことを、面倒くさいモノ、あるいは気持ちの悪いモノのような扱いをしだしていた。
その決定打となったのは、俺のプチ家出をした時だった。
妹が生まれたばかりの頃、赤ん坊の面倒にかかりきりだった母親。その頃から、もう見えていた俺は、妹の育児を理由に、すでに母親には相手にされなくなっていた。
当時、五歳のガキだった俺は、それが寂しくて仕方がなかった。悔しくて、家から歩いてすぐの小さな公園にプチ家出を実行したのだ。
今の俺からしてみれば小さな公園といえど、五歳のガキにしてみれば、そこそこ大きな公園だった。
季節は冬。日が落ちるのも早い。
遊んでいた子供たちが、どんどん母親に迎えに来てもらっては帰っていく。だけど、俺には迎えに来てくれるような人はいなかった。
宵闇が迫り、赤く染まる夕焼けが残り少なくなった頃。
街灯がポツンポツンと灯り始める。その頃には、公園には俺一人だけしか残っていなかった。いつまでも迎えに来てもらえないことに、自分は見捨てられたんだ、とポロポロと泣きながらブランコに揺れていた時。俺の眼の端に、あるモノが見えてしまった。
それは、誰もいない公園の雑木林の方から、フラフラと揺らめきながら這い出てきた黒い影。
最初は、小さくて黒くモヤモヤしたものだった。それだったら、いつも見ているモノと変わらない。ちょっとだけ怖いと思ったけれど、俺のいるところからは少し距離もあったし、いつもならしばらくすれば消えていくはずだった。
それなのにその黒い影は、だんだんと大きくなっていった。
ただ揺れているだけのその黒い影に、暫くの間、目が釘付けになる。
黒い影が大人くらいの大きさまで膨らんだ頃、急にピンッとまっすぐに固まった、かと思ったら、ジリジリと動き出した。それはけして早い動きではないものの、目的をもって動いているように見えた。
――ブランコに乗っていた俺に向かってきているように。
固まっていた俺は、ちょうど移動豆腐屋のラッパの音が響いてきたのをキッカケに、弾けるようにブランコから飛び降りた。
そして、黒い影から逃げたい一心で公園を飛び出した。
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