第78話
「さてと、へリウス様だけど」
そうだ、肝心なのは、それだ。
「もうすぐカイドンの街に入るはずよ。昨日の時点で、隣町には着いてたからね。ただ問題は、さっきのご領主様よ」
はっきり言って、スマホもネットもないこの世界で、どんな情報網を持ってるんだ?
連絡を取る魔法があるのは聞いてたけど、それも誰でもっていう訳ではないっていう話だけど。
しかし、恐らくへリウスだとわかったら、街に入る前に、領主の館に連れていかれる可能性が高いだろう、というのが、お姉さんの話。
「腐っても、一応、ウルトガの元王族だからねぇ」
へリウスは腐ってはいないとは思うが。
まぁ、それだけ、へリウスがこちらの国でも気を遣う存在ではあるということなのだろう。全然、そんな感じじゃなかったけどな。
「へリウス様は嫌がりそうだな」
「ええ。もしかしたら、強引にうちに来そうだけど」
ニヤニヤ笑っているあたり、獣人というのは、思った以上に好戦的なのだろうか。
「ああ、それと、聖女様がお迎えに来て下さる予定になってるわ」
「え、誰ですって?」
「聖女様。へリウス様が転移の依頼をしてるらしいわよ? 船での移動も時間はかかるものの、できなくはないけれど、あなたみたいなお子様に、長時間の船旅は厳しいでしょう?」
――は? この世界には『聖女様』なんていうのが存在するの!?
ちょっとその事実についていけない俺。
いや、精霊のエアーとかがいるんだから、いてもおかしくはないんだろうけれど、その『聖女様』っていうのに、たかだかちびっ子な俺を隣の大陸に連れて行くためだけに、その転移とかをお願いしてもいいものなのか!?
呆然としている俺をよそに、2人は何やら話をしているようだったのだが、唐突にそれが止まった。ドアがいきなり開いたのだ。
「なんだい」
お姉さんが、すげー不機嫌そうな顔になる。
入ってきたのは、たぶん、この店のスタッフのようだ。だいぶ慌てている。
「す、すみませんっ、あの、ご領主様が、その」
「チッ、早いな……誰が売ったんだ」
「いえ、あ、そのっ」
『ロゴスっていう男だな。奴が領主の館から出てくるのを、精霊たちが見ていたよ』
「えっ!?」
「っ!?」
いきなりエアーがしゃべりだした。
それ、俺が聞いても、誰も信じないヤツ!
だけど、お姉さんも一瞬、驚いたように見えたけれど……。
「もしや、精霊様が」
「え、お姉さん、聞こえたの?」
「おや、お姉さんと言ってくれるのかい、いい子だねぇ……ロゴスを捕まえてきな」
「はひっ!」
おう……こ、怖いよ。絶対、狼の獣人を怒らせてはダメだ。
「しかし、もう、誰かが迎えに来てるってことだろうね……まいったねぇ。精霊様、どうしましょう?」
『うーん、ハルのいうへリウスかわかんないけど、狼獣人が門をくぐったって。そいつが来るのを待つ間の時間稼ぎをしてもいいんじゃない?』
「へリウスが!?」
「もうですか!? どれだけ急いで来られたのか……ぼくは、本当にヘリウス様に大事にされてるようね」
にっこり笑ったお姉さんに言われた言葉に、ちょっとだけ、俺は照れくさくなった。
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