第60話

「お、おいっ!?」


 目が覚めると、そう叫びながら俺は天井の方へと手を伸ばしていた。


「……なんだったんだ、アレは……そもそも、出戻りって何だよ、それに、ミサエって誰だよ?」


 ゆっくりと身体を起こしてみるが、なんだかフラフラする。

 落ち着いて周りに目を向けると、ここはギルマスの部屋ではないようだ。どこかの薄暗い小部屋……いや、倉庫みたいな所か。古びた木箱がいくつか積み上げられている。少し埃っぽい。おかげで、服は埃まみれ。

 そんな場所で、床に直置きとか、子供にすることじゃないだろう。ちょっとだけ、ムカッとする。この状況は誘拐されたのだろうか。


 ――紐で縛られてないだけ、マシか。


 外からの音は聞こえてこない。いったい、ここはどこなんだ。

 俺は立ち上がると、周りを確認していく。窓は高いところにしかな。その窓から入ってくる光からも、まだ、外は明るい時間なのだろう。木の箱を登って、どうこうできる感じでもない。


「まいったな」

『マイッタナ?』

「え」


 いきなり聞こえてきたのは、子供みたいな声。


「誰かいるのか?」

『ダレカイルノカ?』

「……真似するな」

『マネスルナ』


 そう答えてから、クスクスと笑う声が聞こえて、俺は幽霊か、とビビっていると、目の前に、野球ボールくらいの大きさの緑色の光の玉が現れた。それがふよふよと浮かんでいる。


「……なんじゃこりゃ」

『ナンンジャコリャ』


 こいつがしゃべってたのか!

 それから、夢の中であのオネエが言ってた言葉を思い出した。


「もしかして……これが精霊?」


 俺の言葉に、今度は何も言わずに、勢いよく上下に動き出した。


「お、おお……なるほど……って、お前、何か出来るのかよ」


 どうみてもただの光の玉にしか見えず、話せても、俺の言葉を繰り返すだけ。下手な家庭用のAIロボットよりも会話が成り立ってない。意味あるのか? なんて思ってたら。


 ズドーンッ


 光の玉から、いきなり何かがドアに向かって発射したかと思ったら、思い切り破壊されてた。びっくりして、俺は固まった。

 そんな俺の目の前で、緑の玉は、嬉しそうに? ぴょこぴょこ動いている。


「なんだっ! 何が起こった!」


 どこからか男の怒鳴り声が聞こえてきたことで、ハッとした。慌ててローブのフードをかぶり、木箱と木箱の間に出来た小さな隙間に隠れる。光の玉は、もれなく俺の頭の上だ。


「うお、なんだ、これ。ちょ……おいっ! チビが逃げたっ!」


 知らない男が、廊下の先に怒鳴っている。慌てているせいか、中をまともに探すこともしない。結構、お馬鹿か。後からやってきた男も同様だったようだ。


「くそっ、チビでもエルフはエルフってことかっ」

「何やってんだよっ、せっかくギルドからかっぱらってきたのにっ」

「そんなことより、さっさと探せっ」


 そう言うと男たちは部屋から離れていく。


「……なるほど」


 ギルド主体でやりやがったか、と思ってたんだけど。俺が意識を失っている間に、連れ去られたってことなんだろうか。どれくらい時間が経っているのかがわからないし、へリウスは気付いているんだろうか。


「くそっ、こういう時に、救援に来てくれる封筒があればよかったのに」


 そうは言っても、未だに、それに反応した者が現れたわけではない。近くに助けてくれる者がいなければ無意味だ。


「透明にでもなれれば、奴らに見つからないんだろうけど」


 そうポツリと呟いたら、頭上にいたはずの緑の光の玉が、目の前に降りてきた。


「そうは言っても、無理なものは無理か。とにかく、ここから逃げ出さないと」


 隙間からずるずると抜け出して見ると。


「……おいおいおい。なんだよ、この数は」


 いつの間にか、部屋の上の方に、すごい数の光の玉が浮かんでいた。

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