第61話
無数の光の玉には、それぞれに色が付いていた。先ほどの緑のもそうだけれど、黄色や赤、青など、濃淡の違いはあるものの、なかなか、壮観な風景だ。
呆然と見ていると、その光の玉の中から、ぽよよんっと一つだけ目の前に現れたかと思ったら……人型になった! ……と言っても、掌サイズだけど。色はさっきの緑の光の玉と同じ。ワンピースみたいなのに髪が長いから女の子か?
『急いで逃げないと、戻ってくるぞ?』
「はっ!?」
さっきまでの片言のヤツとは違って、こいつはちゃんとしゃべる!
それも偉そう! 女の子じゃないのか?
「お、お前は話せるのか?」
『ああ。さっきのヤツは好奇心旺盛でな……加減もできないひよっこさ』
「ひ、ひよっこ……」
『それよりも、奴らの気配が動いてる。早く、逃げろ』
「そう言われても、俺の走るスピードじゃ、すぐに捕まっっちゃうよ」
足元を潜り抜ける、とか、そんな神業が俺に出来るとは思えない。
『うーむ。精霊王様であれば、お前ごとき、一瞬で飛ばせるんだが』
せ、精霊王? なんか、強そうなヤツの名前が出てきたぞ。それに『飛ばせる』って何だよ。
『よし、仕方ない。皆、集まって、この者の周りを包みこめ!』
「わ、わ、わ~!?」
人型の精霊の掛け声とともに、色んな色の光の玉が俺の周りに集まりだした。
『よし、皆で隠蔽するぞっ』
『!!』
無音ながらも、精霊たちが気合を入れているのが伝わってくる。
「い、隠蔽って」
『黙ってろ。それじゃ、さっさと、この小屋から逃げ出すのだ!』
そう言われて、俺は部屋から飛び出した。
一応、ちゃんと見えるように、俺の目の前には光の玉はいない。それって、目が見えちゃうんじゃ? と思ったけど、そこはうまい具合に出来てるみたいで。
「おいっ、あんなちびっこいんだ、たいした距離は逃げられめぇ、さっさと見つけてこいっ!」
俺の目の前で、怒鳴っているのは見知らぬ人族のオッサン。なんか小汚い格好だけど、他の連中も似たり寄ったり。
「アニキッ、ありゃぁ、魔法だろ? 俺たちにゃ、無理なんじゃねぇか?」
すでにビビっている奴らもいるようだ。
「何言ってやがるっ、子供のエルフだ。魔力のコントロールができてなかったから、ギルドでの騒ぎが起きたんだろうが」
「いや、だけどさぁ」
やいやい揉めている脇を、俺は忍び足ですり抜けていく。
本当に、こいつらには俺が見えてないみたいだ。『隠蔽』、すげぇ。これは、あれか、精霊の光による光学迷彩みたいなもんか。
バタンとドアが開いて、数人の男たちが入ってきた脇を走り抜ける。
「……ここ、どこだよ」
振り返れば、俺が出てきたのは、鬱蒼とした森に囲まれている古びた屋敷。見た目はまさに、廃墟って感じだ。他の建物は見られないあたり、完全に孤立しているようだ。
「全然っ、わかんねぇ」
『とりあえず、あっちの道に沿って行けば、最寄りの町に行けるはずだよ』
「おう、そうなの? そこって、俺がいた町?」
『さぁ?』
おいっ!
『でも、ここから近い町って、そこしかないみたいだよ?』
「マジかよ」
なんてやり取りしているうちに、小屋の方から男たちが出てきた。
俺は慌てて、脇道にそれて木の下に隠れた。
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