第62話

 道から少し離れたところを、忍び足で歩く。これはホビット族の村で狩りをする時に教えられた。まさか、こんな所で使うことになるとは思わなかった。

 その道は、時折、馬やら馬車が通り過ぎていくが、さすがに助けを求める気にはならない。あいつらの仲間ではない、と、判断がつかないから。

 俺はただ黙々と歩いていく。

 たまに、精霊の玉が、ふよふよと離れていったかと思ったら、食べられる木の実を取ってきてくれる。お腹いっぱいになっていても、止まらないので、それらはローブのポケットに入れている。今では、溜まりすぎて、ポッコリと膨れている。


 あの屋敷から離れて、何時間経っただろう。そろそろ日が暮れてきた。

 野営をしなくちゃならない、と思った時、こんな森の中じゃ、獣が出てもおかしくないことをも思い出した。下手をすれば、魔物だっている可能性だってある。今まではへリウスが守ってくれていたから、気にならなかっただけだ。


「まずいな……どうしよう……」

『どうかしたか?』


 思わず出た呟きに、エアーが反応した。


「もう日が落ちるだろ? どこかで野営しなきゃと思ったんだけど、俺、何も持ってないからさ」

『ヤエイ? ああ、野営か!』

「今までは運よく、獣や魔物とかには出会わなかったけどさ、夜になったら、わからないだろ?」

『大丈夫だと思うぞ?』

「へ?」


 なんと、精霊たちのおかげで、魔物たちは避けてくれてるらしいのだ。一つ、二つくらいじゃ、効き目はないのだけれど、これだけ大量にいると近寄ってこないのだとか。


「すげぇ……」

『もっとも、こんなに集まることは滅多にないがね』

「それでも、凄いよ」


 これが人の目には見えないっていうのは、残念なところだけれど、今の俺にはありがたい。精霊たち自身の光のおかげで、すでに暗くなっている森の中でも歩けている。


『……♪』

『なるほど、ハル』

「うん?」

『少し左奥に行ったところに、大きな木があるんだが、そこにハルが入れそうなくらいのうろがあるらしい。コイツが見つけてきたんだ』


 そう言って、エアーの隣に浮かぶ青い光の玉がぽよぽよ動いた。なんか自慢気に見えるのは気のせいだろうか。


「うろ? ああ、穴が開いてるってこと?」

『ああ。そこで今日は休むのはどうだ』

「そうだね……俺もいい加減、疲れたしな」


 実際、歩くペースも落ちてきている。青い光の玉が先行して目的の木へ行くのを、足を引きずるような感じでついていくと、本当に大きな木があった。


「おおお……」


 見上げたところで、夜空すら見えない。


『あそこだな』


 エアーに言われて目を向けると、光の玉たちが中に入って明滅している。なんか楽しそうだ。


「あれだけ大きいと、蜂とか虫がいたりしない?」

『大丈夫だ。あそこに先住するものはない』


 そう言われてホッとする。中をのぞくと枯れ草が敷き詰められていて、俺が横になっても十分な広さがありそうだ。


「はぁ……少し休もう。さすがに……俺も……疲れた」


 腰かけた瞬間、俺の疲れは限界だったみたいで、簡単に意識がとんでしまった。


*  *  *  *  *


「お、やっと見つけたぜ……おい、おい、起きろ」

「う、う~ん……えっ!?」


 知らない男の声ととも、身体を揺らせて、無理やり起こされた。おかげで眠気もぶっとんだ。まさか、精霊たちがいなくなったのか、と思って、周りを見るが、少なくない数の光の玉は浮かんでいる。


「おい、大丈夫か?」


 そう優しく言われて、改めて男へと目を向ける。長い金髪のくせ毛を一つに結んでいて、その金髪からは大きな白い耳が出ている。


「あ……獣人……」


 すげぇ、イケメン。へリウスもイケメンだったけど、アレはワイルド系で、こっちのはもうちょっと細マッチョな王子様系って感じ。獣人って、みんなイケメンなのか?


 ……って、そんなことを考えている場合じゃない!

 まさか、あいつらの仲間か!?

 ヤバいっ!


 だけど、俺はびっくりし過ぎてて、反応が遅れてしまい、しっかり捕まえられてしまったのであった。

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