第9章
第63話
今俺は、狼獣人に抱えられて移動中。
「おっし、もう街が見えてきた」
ご機嫌な声でそう言っている狼獣人。最初のうちこそ、ジタバタした俺だけど、エアーがこいつは悪いヤツじゃないって言うのと、悪い奴らが近づいてると教えてくれたので、大人しくしてた。
コイツのスピード、へリウス並み。すでに日が落ちてるっていうのに、大きなリュックに俺という荷物を抱えながらスイスイ道を駆けていく。ゆっくり走っている馬車なんて、追い抜いてるし。
そして、このスピードについてきてるのはエアーだけ。他の精霊の光の玉たちは、森の中で別れた。あの最初に声をかけてくれたヤツも、森で別れることになったのは、少し残念だったけど、力のない精霊たちでは仕方がないのだとか。
いよいよ街に入るってところで、俺はフードでしっかり頭を隠す。また変なのに絡まれるのはゴメンだ。
「身分証を」
「ほいよ」
街の入口で狼獣人はカードを見せると。
「ハッ!? もしや、『黄金の白狼』!?」
「げぇ、やめてくれよ、それ」
「はっ! し、失礼いたしましたっ!」
「で、通っていい?」
「ど、どうぞっ!」
……なんか、コイツ、有名人?
おかげで俺へのチェックはスルーされたけど。
狼獣人は、こじんまりした宿屋に入ったかと思ったら、決まった部屋でもあるのか、すぐに鍵だけ渡されて、そのまま部屋へと駆け込んだ。
「ふぃ~!」
ドアを閉めたとたん、狼獣人は大きなため息をついたかと思ったら。
「おっし、とりあえず、ここまでくりゃ、大丈夫か」
俺をストンと床に下した。そして、俺のフードをとりやがった。
「な、何すんだよっ!」
慌てて、もう一度かぶろうとしたんだけど。
「ちょ、ちょっと確認させろ」
そう言ってじーっと、見ると「よしっ、間違いねぇな」と言って二カッと笑った。
「お、お前、誰だよ」
「おお、そうだったな。その前に、荷物降ろしてっと……お前、腹減ってねぇ?」
「え、あ、うん、木の実食ってたから……」
そう言って、俺はローブのポケットから手にいっぱいの木の実を見せる。
「すげぇな、お前。よく、そんだけ見つけられたな」
狼獣人はリュックを床に降ろして、椅子にどっかと座った。
「ほれ、お前も座れ」
そう言われて、俺も椅子に座った。そして落ち着いて部屋の中を見回してみれば、そこそこいい部屋なのがわかった。
「さてと、俺のことだったな。俺はアーロン・ジラート。一応、冒険者な」
「……俺はハル。その冒険者が俺になんの用だよ」
「おいおい、お前さんが呼び出したんだろうが」
「……呼び出す?」
こいつは何を言ってるんだ? と思ったら、狼獣人、アーロンは再びリュックの方へ戻って、ゴソゴソと何かを探している。
「あった、あった」
そう言うと、俺の目の前に掌より少し小さな丸い光の玉を差し出した。
「お前だろ? 『救援の玉』を使ったの?」
「……キュウエンノタマ? キュウ……あ、ああっ! 『救援の玉』!」
そして俺は思い出した。
あのへリウスが泥だらけでテントの中に倒れこんだ時のことを。あの時に使った封筒のことか! って、今頃!? ある意味、ナイスタイミングではあるけどさ!
「まぁ、お前が無事でよかったけどよぉ……それよりも、へリウス様はどうした?」
真剣な顔で聞いてきたアーロン。
それは、俺の方が知りたい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます