第14話

 このすーっと抜けてく感じは、何度も体験しているわけではないけれど、慣れないものだ。この気持ち悪さが落ち着くのを待つために、目をギュッと閉じてその場に蹲っていると、背後でガサガサという音が聞こえてきた。

 その不安な音に、ドキリとする。こんな森の中にいるのなんて野生の動物しか思い浮かばない。

 ウサギとか狐とかだったらいいんだけど、クマみたいなのがいたらやべぇな、と思いつつ、振り向いて目を薄っすら開けてみると、なんか、ちんまいおっさんが、掻き分けた草の間から、びっくりした顔で俺を見ていた。


 ――そう、ちんまいおっさん。


 たぶん、大きさでいえば今の俺と大差なさそうではある。茶色いモジャモジャの髪に、西洋人のように濃い顔。オフホワイトのシャツに茶色のジャケット、それに裸足でこんな森の中を歩いていることにびっくりする。

 なんかどっかで見たことがある、と思ったら、ほら、あれだ。なんかファンタジーの映画に出てきた小人みたいな奴らみたいだ。

 それに気付いて、俺もびっくりして目を見開く。まさか、本物? 

 ちんまいおっさんが、なんか作り笑顔でじわりじわりとこっちに寄ってくる。まるで、小動物を捕まえようとしているかのように、だ。


 ――狙いは俺か?


 映画通りなら、けして攻撃的な生き物じゃないはず。

 うん、でも、なんでそんなのがいんの? 

 唖然としている俺を気にすることなく、ちんまいおっさんは、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


「ほれ、でーじょぶだー。こわぐねぇ。こわぐねぇぞ」


 ちんまいおっさんの、まさかの田舎弁まるだしに、正気に戻る俺。

 そして今さら、俺はおっさんにケツを向けてる自分に気が付いたが、まだ、身体に力が入らないみたいですぐに立上れない。俺は、みっともなかろうと、赤ん坊みたいだろうと、両手をついてハイハイで逃げようとしたんだが。


「でーじょぶだー! おらんとこ来い。こんなとこじゃぁ、魔物に食われちまうだ!」

「魔物!?」


 おっさんの言葉に固まった途端、簡単に抱え込まれる俺。


「ふえっ!?」


 そして、おっさんが一気に走り出した。同じくらいの体型のはずなのに、軽々と森の中を走っていく。

 そのスピードも凄いんだけどっ!?


「ま、魔物って!?」

「でーじょぶだー! おらんちさ行けば、魔物なんかきやしねぇ!」


 いや、全然、説明になってないしっ! 

 ていうか、なんか臭うっ! おっさんの体臭かっ!?


「く、臭いっ!」

「お、す、すまんっ、臭いか? こりゃ、魔物除けをつけてっからな。家、着くまで、がまんしてけろ」


 慌てたおっさんは、声を殺しながら、そう言った。

 臭いで魔物が寄って来ないの? でも、こうやって走って音立ててったら、ヤバくない?!


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