第40話

「なんでも、そいつを見つけたら、白金貨一枚もらえるらしいぞ」


 いつの間にかカウンターの中から出てきたおっさんが、へリウスに並びながら、掲示板を見ている。


「は、白金貨だと!?」


 白金貨というのが金貨百枚分なのは、ボブさんたちから教わった。使うことはないだろうけど、と笑いながら教えられて、そりゃそうだな、と思った。

 金貨の相場が、だいたい日本円で十万円くらいだろうな、と予想しているので、そうなると……一千万だ。マジで、何したの、コイツ。

 俺もびっくりしながら、その手配書の顔を見つめる。


「最初は、金貨十枚だったんだがな。これを貼りだして、まだ三か月くらいだっていうのに、どんどん値段が上がっていってるからなぁ。今や、白金貨一枚だ。よっぽど、急いでるんだろうよ……まぁ、お前さんも、見つけ次第、エルフどもにでも教えてやんな。いい稼ぎになるだろうよ」

「そうだな」


 へリウスが口元だけニヤリとしながら、張り紙をジッと見つめている。


「なぁ、へリウス、なんて書いてあるの?」

「うん?」

「なんだ、坊主、まだ文字が読めねぇのか」


 そう言うとおっさんが、ご丁寧に俺のために読み上げてくれた。


「こいつは『ハル』っていうエルフの男らしいな。随分と御大層な名前がついてるもんだよ」


 げ。まさかの、俺と同じ名前かよ。

 エルフにとっては重い意味のある名前だって聞いてたのに、俺以外にもいるとは思わなかった。つい、まじまじと見てしまう。


「年齢は三百才」

「さ、さんびゃくっ!?」

「うん? エルフで三百才は珍しくもないぞ? やつらにしたら、ちょうど働き盛りくらいだろう」


 おっさんの言葉に、びっくり。でも、そうか、こっちの世界でもエルフは長寿なんだな。映画とかでも、すごい年齢で描かれていたのを思い出す。

 とりあえず、そんな年齢であれば、俺と同じ名前であっても関係ないだろう。そう思ったら、ちょっとだけ、ホッとする。犯罪者と同じ名前とかって、やっぱり、嫌だもんな。

 へリウスは、必要な情報は見たのか、再びカウンターの方へ向かう。おっさんは、すでに戻っている。


「それじゃぁ、とりあえず、途中まででもいいんで、行ける馬車はあるかい」

「おう、だいぶ手前になるが、ヨドドの町までだったらあるぞ」

「なんだ、ヨドドじゃぁ、俺の足でも二日ありゃぁ行けるところじゃねぇか」

「あはは。確かに、狼の獣人の兄さんなら、馬車がなくても行けそうだが」


 そう言われると、馬車の代金がかなりもったいない気になってくる。


「そこのチビさんには厳しいんじゃないかい? ヨドドと言っても、途中にゃ魔物も出るぞ」


 おっさんが、心配そうな顔でそう言ってくる。なかなか、いい人なのかもしれない。


「へリウス、俺を負ぶっても、同じくらいで行ける?」

「あ? 当然だろう。俺の息子よりも軽いんだぞ?」


 へリウスの子供は俺よりもデカいらしい。どんな子なのか、気になるところだ。


「ヨドドまでの魔物も、この辺じゃフォレストウルフくらいだろう? 一応、魔物除けも持ってるし、野営一回くらいの徹夜程度、問題ない」

「……じゃぁ、行っちゃう?」

「行っちゃうか?」

「おいおい、本気かい」

「こう見えて、Aランクの冒険者なんでな」


 へリウスがニヤリと笑いながら、首から下げてた金色のギルドカードを見せた。俺の持ってる鉄のカード思い出して、ちょっと、羨ましくなる。


「な、なるほどな……まぁ、途中に野営用の場所もある。そこなら他の乗合馬車もいるかもしれねぇしな。もし、本気で行くなら、十分に準備だけして行くんだな」


 俺たちはおっさんの言葉に感謝しつつ、建物から出た。その頃にはすでに靄も晴れて、朝日が差していた。


「マジで走っていくのか?」

「うん? マジ?」

「あ、えーと、本気かってこと」

「そうだなぁ……一度、冒険者ギルドを覗いていいか?」

「? なんで?」

「乗合馬車が出てないとなると、護衛を雇って行くような奴らもいるんじゃないかってな」

「なるほど……でも、俺みたいな子供連れで、雇ってくれるかな」


 少し心配になる俺。普通に考えて、お荷物なのは確かだもの。


「まぁ、それは見てから考えよう。ダメなら、本気で走って行くだけだしな」


 肩に乗ってる俺に、ニヤリと笑いうと、へリウスは迷うことなく、冒険者ギルドの建物へと向かうのだった。

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