第26話
それから二日後、俺は村を出ることになった。
一人ではない。なんとボブとメアリーさんも、途中まで一緒に行ってくれるというのだ。
「ちーとばかり昔の知り合いに連絡とれたんでな。久しぶりに、会いに行くついでじゃぁ」
そんな呑気に言ってるけれど、ボブさんたちはしっかり長期に旅に出る、というか、ここに二度と戻って来ない気なのは、見てればわかる。
だって……家の中の家具とか、食材とかまで、近所に配ってるんだもの。
「いいの?」
「ん~?」
俺は心配になってボブさんに聞いた。
「大丈夫だぁ。ハルさ、送り届けたらぁ、息子んとこさ、行くからよぉ」
「そうなの!?」
聞いてないよぉ、と恨めし気に見ると、いつものような朗らかな笑い声をあげるボブさん。
「前から言われてたんだぁ。一緒に暮らすべ、とな」
まだまだ夫婦水入らずでもいいと思ってたんだけれど、三人目の孫が生まれるらしい。お嫁さんの実家は、長男夫婦のところの子供の世話で手伝いを断られたとか。そうなると、頼れるのがボブさんたちしかいない、となったそうだ。嫁姑問題、勃発しなきゃいいけどな、と、内心思った俺。メアリーさんだったら、大丈夫かな?
「んだば、行ぐかぁ」
大きなリュックを背負ったボブさんと、メアリーさん。俺は彼らの後をついていく。
二人の格好は、ちょっとそこまで薬草を取りに行ってくる、ってな感じに身軽なんだけど、俺の方は、メアリーさんお手製の皮のフード付きのマントに、しっかりした皮でできた靴を履いている。靴といっても袋状になっているのを、足首を革ひもで結んでいるタイプだ。メアリーさん悲願の薄布の服は、残念ながら諦めてもらって、息子さんのお古のシャツに革製のベストを着ている。長旅にそれは向いてないだろ、と俺とボブさんの説得した結果だ。それに小さな弓と矢筒を背中に背負っている。遠目から見たら、ホビットだと思われるはずだ。
ちなみに、フード付きマントは俺のお気に入りだ。内側にはウサギの毛皮が貼ってあって、なかなか暖かい。メアリーさんからは、尖った耳が見えないように深くかぶるように言われてる。
「気ぃつけてなぁ」
「また、戻って来い~」
「ほれ、これ、餞別だぁ」
村の出口につくまでに、村人たちから声をかけられ、色んな荷物を持たされる。そのたびに、ありがとう、ありがとう、と返しては、ウェストポーチの中に、どんどんと詰め込んでいく。
そう、ウェストポーチなのだ。まさに、夢のマジックバッグだ。これ、ボブさんの冒険者時代に使ってたヤツ。どれくらい入るのか、ボブさんもわからないらしい。念のためにと、メアリーさんの一回り小さいのも貰った。これはそのままウェストポーチの中に仕舞ってある。二人とも、もう長旅にも冒険にも行かないから、というので貰ってしまったのだ。
だったら、二人の荷物も俺が預かるよ、と言ったのだけれど、万が一、急に別行動をとることになったら困るから、と断られてしまった。きっと、その可能性もある、ということなんだろう。それを聞いて、身が引き締まった。
* * *
薄暗い魔の森の中、先頭を進むのは、ボブさん。大きな鉈を振り回しながら、道のないところを草を掻き分けながら進む。普通に行商人たちが使う道もあるにはあるけど、万が一、面倒な連中と鉢合わせしないようにと、獣道を選んで進んでいる。
真ん中を俺が歩き、殿がメアリーさん。まだまだ五歳児体型の俺が、戦力にならないってのを痛感させられる。
「知り合いの人って、どんな人?」
足元を気を付けつつ、ボブさんに問いかける。
ボブさんが頼るくらいには、きっと信頼できる人なんだろうけど、あのモブたちのことを思うと、少しだけ不安だ。ヘンリーはいい奴だったけど。
「ん~? んだなぁ、獣人はわかるかぁ?」
「じゅうじん?」
「んだぁ。獣の耳と尻尾をつけてるヤツだぁ」
「お、おお!? ケモミミかっ!」
ボブさんの言葉に、テンションがあがる。
ケモミミとか、モフモフとか、いいじゃないか!
「けもみみ?」
後ろにいるメアリーさんが不思議そうに聞いてくる。
「うんっ! 獣の耳でケモミミ。フフフ、どんなお耳なのかなぁ」
でれっとだらしない顔になる俺。だって、男の夢でもあるじゃん?
「あ~、お前、まさかと思うが、ガキのくせに、ませたこと考えてねぇがぁ?」
後ろを振り向いて呆れた顔をするボブさんに、俺はてへへと笑って返す。
「え? あ、うーん、ケモミミって言ったら、可愛いウサギ女子とか、猫耳女子とか? 触らせてくれるかなぁ?」
「はぁ……」
ボブさんが呆れたような溜息をついて、後ろのメアリーさんは爆笑している。魔物除けをつけているにしても、そこまで大笑いして大丈夫なのかと思ったら、まだギリギリ、村の結界の端っこにいるらしい。それにしたって、そこまで笑う?
「そんただ期待してるとこ悪いがなぁ、ぜんっぜん違うからなぁ?」
「あははははっ! 狼の獣人だぁ。ちゃんと男だぞ。それにぃ、勝手に耳とか尻尾さ、触ったら怒られるぞ?」
「んだぁ。まぁ、すげぇ強ぇヤツだぁ。確か、ヤツもAランクの冒険者じゃなかったかぁ? せっかくだぁ、ビシバシ、鍛えて貰えばええ」
「あはははははっ」
爆笑が止まらないメアリーさん。すんごい馬鹿にされてる!
だいたい、ケモミミって言ったら、可愛い系女子じゃないのか!?
「えぇぇぇ!」
俺の悲しい悲鳴は、森の中に吸い込まれていった。
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