第74話

 残念ながらエアーも光の精霊たちも、アーロンに姿を見せることができるほどの力はないのだそうだ。その代わりに。


「うわ、すげぇな」


 光の精霊たちが、俺の容貌をちょちょいっと変えたのを再現してくれた。残念ながら、俺には見えないんだけど。


「こんなのできるんだったら、ずっとお願いできないのか?」

『何言ってんだ、こいつ。無理に決まってんだろ』

「お、おお」


 エアーの剣幕に、思わず身を引いてしまう俺。


『あれだってな、一瞬だからできるんであって、光の精霊たちにしたら、かなり大変なんだぞっ』

「そうだったの? 悪いことしたね」


 俺とエアーとの会話に入れないアーロンは、首を傾げる。


「アーロン、エアーが言うには、あれは一瞬だからできたんだって。ここにいる光の精霊は、エアーとは違って、そんなに力がないらしい」

「そのエアーっていうのは、ハルと会話ができるのか?」

「そう言ってるじゃん」


 アーロンは、うーん、と言いながら周囲を見回す。エアーを目視できないのが、不満なのか、落ち着きがない。


「じゃあさ、エアー、そこのカーテンを動かしてみせてくれるか?」

『仕方ねぇなぁ』


 そう言って、ひょいっとカーテンの裾を撫でて動かして見せる。


「お、おおっ!?」


 俺には単純にエアーが動かしているようにしか見えないんだけど、エアーの見えないアーロンにしてみれば、不思議なものに見えるんだろう。


「じゃ、じゃあ」


 アーロンは他の物が動くのを見たいようで、室内をきょろきょろ見ている。


「エアー、アーロンに風をあててみて」

「え」

『おらよっ』

「ぶわっ!?」


 思い切り風がアーロンの顔面にぶつかった。


「は、はは、はははははっ!」


 いきなり目を爛々とさせて、アーロンが笑いだす。完全にヤバいやつみたい。


「すげー、すげーな、すげーよ、ハルっ」

「う、うん」

「魔術とかじゃない、純粋に精霊の力なんだろ?」

「……俺は、まだ使えないから」

「そ、そうだったか。いや、しかし! 精霊に頼めばこんなことも出来るんだなっ。確かに、精霊魔法を使う奴もいるにはいるが、あれはちゃんと定型の呪文のようなものがあるんだ。ハルのはそういうんじゃない」

「へぇ、そういうのもあるんだ」

『そういうのは高位の精霊と契約をしている奴らだな』

「そうなの? エアーはできない?」

『ハルには悪いが、できないぞっ』

「……そこ、威張るとこ?」

「何だって?」


 アーロンが俺とエアーのやり取りに気付いて聞いてきた。


「うん、エアーはその精霊魔法っていうのは出来ないって言ってる」

「え?」

「ん~、たぶん、エアーはまだ形になって浅いからかな?」

『そういうこと!』

「精霊なら、できるってわけじゃないのか……そういえば、さっき、光の精霊って言ってたよな」

「うん」


 俺が手を差し出すと、小さい光の玉たちが集まってきた。たぶん、これが光の精霊たちだ。これも、やっぱりアーロンには見えないらしい。


「普通、精霊といえば、火と水、土と風の4種類って言われてるんだが……光にも精霊がいたんだなぁ」

「そ、そうなのっ!?」

『精霊王様は確かに、その4種類だよ。でも、精霊王という上位の存在はいなくても、光や闇の精霊はいるんだ。あまり力が強くないってだけで、ちゃんと存在してるんだぞ』

「……へぇ……」


 初めての精霊情報に、俺は感心しきりだった。

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